スーパーCEO列伝
株式会社アカツキ
文/吉田祐基(ペロンパワークス・プロダクション) 写真・画像/アカツキ | 2019.04.10
株式会社アカツキ
創業からの事業で今なお収益の要。2011年から続くシリーズの人気作「ハチナイ」が初アニメ化され、デジタル領域は一つ上のステージへ。明確なコンセプトの基で制作される各タイトルは独自の世界観を築き、コアなファンを醸成することに成功。
2016年6月より本格的にスタートした、リアルな体験を提供する事業。ASOBIBAとアプトを統合し生まれたアカツキライブエンターテインメントを筆頭に、感動を呼ぶレジャー、新感覚のアクティビティなどを発信。
アカツキは自社のことを単なるゲーム会社ではなく、デジタルとリアル双方の領域において「心を動かす」を軸に体験をデザインする、“エクスペリエンスデザインカンパニー”と表現する。すべての元になるのは、同社が掲げる「ハートドリブンな世界へ」というビジョンだ。下図のように現在は、創業時からのゲーム事業をはじめ、アミューズメント、アウトドア、フード、ウエディングなど10以上の分野でビジネスを展開している。
»ハートドリブンって何? 尖ったコンテンツを生み出すエモい組織づくり【塩田元規代表インタビュー】
アカツキの急成長を支えるのが、創業時からの柱であり、なおかつ現在でもアカツキの収益の大半を占めるモバイルゲーム事業だ。実際に2019年度第3四半期の決算を見てみると、非ゲーム関連の収入が3.03億円なのに対し、ゲーム関連の収入は61.19億円と収入全体の95%以上にも及ぶ。
直近のトピックとしては、自社オリジナルIPの青春体験型野球ゲーム「八月のシンデレラナイン」(ハチナイ)が、2019年4月よりテレビアニメとして放送開始。アプリにおいては、アニメと連動した施策によって、さらなるユーザー満足度の向上や登録者数の増加を狙う。
そのほかパートナー企業と共同開発した人気タイトルが、日本のみならず海外においてもアプリダウンロード数を着実に伸ばしている。
モバイルゲーム事業の強みは、自社オリジナル・他社との共同開発の両輪を回していること、グローバルへの展開力、高いクオリティのプロダクトに加えコミュニティ運営や熱狂的なファンづくりのノウハウを持っている点にある。モバイルゲーム事業はこれまでと変わらず、今後もアカツキの成長を加速させる基幹事業となるだろう。
アカツキは近年、デジタル以外の領域として、リアルのなかでワクワクする体験を届けるライブエクスペリエンス事業にも注力している。そのきっかけとなったのが、2016年6月にアカツキグループに加わった、アウトドア・レジャー専門の予約サイト「SOTOASOBI(そとあそび)」を運営する株式会社そとあそびだ。2018年6月にはこれまでのイメージを刷新する大幅なリニューアルを実施し、現在もウェブ予約申込件数を着実に増加させている。
その後、サバイバルゲームフィールド「ASOBIBA」を運営する株式会社ASOBIBAと、パーティークリエーションサービス「hacocoro」を運営する株式会社アプトを関連会社化し、株式会社アカツキライブエンターテインメント(以下、ALE)へと統合。ライブエクスペリエンス事業を一手に担うALEの、さらなる事業拡大が期待される。
2019年3月15日には、横浜中央郵便局の別館部分をリノベーションしてつくられた、複合型体験エンターテインメントビル「アソビル」も新規オープン。地下含め全5階+屋上からなるそれぞれのフロアごとに、「最新テクノロジー」「モノづくり」「キッズ」など異なるテーマを設定し、最新のエンターテインメント体験を提供する。
中でもSNSで話題となっているのが、2階のイベントフロアALE-BOXにある、面白法人カヤックと共同企画した「うんこミュージアム YOKOHAMA」。“うんこ”を題材にしたオブジェやゲームを楽しむことができ、3月15日のオープンから一週間で来場者数は1万人を突破したという。
アカツキはモバイルゲーム事業とライブエクスペリエンス事業という2つの柱に注力しつつも、それらの融合領域においても「心を動かす」を軸に、新たなエンターテインメント体験を創出しようとしている。
ピンポン玉などのボール専用の追跡技術を応用してつくられた次世代卓球アクティビティ「PONG! PONG!」は、デジタルとリアルを融合させたコンテンツのひとつ。従来の卓球のルールで勝敗が決まるのではなく、相手コートに映像として現れるブロックを壊すことが点数につながる。そのため狙うのは、相手コートに浮かび上がるブロックのみ。卓球の上手い下手、年齢に関係なく、実際の卓球を手段とした新感覚のスポーツを体感できる。
次世代卓球アクティビティ「PONG! PONG!」、プロジェクションマッピングのダーツゲーム「FLASH DARTS」はともに自社開発
2018年8月には、日本でもその名を目にする機会が増えてきたプロゲーマーのための、e-スポーツのプロリーグの設立も発表。運営に関しては、アカツキが株式取得で子会社化したスペインに拠点を構える別会社を通じて行われる。
また、アカツキは投資を通じた次世代エンターテインメントの育成にも積極的だ。2017年10月にはエンターテインメント×テクノロジーに特化した「AET Fund(Akatsuki Entertainment Technology Fund)」を設立。これまで培ってきたエンターテインメントの目利き力を生かし、日本の企業だけでなく、アメリカや近年経済成長が著しいインドなど、海外のスタートアップに対してもAR/VR・ゲーム・音楽・スポーツ・ビューティー・ストリーミングといった新しいエンタメの形に投資を行っている。
国内については、2018年11月に塩田代表が直轄する投資専門チームによる「Heart Driven Fund(ハートドリブンファンド)」を設立。スタートアップに限らず、アーティスト・クリエイターなどの多様な才能への投資、他企業とのコラボレーションを積極的に展開している。
さらに、2018年12月にプロサッカークラブ・東京ヴェルディの株式を取得し、スポーツビジネス分野にも参戦。これまでの事業で培った知見を生かし、デジタルマーケティングの強化など事業・運営面のサポートを行っていくという。ゲームやエンターテインメントの世界で得た知見を、スポーツという他分野でどう生かしていくのか、今後の化学反応に注目したい。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美