“超”私的エクストリームな瞬間
株式会社幻冬舎
代表取締役社長
見城 徹
写真/宮下 潤 動画/トップチャンネル 文/高橋光二 | 2015.08.10
株式会社幻冬舎 代表取締役社長 見城 徹(けんじょうとおる)
1950年12月29日、静岡県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。大学卒業後、廣済堂出版に入社。初めて自身で企画した『公文式算数の秘密』が38万部のベストセラーに。1975年、角川書店に入社。「野性時代」副編集長を経て、「月刊カドカワ」編集長に就任、部数を30倍に伸ばす。5本の直木賞作品をはじめ数々のヒット作を生み出す。
1993年、角川書店を退社し、幻冬舎を設立。五木寛之『大河の一滴』、石原慎太郎『弟』、唐沢寿明『ふたり』、郷ひろみ『ダディ』、天童荒太『永遠の仔』、村上龍『13歳のハローワーク』、劇団ひとり『陰日向に咲く』、長谷部誠『心を整える。』、渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』など25年間で24本ものミリオンセラーを世に送り出す。著書に『編集者という病い』(太田出版)、『たった一人の熱狂』(双葉社)、『読書という荒野』(幻冬舎)、サイバーエージェント代表取締役社長・藤田晋氏との共著に『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(講談社)、『絶望しきって死ぬために、今を熱狂して生きろ』(講談社)、松浦勝人との共著に『危険な二人』(幻冬舎文庫)、林真理子との共著に『過剰な二人』(講談社)などがある。
見城氏はまだ駆け出しの編集者だった25歳の時、作家の故・有吉佐和子氏に連れられ、東京・新橋にある高級料理店「京味」に足を運んで以来、会食の重要性を身に沁み込ませてきた。
一例を挙げれば、尾崎豊氏と初めて食事をしたのが六本木のステーキ店「和田門」、坂本龍一氏とは神宮前の「バー・ラジオ」で出会い、毎日のように顔を合わせ関係を切り結んだ。見城氏の輝かしい成果の多くは、会食の場から生まれてきたのである。では、会食の魅力とはどういったところにあるのだろうか。
「胸襟を開いて話ができるところですよ。旨いものを食べ、飲めない人もいるけれど酒が入れば話も弾み、親しみは増し、そして本音も出てくるんです。お互い身近な存在になるには、会食がベストだと思いますね」
なぜならば、会食の場とは、接待をする側の心がすべて相手に伝わるものだからである。
「私は表面的なことが大嫌いです。ついでに言えば、“人脈”という言葉も大嫌い。だから、セミナーや懇親会、異業種交流会の類のくだらない場には行きません。大勢の人間が集まる場で名刺を渡し、通り一遍の薄っぺらい世間話をしたところで、濃密な関係を築けるわけがないからです」と見城氏は喝破する。
では、そんな見城氏にとって最重要の会食をする店選びのポイントとは、どういったものか。「料理が旨いこと、礼儀がしっかりしていること、気分よく楽しく過ごせること、そして驚きがあること」だという。
食事である限り、言うまでもなく味が良いことは鉄則だ。そして、店に入った瞬間のあいさつから帰るまでの間、接客する店員の礼儀作法や態度が良くなければせっかくの場も台無しとなる。
「礼儀も通り一遍のものではなく、『あなたが来られることを店員一同、心からお待ちしておりました。あなたに心から楽しんでいただけるよう、私たちは全力で取り組みます』という気持ちが伝わってこなければダメです」
見城氏は、そのために「店に対して言いたいことは腹を割ってすべて言う」と語る。この店を選び抜き、人を接待するということの重要性を店側に理解してもらうことが不可欠だからだ。さらに、見城氏は仲居さんやギャルソンの一人ひとりまで、コミュニケーションをとり、関係づくりに努めているのだ。
「実際に接客するのは、彼ら彼女らだからです。『見城さんが大事なお客様を連れてこられるんだから、一生懸命やらなきゃ!』と思ってもらわなければ、どうにもなりません。だから僕は、そういう現場の人にこそ好かれないと嫌なんです」
そんな見城氏が、最近頻繁に利用している店が、東京・麻布十番にある『土佐料理 桂浜』だ。店名のとおり、高知料理を出す完全紹介制の高級店である。2015年3月6日にオープンしたばかりだが、見城氏は「すでに20回は来ている」という贔屓ぶりだ。その要因について、次のように言う。
「まず、何といっても料理が旨い。次に、料理長の篠田さんが自らいろいろ対応してくれて、とても気分がいい。料理の説明一つとっても楽しくて、材料を仕入れるのに苦労したことが恩着せがましくなく伝わってくる。そして、必ず毎回、サプライズのメニューをぶち込んでくる(笑)。もちろん、店員の態度もいい。
総じて、接待したお客様が『今日は見城さんにこの店を案内してもらって本当に良かった』と喜んでもらえるんです。間違いがありません」
会食を決定的に左右する店の選択は、もちろん見城氏が行う。それだけでなく、部屋や席はどうするか、どんな料理やワインを出してもらうかといったことまで細々とチェックし、自ら予約を入れているのだ。
「『桂浜』のように完全に通じ合えている店は秘書に予約を任せることもありますが、基本的には自分でやります。そんな些細なことを社長自らがするのか?と思う人もいるかもしれないけれど、こういうことがしっかりできない人は、絶対に大きな仕事などできませんよ」
最後に、見城氏は読者に次のようなメッセージを送った。
「旨いものを食べ、気分よく過ごせて仕事がこのうえなくうまく行く。そんな会食ほど楽しいものはありません。だから僕は365日、会食に全力投球しているんです。毎日やっていると、心が豊かになります。
僕は、会食を日常的にプロデュースできるようになったら、一人前の経営者だと思いますね。そして、『何々さんが通っているなら、一流の店だ』と言われるような存在になってほしい。そういう存在になるために、圧倒的な努力を続けてほしいと思います」
vol.56
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