ヒラメキから突破への方程式

多様化ニーズと空間をマッチング 最先端を走る“大人ベンチャー”

株式会社スペースマーケット

代表取締役

重松大輔

写真/芹澤裕介 文/唐仁原 俊博 動画/ロックハーツ | 2017.02.10

空間やモノ、時間、スキルなど、“遊んでしまっている”ものを可視化し、借り手と貸し手を直接つなぐ“シェアリングエコノミー”。この業界で、古民家から球場まで、さまざまなスペースを媒介する株式会社スペースマーケットが急成長を遂げている。37歳で起業し、自らを“大人ベンチャー”と呼ぶ重松大輔代表の話を聞いた。

株式会社スペースマーケット 代表取締役 重松大輔(しげまつ だいすけ)

1976年、千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒。2000年にNTT東日本入社し、主に法人営業企画、PR等を担当。2006年、株式会社フォトクリエイトに参画し、新規事業、広報、採用に従事。東証マザーズ上場後の2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。2016年1月、シェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指す一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任。3児の父。

面白みに欠ける安定を捨て
挑戦し続ける道を選ぶ

「うちに社長室はありません。あったとしても、もったいないからうちのサービスで貸し出すでしょう」

そう語る重松氏がスペースマーケットを創業したのは、まだ“シェアリングエコノミー”という言葉すら存在しなかった2014年のことだ。

2000年にNTT東日本に入社したが、動機は「人気企業ランキングで1位だったから」というミーハーなもの。時が経つにつれ、大企業が自分の肌に合わないことがわかってきた。アイデアを形にしようとしても、そのスピードが遅い。社内を見渡せば、この先のキャリアが容易に想像できることも面白みがなかった。

そんな先まで見通せなくてもいい、もっと不安定でいい――。そう感じた重松氏は、2006年、NTTの同期が立ち上げた株式会社フォトクリエイトに籍を移す。社員たった10数名のベンチャーだったが、採用、広報、そして新規事業の立ち上げまで八面六臂の活躍で会社の成長を支え、マネジメントの経験も積んだ。

2013年には100名を超える大所帯となり、東証マザーズに新規上場。しかし、重松氏は再び安定を捨て、今度は起業を決意する。

「いつか自分でもチャレンジしたいと思っていたし、ベンチャーキャピタルでもある奥さんからはずっと『いつ起業するの?』と言われていたんです」

確実に成長が見込める領域を探し
シェアリングエコノミーと出合う

ニッチな市場ではなく、成長が期待できる分野を選ぶため、まずはアメリカのマーケットの動きに注目した。投資家の動きを分析するなかで目にしたのが、AirbnbやUberといった、シェアリングエコノミー系事業の台頭だった。

会議室やイベントスペースを貸し出す、Airbnbの派生版のようなサービスもすでに多く誕生していた。重松氏はこれまでの経験から、ここに大きなチャンスを感じる。

フォトクリエイトでは様々なイベントにカメラマンを派遣し、そこで撮影した写真をネット上で参加者に販売するという事業を展開していたが、会場探しに苦労しているイベント主催者は少なくなかった。一方で、自身が立ち上げたウエディング関連の事業では平日ガラガラの結婚式場を見た。

場所を探している人と空いているスペースをうまく組み合わせられないか。このひらめきがスペースマーケットの設立につながっていった。

実際にサービスを開始すると、うれしい誤算があった。需要を見込んでいたのは企業のオフサイトミーティングだったが、それ以上に十数人の小規模なパーティーでの利用が続々と舞い込んできたのだ。

現在に至るまで、キッチン付きのオシャレなクリエイティブスペースは根強い人気を誇る。テレビ、プロジェクター、Wi-Fiがあれば、ミーティング後にそのまま打ち上げになだれ込むこともOK。移動の時間はかからないし、料理も酒も好きなものを持ち寄れば安上がり。既存の居酒屋では対抗できないような満足が得られると好評だ。

また、ユーザーだけではなく、投資家やジョイントベンチャーからも熱い視線を集めており、2016年夏には総額約4億円の第3者割当増資を実施。創業当初は、法整備に時間がかかることを見越して避けていた民泊事業にも本格的に参入した。有効活用されていない空間はいくらでもある。スペースマーケットの活動領域はまだまだ広がりそうだ。

ミーティングの後はそのままパーティーに。柔軟性の高いキッチン付きのスペースが人気を集めている。

パーティーから地域活性化まで
スペースの可能性は無限大

サービス開始から3年。180件だった登録スペースは12,000件まで増え、2019年までに50,000件を目指すという。

現在は首都圏での利用が集中しているが、スペースマーケットは地方にも目を向けている。そもそもサービス立ち上げの裏には、「地方を元気にしたい」という重松氏の志があった。スペースの貸し借りに携わるなかで、それが実現できるのではないかと考えていたのだ。

「世の中に足りないのはアイデアです。私たちはスペース活用のノウハウを蓄積しつつありますが、単に人と空間をつなぐだけでなく、アイデアのプラットフォームになることも目標の一つ。アイデアさえあれば新しいことに挑戦したいという人は、地方にいくらでもいますからね」

実際に、大都市から離れ、畑に囲まれた古民家が、泊まり込みの企業研修からコスプレイヤーの撮影会まで、幅広い用途で使われるようになった。眠ってしまっているスペースに魅力的なリノベーションを施すことで、新たな価値が生まれる。そんな宝の山が埋もれていることに気づかされた地方自治体とスペースマーケットが手を組み、新しい動きを作り出そうとしている。

人が住まなくなった古民家にも、魅力を感じる人が大勢いる。スペースマーケットがその需要を掘り起こした。

日本の閉塞感を打破するのは
経験も知識も豊富な“大人ベンチャー”

ベンチャーというと、20代の若者が立ち上げるイメージだ。37歳で起業した重松氏を“遅い”ととらえる人もいるかもしれない。

「だけど、シリコンバレーでは起業家の平均年齢は30代後半。人脈があるか、マネジメントの経験があるか、それからB to Bで成功するためには、法人の何たるかをわかっている必要もある。必要な下積みを経ての起業だから、それぐらいの年齢になるのは当然です」

大企業とベンチャーで働いた重松氏もまた、若者にはない経験と人脈を得ていた。若くて勢いはあっても、何も知らない状態での起業とはまったく異なるため、重松氏はスペースマーケットを“大人ベンチャー”と呼ぶ。じっくりと準備を重ねてきた大人だからこそ、可能な発想と実行力というものが確かにあるのだ。

「“所有から利用へ”という考え方は今後ますます広がっていく。私たちのようなベンチャーが、その流れを加速しながら、人口減少などの難しい問題と向き合うことで、日本の閉塞感は必ず打破できると信じています」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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