ヒラメキから突破への方程式

優秀な人材が集結し、力を発揮できる環境をつくり上げる

株式会社ワークスアプリケーションズ

代表取締役CEO

牧野正幸

写真/宮下 潤 動画/トップチャンネル 文/福富大介 | 2015.02.10

大手企業の経営効率化を担うERPパッケージで販売社数、売上高ともに国内シェアNo.1を誇るワークスアプリケーションズ。昨年発表の新製品「HUE」では業界の新たな時代を拓いた。世間の「無理だ」を覆し、世界初を実現した舞台裏には、牧野氏の社会貢献への熱い想いと誰よりも人材を重視し、彼らが成長できる環境づくりにこだわり続けた歴史があった。

株式会社ワークスアプリケーションズ 代表取締役CEO 牧野正幸(まきの まさゆき)

1963年、兵庫県生まれ。大手建設会社、ITコンサルタントを経て、1996年にワークスアプリケーションズを設立し、代表取締役最高経営責任者(CEO)に就任。Great Place to Work Institute Japanが実施する「働きがいのある会社」調査では2010年に第1位に選出されて以降、7年連続でベストカンパニー入り。経営者としても「20万人の学生があこがれる経営者アワードFUTURE部門」第1位(LEADERS' AWARD)に選ばれる。

1990年代初頭、情報システムのコンサルティングを担当していた牧野氏は、ある疑問を抱いていた。それは、日本と欧米企業の情報投資効率の格差。

大手企業が経営の効率化を目的に導入する情報システムには、莫大なコストがかかる。中でも日本企業は、欧米に比べ3~5倍のコストをかけていた。なぜそれほどの格差が生まれるのか。日本の商習慣や組織体系が複雑過ぎて、欧米向けの外国産パッケージソフトは使えず、全てオーダーメイドでシステム開発しなければならないというのが当時の常識だった。

「この状況を放置していては、やがて過大な情報投資が収益を圧迫し、日本の企業は国際競争力を失ってしまう」

危機感を持った牧野氏は欧米のERPパッケージベンダーや日本のシステムインテグレーターの下に何度も足を運び、国内大手企業向けERPパッケージの開発を要請した。しかし、どこもやろうとしない。欧米のベンダーにとってマーケットの小さいアジア仕様は採算性が悪く、経験のない日本のシステムインテグレーターにとって開発は難し過ぎたのだ。

「やれば絶対に社会貢献になる。皆それをわかっていながら、やろうとしない。そんなおかしなことがあるか!」

その怒りが「誰もやらないなら、自分でやるしかない」と牧野氏を動かした。

「働きがいのある会社」としても名高いワークスアプリケーションには、現在、グループ全体で約3,000人が在籍する。

ERPパッケージの開発が困難である一番の理由は人材の問題だった。当時国内には開発経験のある会社はなく、エンジニア自体が存在しなかったのだ。そこで牧野氏は、世界中に散らばっていた自分の友人や後輩の中から優秀な人間に声をかけ、少数精鋭で事業をスタートした。しかし、それも最初の1~2年が限度。3年目になるとすぐに人材不足に陥った。

「IT業界に固執しては駄目だ。業界を問わず、地頭が圧倒的に良くて飛びぬけて優秀な人間だけを集め、その人間にITを教えた方が早い」

そのために莫大なコストと時間をかけ、インターン型の徹底的に問題解決能力を確かめる選考にシフトした。ワークスアプリケーションズでは、圧倒的に優秀な人材を「クリティカルワーカー」と呼んでいる。それは、ロジカル・シンキング(論理的思考力)とクリエイティブ・シンキング(発想転換力)を兼ね備えた、問題解決能力の高い人材だ。

このような人材は成長意欲も高く、自分自身が成長できる環境を求めているに違いない。そのため、彼らが成長できる環境づくりを一番に考えた。

「社会貢献しよう」という目標を掲げながら、一方でクリティカルワーカーが成長できる環境をつくり上げる。これは相当困難なことだった。

優秀な人材はなかなか見つからない。当然報酬は高くなる。更に採用できても彼らの成長を促すためにはどんどん難しい仕事を任せ、どんどん失敗させ、何度でもチャレンジさせなければならない。

新卒であれば1人あたり1000万円にものぼる採用コストに加え、彼らのチャレンジと失敗の繰り返しを許容するだけの体力=収益力が必要だった。そのため他のビジネスには見向きもせず、ひたすら収益力の高いパッケージウェアのビジネスを追求した。

「この優秀な人材は一体いつパフォーマンスを発揮するのか。確かに1人の人材にフォーカスすれば、どこの会社の人間よりもパフォーマンスは高いが、だったらそこそこの人材を2人採用しても変わらないのではないか」と悩んだこともあった。

しかし、あるタイミングからワークスアプリケーションズの製品が外資系の競合製品を圧倒し、トップに立つようになる。そして、2014年10月には世界初の画期的な新製品「HUE(ヒュー)」が誕生。業界を震撼させた。

組織を階層化すると責任範囲などが細分化し、優秀な人材の成長を阻害する。同社には誰もが自由に発言できる文化が根付いている。

HUEは、GoogleやFacebookでは当たり前となっている快適なユーザビリティを追求した。業務用アプリケーションでこれを実現するためには、発想の大転換が必要となる。それは、今までの資産を捨て0から開発することに等しい。他社は、理論的に可能だと分かっていても、そのリスクを取ることができなかった。

しかし、ワークスアプリケーションズはチャレンジし、そして世界で初めて完成させた。これも優秀な人材に試行錯誤させ、成長を促してきたからこその結果と言えるだろう。

「金儲けのためなら優秀な人材は集まらない。しかし、社会貢献が目的ならば、想いに共感した優秀な人材が沢山集まってくる。しかも彼らはロイヤリティが高い。これから起業する人やアーリーステージの起業家に言いたい。“一番重要なことは社会貢献だ”と」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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