“超”私的エクストリームな瞬間
株式会社ロボ・ガレージ
代表取締役社長・ロボットクリエイター
高橋智隆
写真/芹澤裕介 動画/トップチャンネル 文/福富大介 | 2017.01.25
株式会社ロボ・ガレージ 代表取締役社長・ロボットクリエイター 高橋智隆(たかはし ともたか)
1975年、大阪府生まれ。立命館大学産業社会学部を1998年卒業後、翌年に京都大学工学部に再入学。2003年、同大学工学部物理工学科メカトロニクス研究室を卒業と同時にロボ・ガレージを創業し「京都大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(KU-VBL)」の入居ベンチャー第一号となる。2009年、株式会社ロボ・ガレージに組織変更。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、大阪電気通信大学メディアコンピュータシステム学科客員教授、ヒューマンアカデミーロボット教室アドバイザーを兼任。代表作に「ロボホン」「キロボ/ミラタ」「ロビ」「エボルタ」「FT」など。
「踊って!」とリクエストすると、「オドルネ♪」と答えてコミカルなダンスを披露、腕立て伏せを始めたかと思えば「ツカレチャッタ……」としゃがみこむ。2013年2月に組み立てパーツが付録になっている『週刊ロビ』(デアゴスティーニ刊)が創刊されると、動画サイト上にユーザー自らが組み立て、アップした「ロビ」の映像であふれかえった。出荷台数は国内だけで10万台以上という大ヒット、家庭用ロボットに約200億円の市場規模があることを証明した。
「ロボット犬『AIBO』がヒットして以降、家庭用ロボットはパッとしませんでした。しかし、今回『ロビ』でようやく、売り方やコンセプトも含めて、いろいろなことがうまくハマったと感じています」
開発者はロボットクリエイターでありロボ・ガレージ代表の高橋智隆氏。この「ロビ」以外にも、グランドキャニオンの断崖をロープで登頂した「エボルタ」や、世界初のロボット宇宙飛行士となった「キロボ」の生みの親でもある。
高橋氏がロボットに興味を抱いたのは小学校入学前、『鉄腕アトム』のコミックを読んで「ロボットをつくる科学者になりたい!」と思ったのが最初。その後、立命館大学の産業社会学部へ進みメーカーへ就職を希望するも失敗。しかし、それをきっかけに「やっぱり幼い頃の夢であり、究極の機械でもあるロボットをつくりたい。そのためには、ちゃんと工学部を出ないと駄目だ」と思うに至る。
1年間の予備校生活を経て京都大学工学部に入学し直した高橋氏は、1年生のときから独学でロボットをつくり始め、「思ったよりうまく動いた」2足歩行ロボットを京大の「特許相談室」に持ち込んだ。すると特許出願、メーカーへの売り込み、商品化まで、トントン拍子に話が進み、卒業の際には「京都大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(KU-VBL)」の施設に第1号として入居することになり、ロボ・ガレージが誕生する。
「ベンチャーに足りないのは信用です。でも、京大発のベンチャーということで、世間は『凄い!』というイメージを抱いてくれました」
これがロボ・ガレージの第一歩となる。
「でも、ロボットが儲かりそうだと思って始めたわけではありません。逆に儲かりそうだと思って、ビジネスを始めるのでは遅いんだと思います。僕の場合は、純粋にロボットが好きで、オタクとして勝手にやっていたら、時代がこちら側にシフトしてきて、他のオタクよりも早く世の中の流れに気づいて、ビジネスに乗せるための行動をしただけです」
高橋氏のロボットは丸みを帯びた可愛らしい外観のものが多いが、これは試行錯誤している内にたどりついた形。原点である「鉄腕アトム」の影響もあったそうだ。ロボットのコンセプト、デザイン、部品製作から組み立て、プログラムまで、高橋氏ひとりで完結するため、情報共有ツールである設計図もつくらない。
「ロボットは新しい分野で、分業ができないというのもありますが、何より自分で手を動かすのが楽しいし、全て自分の経験になるのがいい。設計図を書くと、外観デザインだけじゃなく中の構造もつまらなくなってしまう。実際に部品を手にして試行錯誤した方が、トリッキーな設計ができたり、新しいアイデアを思いついたりします」
たとえ外部からオファーがなくても、自分のアイデアをロボットという形にする。そして、つくったロボットをいろいろなところでお披露目していると、それを見た人から仕事の依頼がくる。自分の好きなこと、やりたいことを純粋に追求していれば、お金は後からついてくるのだ。
AI(人工知能)が話題となり、ITの次はロボットだという声も聞こえる昨今、高橋氏自身は人間にとってロボットがどのような存在になると考えているのだろうか?
「今後ロボットは1人1体のパーソナルユースに向かうと思います。今のスマートフォンのような存在ですね。スマホが成功したのは、タッチパネルとモーションセンサーがインターフェースを劇的に変えたからでしょう。
もうひとつ期待したのが音声認識でしたが、これを皆が使ってくれなかった。音声認識を皆が使えば、もっと新しいサービスがどんどん生まれたはずです。人がスマホに話しかけないのは、スマホが四角いからじゃないか。だったら擬人化してやればいいだろう、ということでスマートフォンに手足頭を付けてヒト型ロボットにしたのが『ロボホン』です。
これからは『ロボホン』のようなロボットスマホが、スマートフォンにとって代わり、コミュニケーションの入口になると思います」
最後に高橋氏から、好きなことをつらぬき、ビジネスにするためのアドバイスを伺った。
「とにかくユニークであること、人と同じではないところにチャンスがあります。それと、よく若い起業家で『社会のために』と真っ先にいう人がいますが、僕はそんなことを思ったことがありません。僕のモチベーションは、僕が欲しいまだ見ぬロボットを見てみたい、所有してみたいという純粋な欲求です。社会への還元は自分が本当にやりたいことをやり続けて、成功してから考える、という順番でも遅くはないと思っています」
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美