ヒラメキから突破への方程式

貸会議室からイベント空間プロデュースまで 事業シナジーで高付加価値化するTKPの経営戦略

株式会社ティーケーピー

代表取締役社長

河野貴輝

写真/芹澤裕介 文/竹田 明(ユータック) 動画/ロックハーツ | 2017.10.10

“空間再生流通企業”を謳う貸会議室の大手ティーケーピー。空間シェアビジネスは今でこそ一般的だが、河野貴輝社長は十数年前からそこに目をつけ拡大を図ってきた。設立12年目でマザーズ上場を果たし、現在は事業も多角化。貸会議室運営やホテル運営、イベント空間プロデュースなど、複数の事業のシナジーに迫る。

株式会社ティーケーピー 代表取締役社長 河野貴輝(かわの たかてる)

1972年10月13日生まれ、大分県大分市出身。慶應義塾大学商学部卒。1996年、伊藤忠商事に入社、為替証券部に配属。日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)の設立にかかわる。2000年、伊藤忠を退職し、イーバンク銀行(現・楽天銀行)で執行役員営業本部長などを歴任。2005年、株式会社ティーケーピー(TKP)設立。2017年3月27日に東京証券取引所マザーズ市場へ上場。

上場で投資資金余力は200億円超に

駅前やビジネス街などの利便性が高いビルの一室を、低価格の会議室として“時間貸し”するビジネスから始まったティーケーピー(TKP)。今では新築・築浅のオフィスビル、ランドマークとなるビルやホテルにも積極的に出店し、会議や研修目的だけでなく多目的に貸し出している。

また、事業も多角化し、宿泊事業、弁当・ケータリング・レストラン等の料飲事業、コールセンター事業のほか、イベントの運営・制作なども手がけている。

TKPガーデンシティ品川

伊豆長岡温泉「石のや」

「常に高いシナジー効果を意識して事業を拡大してきました。例えば、仕出し弁当事業を譲り受け自社でおいしい弁当を提供すれば、お客様にとっては『おいしいランチも食べられる会議室』になりますし、音響設備のレンタル業を始めたことで『音響設備が充実した会議室』を提供できます。こうして、借りた物件を自社の他事業によってコストをかけず高い付加価値を与えれば、収益の拡大につなげられます」

事業間のシナジーによって加速度的に売上と収益を伸ばしているTKP。2017年9月時点で会議室数は1838室、年間利用社数は延べ9万社超に及ぶ。売上高も220億円(2016年度)に迫り、2017年3月に東証マザーズに上場した。

上場による資金調達で、約21億円の資本を確保。さらに、複数の金融機関との間で総額70億円のシンジケートローン契約を締結。これにより、手元資金とあわせて総額200億円を超える投資資金余力が生まれた。

当初は「上場しない」がモットーだった

TKPの創業者である河野貴輝社長は、金融畑の出身。伊藤忠商事の為替証券部でディーラーを務め、その後、ITの知識力を買われて日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)の設立にかかわった。

2000年に伊藤忠を退職した後は、イーバンク銀行(現・楽天銀行)で取締役営業本部長などを歴任。河野社長は株式に関するプロレベルの知識を持ち、株式上場のメリットを知り尽くしながら、自身の上場にはためらいがあったという。

「リーマン・ショックの影響でマーケットが崩壊するのを目の当たりにしましたし、上場したがゆえに買収される企業もたくさん見てきました。オーナー社長である私は、基本的に重要な件には自ら決定を下してきましたが、上場すると、社長といえども自分だけで物事を決めるのは難しくなると経営の諸先輩から聞いていました。

資金調達が容易になっても、意思決定が遅くなっては意味が無い。成長を持続・加速させるためには、上場しない方が得策だと考えていました」

そんな河野社長を上場へと向かわせたのは、ニューヨーク視察がきっかけだった。

逡巡の末の上場決意

TKPの創業者である河野貴輝社長は、金融畑の出身。伊藤忠商事の為替証券部でディーラーを務め、その後、ITの知識力を買われて日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)の設立にかかわった。

2000年に伊藤忠を退職した後は、イーバンク銀行(現・楽天銀行)で執行役員営業本部長などを歴任。河野社長は株式に関するプロレベルの知識を持ち、株式上場のメリットを知り尽くしながら、自身の上場にはためらいがあったという。そんな河野社長を上場へと向かわせたのは、ニューヨーク視察がきっかけだった。

リーマン・ショックで自社も打撃を受けるなか、河野社長は大変な状態にあるだろうアメリカ経済をひと目見ようと、ニューヨークを訪れる。しかし、予想に反してニューヨークは活気に満ちていた。

企業の内情はどこも苦しいのだろうが、街は死んでいない。そこで、河野社長がTKPを設立する前の日本と同じく、有効活用されていない物件がたくさんあることを知った。

チャンスと見た河野社長は、早速ニューヨーク進出を考え始める。ニューヨークで成功することができれば、アメリカ全土がターゲットになる。その先にはすでにヨーロッパ進出も見ていた。2010年の話だ。

「日本の名も無い企業が、上場もせずアメリカに行ってビジネスをするのは大変で。TKPのビジネスをニューヨークへ持ち込むには信用が必要だと肌で感じました。悩んだ末、上場で信用力と資金力を付けて、世界で戦える企業にしたいという思いを固めました。

会議室に特化した“空間再生流通事業”は世界にはありません。TKP独自のものです。1年後でも2年後でもない、今だ!と思って決断しました」

新たな武器を手に次なる戦いへ

銀行の間接金融に頼るしかなかったのが、上場によって、今後は必要に応じてマーケットから資金を調達できるようになった。これまで以上に会社のかじ取りは難しく、経営者として手腕と力量が問われる。それでも河野社長にとって、新しいことにチャレンジしやすい環境が整ったのは大きかった。

社内も活気づいた。従業員が自社の株価に気を払うようになり、マーケットに対して敏感になった。知名度も上がり、どこに行ってもTKPの事業が認識されるようになった。

会議や懇親会に利用できるケータリング事業は、2013年から本格的に参入。

映像・音響・照明機材等と駆使したイベント空間プロデュースも手がける。

「ようやくスタート地点に立てたというのが正直な感想です。株式市場からの資金調達という大きな武器を手に入れて、これからが本当の戦い。ロールプレイングゲームの主人公のように、どんどん経験値を稼いで冒険を進めたいです。

大事にしてきた『信用力』『資金調達力』『ブランド力』が上場により力を増した今、世界で戦えるTKPにするのが目標です。BtoCのビジネスにも積極的に進出したいと考えています」

TKPには、年間9万社を超える顧客がついている。彼らはみんな個人の潜在顧客でもある。例えば、TKPが手がける「宿泊研修」で旅館やホテルを利用した人たちは、サービスの質に納得すれば、休日に個人客として宿泊してくれる。そうすれば、平日はBtoBの顧客で埋まり、休日はBtoCの顧客でにぎわう。

TKPは、会議室を利用した顧客を関連する別事業の顧客へとリレーすることを念頭に置いて事業の幅を広げ、収益を拡大してきた。河野社長は上場で得た新たな武器を生かして、次にどんなシナジー効果がある“隣の事業”を繰り出してくるだろうか。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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