スーパーCEO列伝
イラスト/野中聡紀 文/藤堂真衣(プレスラボ) | 2018.04.10
サービス業を営む企業であれば必ず掲げるであろう「おもてなし」の精神。同社の1号店である「くいどころバー一家(現・こだわりもん一家)」の本八幡店オープンに際して、武長氏は「家」のような店をつくりたいと考えた。
「お客様は大切な“家族”」。深い愛情を持って客を迎え、笑顔になって帰ってもらい、また「一家」へ帰ってきてほしい……。武長氏が夢中になって取り組んできた「おもてなし」はスタッフにもしっかりと継承され、レベルが高いだけでなく、あたたかく血の通ったサービスが多くのリピーターを呼び、店舗数も拡大。
また、とりわけハイレベルなサービスを求められるブライダル事業においてもそのノウハウは通用し、見事に成功を収めている。
鏡の中の自分に笑いかけると、鏡の中の自分も笑い返してくれる。それと同様に、自分が他人に与えたものが他人から返ってくるという心理学の法則。
経営が難航していた時期には、接客中も笑顔の無いスタッフが目につき、現場のモチベーションの低下を危惧していた武長氏。ふとしたきっかけから鏡に映った自分の表情が暗く落ち込んでいることに気づき、「自分が暗い顔をしているから、その暗さがお店中に伝染してしまっている」ことを悟る。
それ以来、店舗へ様子を見に行く頻度を上げ、スタッフの前で暗い表情は見せず、明るい声かけを心がけるようになった。するとスタッフからも元気な声が返ってくるようになり、一家ダイニングは明るさを取り戻すことができた。
一家ダイニングの取締役には、元々はアルバイトや最初の新卒採用時に入社した“生え抜き”のメンバーが揃っている。「長く付き合うことで、履歴書からは気づけない魅力も見えてくる」と武長氏は言う。
よくある風景かもしれないが、従業員と一緒になって「社長は現場のことをわかってないよな」とボヤく一方で、社長の前ではその従業員の勤務態度について「アイツ、やる気がないですよね」と媚びる店長がいたとする。この店長のような双方にいい顔をするだけのコミュニケーションを続けていると、社内にはたちまち不信感が蔓延し、組織は崩壊へと向かう。
反対に、双方の間に立って「社長はみんなのことを考えているよ」「あのスタッフはこんな長所がありますよ」と、その場にいない当人をフォローするのが「陰褒め」だ。武長氏はこの陰褒めのスキルが、リーダーには非常に重要な資質だという。ポジティブな「陰褒め」ができる人材を登用してきたことで、一家ダイニングは健全な組織として機能し、成長を続けてきたといえる。
2003年~2006年にかけては、経営状態を打開するため、メイン業態の居酒屋「こだわりもん一家」の他にラーメン店や蕎麦・焼肉などの多業態出店に乗り出した。流行ジャンルの料理を扱ったり、ブームが去ったあとの店舗を居抜きで使用したりして出店を続けたが、結局、ラーメン店以外は大きな利益を出すことはできなかった。
一家ダイニングは業態数を絞ることにするが、このとき閉店した蕎麦店やスペインバルなどのスタッフの思いに応えられなかった苦い経験から、武長氏は「ブレない気持ちをもって、魂のこもった店をつくろう」と決意したという。
こうした経験を経て原点である「第二の我が家」に立ち返り、強い思いを込めた「こだわりもん一家 成田店」をオープンし大ヒット。その後、中洲の思い出を基につくった「屋台屋博多劇場」も成功を収める。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美