スーパーCEO列伝

外食の未来を変える!

株式会社バルニバービ

代表取締役

佐藤裕久

写真/宮下 潤 文/髙橋光二 マンガ/M41 Co.,Ltd | 2016.08.10

佐藤裕久のポートレート
1995年12月、何もなかった大阪・南難場にカフェ「アマーク・ド・バラディ」をオープン。同地を若者でにぎわうスポットに変えた。その2年後、月商4,500万円を売り上げる「カフェ・ガーブ」を開店。軌道に乗った事業は急速に拡大するが、組織の成長と自身がやりたいことのギャップに苦悩。「自分を輝かせるために仕事をする」という原点に戻り自らの理想とする飲食店経営を確立。

2016年8月現在、東京と大阪を中心に71店舗を繁盛させている。人が集まり、街を変え、人を喜ばせる飲食店の意義とは。そんな飲食店をどのようにつくっているのか。“日本一カフェで街を変える男”に、その神髄を聞いた。

株式会社バルニバービ 代表取締役 佐藤裕久(さとうひろひさ)

1961年京都市生まれ。ファッション業界での起業と挫折を経て、91年、二度目の起業としてバルニバービ設立。大阪市立中之島公園内のカフェや140年の伝統を持つナポリのピッツェリアの世界2号店など、30店舗以上の飲食店を経営。著書に『一杯のカフェの力を信じますか』(河出書房新社)、『日本一カフェで街を変える男』(グラフ社)など。2012年、好評を博したKBS京都の日曜深夜番組『サトウヒロヒサの眠りにつく前に』が、13年4月に再開、パーソナリティを務める。

佐藤裕久を輝かせる 人を生かし、ブームを生み出す5つの信念

お客様の笑顔のため、街を盛り上げるため、従業員の幸せのため、それらはすべて“自分”のためになる。だから必死になる。自分がやりたいことを追求するからこそ、どこにもない店ができる。そこに人が集まり、街が華やぐ。“自分”ととことん向き合い、それを情熱に変える佐藤氏の信念とは?

佐藤裕久のインタビュー写真

01「食べることが好きですか?」「お客様の笑顔が見たいですか?」

私が採用面接の際に必ず尋ねていることです。答えが2つとも「Yes」でなければ、残念ながら採用はできません。

まず、「食べることが好き」ということが大事。飲食業の仕事とは、食べることを通じてお客様を幸せにすることです。食べることが好きではない人が、お客様の気持ちを理解し、お客様に満足いただく仕事ができるとは思えません。

また、「仕事」は目覚めている時間の3分の2ほどを占める、人生の中心的な活動です。それが“好きなこと”でなければ、これほどの不幸もないでしょう。人は、やはり好きなことを仕事にすべきです。

次に大事なのは、「お客様の笑顔が見たい」という気持ち。私は、お客様に限らず人を笑顔にしたいと真剣に思っています。例えば、車いすの人が段差にぶつかって困っているところに出くわしたら、絶対に手伝うでしょう。実はそれはその人のためというより、自分のためになんです。

人助けをした時に、「手伝ってあげた」「助けてあげた」と勘違いしている人がたくさんいます。しかしそうではなく、「手伝わせてもらった」「助けさせてもらった」と考えるべきなのです。なぜなら、困っている人の役に立てた時、単純に自分がうれしいから。

相手はお礼を言ってくれるでしょうが、お礼を言いたいのはこっちのほう。自分が気持ち良くなれる機会をもらったことへの感謝です。

ですから、「お客様の笑顔が見たい」のなかには、「実は~(自分のために)」というカッコが付く。これが、バルニバービの根本中の根本にある考え方です。


02バッドロケーション

本社オフィスのある蔵前の隅田川沿いには、7階建ての“食とアートを創造する複合施設”「MIRROR(ミラー)」があります。この界隈には、今でこそ有名シェフの店やイタリアン、和食、コーヒーショップなどいろいろな店でにぎわっていますが、「MIRROR」ができるまでは1軒もありませんでした。夕方5時を過ぎると、人通りがなくなるような場所だったのです。

また、ビルの川側は大きな窓の開口部になっていますが、当初はありませんでした。建てられた45年前、隅田川にはヘドロが溜まり悪臭を放っていたからです。今では魚やクラゲも泳ぐほどキレイになっているので、川側の壁をすべて取り払えば、水の流れを眺めながら食事やお酒を楽しめるステキな店ができる。

