ヒラメキから突破への方程式
株式会社ベクトル
代表取締役・CEO
西江肇司
写真/芹澤裕介、動画/トップチャンネル、文/福富大介 | 2015.06.10
株式会社ベクトル 代表取締役・CEO 西江肇司(にしえ けいじ)
1968年生まれ、岡山県出身。関西学院大学卒。大学在学中に起業し、卒業後、1993年にセールスプロモーションを事業とする株式会社ベクトルを設立。2000年よりPR事業を中心とした体制に移行。さまざまな企業のPR戦略のコンサルティング、PRの手法開発を手掛けながら売上を拡大。2012年、東証マザーズに上場。2014年、東証一部へ市場変更、持ち株会社へ移行。2011年からは海外へ積極的に進出し、アジアナンバーワンを目指す。連結グループ会社は45社(2018年11月)。
関西学院大学に入学後、学生向けパーティーを開催する学生起業家になった西江氏は、大学卒業の年に株式会社ベクトルを設立した。当初の事業内容は、セールスプロモーション。しかし業績はパッとしない。そんな時に出会ったのがPRという仕事だ。
「最初は客としてPR会社に仕事を依頼する立場でした。テレビで紹介してもらえるということで、クライアントと一緒にその放送を見ていたのに、結局紹介されず……」
当然トラブルに。PR会社に対する不信感も生まれたこともあり、「それならば」と自らPR事業を始めることになる。
「業界やノウハウのことは何も知らなかったんですが、自分でできると勝手に思い込んでいました」
とりあえず走り出して、走りながら考える。まさにベンチャー経営者らしい行動力だ。
「2000年に大口の契約を獲得した時も、とにかく『できます!』と答えてクライアントを安心させ、受注してからいろいろな会社にヒアリングに行って勉強しました。その時に心掛けたことが“専門家の話は鵜呑みにしない”ことです」
過去に自分が痛い目にあった経験から、これまで通りのやり方ではダメだということが分かっていたのだ。
実績もノウハウもなかったが、困難を成長のきっかけとポジティブに捉えた西江氏に神風が吹く。2008年、リーマンショック勃発。これがベクトルにとっては、思わぬチャンスとなった。
「経済が縮小するなかで、企業は広告宣伝費にこれまで通りの予算を割けなくなったんです。さらに時代の変化とともにWebやSNSなど多様なメディアが台頭したため、商品やサービスを広める手段としてPRの重要度が一気に高まりました」
ところが、従来のPR会社は、ニュースリリースを作成してメディアに投げ込むだけの「広告PR代行業務」に終始。
「僕は、そんな生温いやり方じゃダメだと感じて、もっとメディアで取り上げられるためのアイデアを捻り出し、自ら行動して考え続けました」
そして、たどり着いたのが「戦略PR」だ。
「普通PR会社は企業の広報部にアプローチします。しかし我々は、PRはモノを広めるマーケティング活動の主軸と位置付け、広告宣伝部から予算をもらい、時流と商品をつなぐために戦略的にPRを行うことを提案します。これが『戦略PR』です」
確かに、テレビCMであれば百億円単位の広告費がコストとしてかかるケースもあるが、PRなら無料だ。
「さらに、PRで取り上げられる記事はそれ自体がコンテンツなので、飛ばされることがない。つまり、視聴者へリーチがしやすいのです。戦略的にPRを行って、メディアに取り上げられさえすれば、コストカットと効果アップの両方が狙えます」
その「戦略PR」を成功に導くのが独自の“情報開発力”だ。
「単純に企業の視点から商品やサービスのセールスポイントを羅列したところで、メディアは興味を示しません。あくまで情報を取り上げるメディアの視点、そしてその先にいる消費者の視点でセールスポイントを整理し、加工するのです。
さらに、時代の変化を先読みすることも重要です。動画やSNSなど、時代によって流行があり、変化のスピードは速い。だから世界中の情報を追いかけるチームをつくり、週に1回会議でキャッチアップするようにしています。
そのうえで3~5年の中期的な流れも読んでいます。常にこれからの方向性を意識しながら、週単位の情報収集で大きな動向を探っているんです」
“戦略PR”によって業界に新風を巻き起こし、快進撃を続けるベクトル。2012年には上場も果たし、海外展開と新規事業を加速させている。既に香港、上海、北京、インドネシア、ベトナム、タイ、台湾と、アジア各国各都市に進出した。この勢いで5年以内にアジアナンバーワンを目指す。
「僕はベンチャー起業家だから、自分の知らないところに行って、ゼロから難しいところを攻めるのが大好き。アジアナンバーワンはあくまで1つの目標です。とにかく、一番面白いことをやりたい!というのが本音ですね」
vol.56
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