ヒラメキから突破への方程式

管理職は「なるべく邪魔をしない」効率よりも生産性・創造性を重視するPR TIMESの社内体制

株式会社PR TIMES

代表取締役社長

山口拓己

写真/芹澤裕介 文/竹田 明(ユータック) | 2017.12.18

メディア向けのプレスリリース配信を仲介する株式会社PR TIMES。主サービスの「PR TIMES」は、2017年10月に過去最高の月間9271本のプレスリリースを配信し、11月には利用企業数が2万社に到達。ローンチから10年で国内上場企業の約30%が利用するサービスへと成長した。一方、プレスリリースを映像化する「PR TIMES TV」 、プレスイベントの模様をライブ配信する「PR TIMES LIVE」 など新しいサービスも次々と生み出し続けている。2016年3月にマザーズ上場も果たし、今は事業拡大へ向かうという同社はどんな会社なのだろうか?

株式会社PR TIMES 代表取締役社長 山口拓己(やまぐち たくみ)

1974年1月12日生まれ、愛知県豊橋市出身。1996年4月、新卒で山一證券入社後、1997年4月ガルフネットコミュニケーション、1999年、デロイトトーマツコンサルティングを経て、2006年3月、ベクトルに入社。取締役に就任し、上場準備責任者としてIPOへ向けて指揮を執る。2009年5月、PR TIMES代表取締役就任。2016年3月、東証マザーズへ上場を果たす。

インターネットのコミュニティーを手がける企業

国内大手のプレスリリース配信サービス「PR TIMES」。同社グループは、配信サービス以外にも次々と新しいサービスを生み出している。例えば子会社PRリサーチが展開する「Webクリッピングサービス」は、利用者へ毎日ウェブメディアでの指定キーワードを含むニュース掲載状況を知らせるサービス。国内の主要メディアを中心に多種多様なウェブメディアを網羅したクリッピングサービスだ。プレスリリースを配信した後の記事掲載チェックやキャンペーン効果測定、競合・業界の動向調査に利用されている。

2017年には、プレスリリースのテキストと画像を素材にしてモバイル視聴用映像を制作し、「PR TIMES」に公開し公式SNSへの投稿を通じてメディアや生活者へ配信するサービス「PR TIMES TV」と、企業や自治体のプレスイベント・記者発表会の模様を撮影し、「PR TIMES」の公式SNSアカウントでライブ配信するサービス「PR TIMES LIVE」もリリースした。

また、クリエイティブな広告・宣伝事例を紹介するデータベースサイト「AdGang」を運営し、子会社であるマッシュメディアは「isuta」「IRORIO」など複数のニュースサイトを展開。プレスリリースの価値を高めるためにあらゆる側面からバックアップしている。PR TMES代表取締役社長の山口拓己氏は、同社を“インターネットのコミュニティーを手がける企業”と表現。「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」というミッションの下、事業展開には幅を持って取り組んでいる。

「プレスリリースは、当社にとって商材といえるかもしれません。私たちの事業にとって最大の脅威は流通の寡占化。日本人の多くがひとつの流通網からモノを買うようになったら、企業が発信するニュースの価値は格段に下がります。そうすると、当社の存在価値も減少します。だから今後、流通の寡占化に対抗しなければならない局面に陥ったときは、自分たちのソリューションとして小売業も選択肢としてあるかもしれません」(山口氏)

効率性よりも生産性、創造性を重視したオフィス

次々にサービスを生み出すPR TIMESの社内の雰囲気はとてもフラット。社長も取締役も同じフロアで働き、部署間の交流も盛ん。社内制度を作るときも部署の垣根を越えた有志の社員でプロジェクトを作って取り組んでいるという。ときには社長の意見も通らないことがあるというから面白い。

「今の場所にオフィスを構えたとき、六本木にある有名な“出世ビル”がタイミングよく空いたので、私はそこに入居したいと提案しました。ところが、賛同してくれる人があまりに少なかったので意見を引っ込めまして(笑)。9割方決めていたんですけどね」(山口氏)

オフィスのレイアウトも社員が主導して決めた。PR TIMESのオフィス内でもひと際目立つカフェカウンターは、社員同士のコミュニケーションを活発にするため、みんなが自然と集まれる場所が欲しいという提案で作られた。

「カフェカウンターは、提案者が責任を持って使い切るんだったらOKと了承しました。生産性、創造性を追い求めたオフィスにしようというコンセンサスはあらかじめとり、そのために何をするかは社員に任せました」(山口氏)

効率性よりも生産性、創造性を重視する姿勢は、山口氏の経営理念のひとつ。だから、従業員の執務スペースの広さにはこだわったという。狭いデスクで働いていては、生産性は上がらず、創造性も発揮されにくい。

「実際のところ、効率的に働いても従業員の利益になりません。オフィス空間に多くの従業員を詰め込んでも、会社のコストが削減できるだけで、狭い空間で我慢したからといって社員の報酬がアップするわけではありませんので。それよりも、余裕のあるデスクで生産的、創造的な仕事をすれば、営業なら受注を増やすことができたり、エンジニアならコードを書くスピードが上がったり、場合によっては自分の技術力では実現できなかった機能やサービスが生み出せたりします。そうすると、会社の成長につながり、従業員の報酬もアップします」(山口氏)

“邪魔をしない”マネージメントで業務推進

社内でイノベーションを生み出すために重視するのは、オフィス空間だけではない。従業員の提案を会社の事業へとダイレクトに結びつける人材活用法も山口流の経営戦略だ。

「私たち経営陣や管理職がする仕事は、目的意識を持ち、それを実現するだけのスキルや経験、そして何よりも意欲を持っている人を採用し、従業員一人ひとりが目的を達成するまで意欲を失わせないことです。一言で言えば、なるべく邪魔をしないことですかね(笑)」(山口氏)

実際、PR TIMESでは、新卒社員でも大きな仕事を任せられることもあり、現場の意見が新しいサービスのリリースにつながることも日常的だという。

「2017年5月の京都銀行との提携も社員が先頭に立って進めてくれました。私が京都銀行の方とお会いしたのはアライアンスの締結後です」

地方銀行との業務提携は、最近、PR TIMESが特に力を入れている分野。しかし、そこでも社長が先頭に立つわけではなく、従業員が率先して話を進めているという。他社とのアライアンスはPR TIMESの次世代戦略の一環だ。

「地方で影響力があるのは、金融機関、地方メディア、地方自治体の3者。PR TIMESとしては、この3者との連携を広め、事業拡大を狙っています。かつて地方自治体のPRは、地域に住む人々に行政の動きを知らせるだけでしたが、ここ数年、地方の情報を地域外に行政自ら発信するようになってきています。きっかけは、『ふるさと納税』。特典になっているのは、たいていの場合、地方の特産物です。つまり民間の商品。納税額を増やすためには、地域の特産品を地域外の人に広く知ってもらう必要があり、行政も特産物のアピールなどに乗り出しています。PR TIMESとしてはチャンスです。従業員にはどんどん地方との連携の話を進めてほしいですね」(山口氏)

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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