こういう立地をバルニバービでは“バッドロケーション”と呼んでいます。これも、“~(でも、自分たちにはめっちゃ良いロケーション)”というカッコ付き。

「飲食店は、人通りの多い場所でなければ繁盛できない」といった立地の幻想があります。だから「銀座じゃないとダメ」「駅前立地じゃないとダメ」となる。そんな幻想がまかり通っているので、見過ごされていたり、勘違いされている、非常に魅力的な出店場所がたくさんあるのです。

バルニバービは、そういった潜在力のある場所を掘り起こして店を出し、お客様を集め、ことごとく繁盛させてきたのです。


03インハウスデザイン

飲食店のデザインは、時代の空気感を表現することでもあります。そのため、時が経てば当然のように劣化する。当時は最先端だった店が、5年も経つと壁になぐり書きしたような「生ビールあります」なんていうポスターを張るようになるのです。

大半の飲食店は、店舗デザインを専門の会社に外注しています。しかし、バルニバービでは、基本的に社内の企画部が手がけていて、1995年にオープンした1号店「アマーク・ド・パラディ」の担当デザイナーが今でもデザインのトップを務めています。

だからこそ、自社の店に常に寄り添い、常に時代を反映し続ける改修を行える。つまり、企画本部は21年間、店と寄り沿い続けているのです。そのおかげで、「アマーク・ド・パラディ」はいまだに多くのお客様でにぎわう店であり続けています。

そして、自分たちでデザインするからこそ、自分たちがつくりたい店ができるのは言うまでもありません。

佐藤裕久のインタビュー写真

04素敵な人材が“集まる”場

今、飲食業はどこもスタッフが不足して大変。いかに人を集めるかに必死です。そんななか、バルニバービは、ステキな人材が自然と“集まる”ような会社づくりを心がけています。

人はなぜ飲食店で働きたいと思うのか。多くの人は、「いずれは自分で店を持ちたい」と思ってやって来ます。そこには主に3つの理由がある。

1つめは、飲食店オーナーとして成功できれば、稼げるようになること。逆にいえば、雇われの身では、稼げないということです。

2つめは、自分のつくりたい店があること。業態とか、内装とか、雰囲気とか、本人が思い描いている店をつくりたいわけです。

そして3つめは、一緒に仕事をしたい人がいること。家族とか、親友とか、仲間とか。ならば、バルニバービでそれら3つを全部叶えればいいじゃないか、と思うわけです。

自分が輝くための仕事を何よりも尊重するバルニバービでは、社員が自分の店をつくりたいといえば、喜んで協力します。資金を提供し、会社をつくって、CEOやCOOに就任してもらい、本人がやりたい店を任せる。社長ですから、給料も自分で決められます。20代で1000万円を稼ぐ人もいます。

だからこそ「バルニバービに行けば、やりたい店ができるらしい」と若くて優秀な人材が集まるのです。私でも敵わないと思うようなキラキラした素敵な人材が集まってきますよ。


05一人は皆のために皆は一人のために

私は学生時代、授業が面白くなかったおかげで、学生企業を立ち上げて稼いだり、ラグビー部に入部して楕円のボールを追う生活に明け暮れました。

ラグビーのポジションはフォワード。最前列でスクラムを組み、味方のバックスが攻撃を展開しやすいようにする役回りです。4年間で自分が上げたトライは1回だけ。それでも、味方のバックスがトライできれば満足なのです。「ナイストライ!」「サンキュー!」、試合でのそういうやり取りが最高でした。

そんなラグビーで学んだのが、“One for All, All for One”の精神です。一人は皆のため、皆は一人のため。

でも、私は社員たちに、あえて「自分の幸せのことだけを考えろ」と言います。なぜなら、自分が幸せになることを突き詰めれば、絶対に周りの人、家族や仲間、そしてお客様を大事にしなければならないことが分かるからです。

家族が不幸のどん底にいるのに「自分は幸せ」なんていう人は、いるわけがありませんね。ですから私はこうも言います。「僕は自分のために仕事をしている。だから、君たちも自分のために仕事をしてほしい」と。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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