ヒラメキから突破への方程式

自分ができなくても達人と組めばOK! “チーム力”が成功の秘密

株式会社トランジットジェネラルオフィス

代表取締役社長

中村貞裕

写真/宮下 潤、動画/トップチャンネル、文/髙橋光二 | 2016.04.11

“パンケーキ”や“新食感かき氷”などのブームの仕掛人、中村貞裕氏。自他ともに認める、超がつくほどのミーハーだ。類まれな好奇心と行動力で、ビジネスの領域を次々に拡大。成功の秘密は、できないことを実現可能にする“チーム力”にあった。

株式会社トランジットジェネラルオフィス 代表取締役社長 中村貞裕(なかむらさだひろ)

1971年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、伊勢丹を経て2001年に「ファッション、建築、音楽、デザイン、アート、飲食をコンテンツに遊び場を創造する」を企業コンセプトに掲げ、トランジットジェネラルオフィスを設立。カフェブームの立役者としてカフェ「Sign」をはじめ、数多くのブランドカフェや「bills」などレストランの運営を約40店舗行う。ホテル「CLASKA」、大阪の「堂島ホテル」、「the SOHO」など話題のスポットを次々と手がけるほか、オフィス、商業施設のブランディングやプロデュースなどその仕事は多岐にわたり、常に話題のスポットを生み出すヒットメーカーとして日々精力的に活動中である。『中村貞裕式 ミーハー仕事術』が絶賛発売中。

パンケーキブームや朝食ブームに火をつけたオールデイカジュアルダイニング「bills(ビルズ)」や、新食感のマンゴーかき氷でメディアの注目を集める「ICE MONSTER(アイスモンスター)」。そして2016年3月31日に、銀座にオープンしたモダンギリシャレストラン「THE APOLLO(アポロ)」――。

これらの最先端でオシャレなフードシーンを次々にプロデュースしている会社が、トランジットジェネラルオフィスだ。飲食店以外にも、ホテル、シェアオフィス、人材紹介サービス、イベント運営・ケータリングと広範な領域でビジネスを展開している。

代表取締役社長の中村氏は「特にビジョンや戦略があって広げてきたのではなく、自分が面白いと感じるものを取りにいったり、オファーには“来るもの拒まず”の精神で応えていったら、ここまで広がった」と言う。

ブームになったものも多いが、同社のコンセプトは、あくまで「カルチャーエンジニアリングカンパニー」。ブームを生んで終わりではなく、カルチャーとして浸透させ、街を変える。そのための運営までを責任持って担うところに特長があるといえる。

「会社を設立した当時は、自分が行きたいと思うような、“音楽”と“アート”と“ファッション”と“食”をからめた遊び場をつくろうと考えていました」と振り返る中村氏。1997年、当時、駒沢公園にできたばかりのカフェ「BOWERY KICTHN(バワリーキッチン)」に行った時、来店客やその場の雰囲気に「これは注目される」とピンと来たという。

そこで、父親が借りていた表参道の古いビルの倉庫を改装して「OFFICE(オフィス)」というカフェをつくる。これが予想以上の大成功を収め、次に、同じビルにカフェ「Sign(サイン)」をオープンさせた。これも注目を集め、中村氏は“カフェブームの仕掛け人”と呼ばれるようになる。

中村氏が最初に手がけたカフェ「OFFICE」。DJを入れるなど常に鮮度を保つ手法が大成功、飛躍の原点となった。

そんな中村氏に、目黒にできたリノベーションホテル「CLASKA(クラスカ)」から声がかかる。当初はテナント入居の要請であったが、経営体力的に無理だった。そこで、企画提案とオペレーションを引き受けることに。

「ホテル全体を“遊び場”にしようと、DJブースを入れたり、芸能人御用達のペットのトリミングサロンや話題の書店などに入居してもらうプランを提案しました」

この時、ホテルの運営も依頼される。ホテル運営は未経験だったが、中村氏は引き受けた。「できなければ、できるようにすればいい」が信条の中村氏は、外資系ホテルに勤務経験のある人材(常務執行役員)を支配人としてスカウトするなどして、“ブレイクスルー”を果たす。その要諦を、中村氏は次のように言う。

「自分一人でやろうと考えるのではなく、できる人とチームを組んで一体となれば何だってできるんです。『CLASKA』の場合は、支配人やカリスマペットトリマー、最先端の書店などとチームを組むことで、話題を集めるホテルに仕上げることができました。このやり方で、トランジットは多彩なビジネスができるようになっていったんです」

“日本初”にこだわって、日本で注目を集めそうな海外の飲食店などを次々に上陸させている中村氏。その交渉は、100%英語だ。しかし中村氏は英会話ができない。そこで、同時通訳を務める社員と“一心同体”になり、英会話の壁を突破している。

「普段から常に同行させ、自分の考え方や感覚を理解してもらっています。こうして“ペア中村”という1人のバイリンガルをつくっているんです。海外の著名デザイナーなどから『東京のベストフレンド』とまで呼んでもらえているのは、そんな“英会話力”が奏功している証明だと自負しています」

また、カラオケに行く際も、カラオケが苦手な中村氏は、「ショーパブに出演できるほどのレベル」(中村氏)という社員を同席させ、「中村さんと行くカラオケは最高に楽しい」と言わしめている。こうした「中村となら楽しそう、面白いことができそう」と思わせる吸引力が、中村氏の強みの源泉なのだ。「CLASKA」が「“今”の日本における暮らしの美意識とカルチャーを発信する複合施設」として注目を集める存在となっているのも、この吸引力のなせる業である。

2016年3月31日、東急プラザ銀座にオープンした“日本初上陸”のシドニー発モダンギリシャレストラン「THE APOLLO」。

そんな中村氏が今、テーマとしているのは、“クールジャパン”ならぬ“ホットトーキョー”。東京で生まれ育った中村氏は東京が大好き。「東京がニューヨークやロンドン、パリなどと並ぶ最先端の街であり続けるために尽力し、インバウンド拡大を通じて国に貢献したい」という。そして、複数の再開発が進む銀座に注目し、次なる“インターナショナルフードカルチャー”の展開を仕込んでいるところだ。

中村氏は次代の経営者に向けて、次のようにアドバイスを送る。

「師と仰ぐ伊勢丹時代の上司、藤巻(幸大)さんはかつて、『ビジネスは“縁”と“運”と“センス”だ』と言っていました。良い縁と良い運と良いセンスの積み重ねで、良いビジネスができると思います。私はそこに“スピード”も加えます。こうした考え方の根底にあるのは“面倒臭がらない精神”。メンドクサイと思った時こそ、一生懸命にやる。これが成長の秘訣だと思います」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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