ヒラメキから突破への方程式
株式会社カラーズ
代表取締役社長
経沢 香保子
写真/宮下 潤、動画/トップチャンネル、文/福富大介 | 2015.10.13
株式会社カラーズ 代表取締役社長 経沢 香保子(つねざわ かほこ)
1973年千葉県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルートに入社。その後、創業間もない楽天にて楽天大学など様々な新規事業を成功させ、2000年26歳でトレンダーズ株式会社を創業。2012年に東証マザーズへ当時最年少女性社長での上場を経験。プライベートでは、3回の出産と育児を経験。様々なテレビ番組のコメンテーターとしても活躍している。著書は、『自分らしい人生を創るために大切なこと』『自分の会社をつくるということ』『日記ブログで夢をかなえる』『夢を実現した わたしの仕事 わたしの方法』(ダイヤモンド社)など他多数。
「社会のインフラになるようなもの、時代を進化させるようなものをつくることが、ロマンであり夢です」と語る経沢氏。
2度目の起業となるカラーズでは、まさに日本の社会を変える試みを打ち出している。テーマは、育児だ。自身もワーキングマザーとして悪戦苦闘した経験から、日本の育児スタイルに革命を起こすことの必然性を感じたという。
「私が30歳で妊娠した時、お腹の子どもが難病を患っていることがわかりました。生まれてこられないかも知れない、生まれたとしても24時間介護が必要だと言われたのです」
当時社員7名を抱える経営者。出産したら子どもを保育園に預けて、すぐに復帰しようと考えていたが、その計画はもろくも崩れた。その時に、はじめてベビーシッターを身近な存在として認識したという。
「でも、日本でベビーシッターを頼もうと思ったら、自分で探すことは非常に困難ですし、どこかに紹介を頼もうと思っても非常にコストがかかってしまいます。この経験から、どこよりも安く、簡単かつ安心・安全にベビーシッターを頼める仕組みをつくりたいと、ずっと思い続けていました」
その十数年来の思いを詰め込んだのが、ソーシャルシッティングサービス「キッズライン(KIDSLINE)」だ。
「キッズラインは、インターネットとソーシャルネットワークを活用することで、安心・安全を透明化し、即日対応も可能にしました。このように利便性を高めながら、1時間1,000円からという低価格でサービスを提供しています」
また自身の育児経験から、クリエイティブな育児を広めるための情報提供に努めたいとも考えている。そのためのメディアが、育児キュレーションサイト「Up to you!」だ。
「国内外のキュレーターたちが、ポジティブな育児情報を発信することで、“育児って楽しい!”“子どもを生んでみたい!”と思える女性が一人でも増えて、優秀な子どもたちが沢山育ってくれるような未来が理想ですね」
スタートしたばかりの2つのサービス、特にキッズラインを利用した母親からは日々喜びや感謝の声が絶えない。しかし意外なことに、経沢氏はこの状況に危機感を抱いているという。
「日々お客様から感謝されるので、それだけで満足してしまう。でも、ここで満足してしまっては駄目。私がやりたいのは、“育児革命”であり、女性一人ひとりが持っているスキルを100%発揮して輝ける社会の実現です。大きな改革をしているんだという意識を常に忘れないようにしなければいけません」
改革という意味では、労働を提供するシッターたちにとっても働き方や生き方を変える画期的なものでなければならない。
「保育士資格を持ちながら、結婚・出産を機に退職して家庭に入った女性が日本には約70万人いるといわれています。その人たちに、スキルを生かした新しいワークスタイルを提供したい。
さらに保育士でなくとも、自分の子どもを立派に育て上げた育児スキルの高い専業主婦が、労働市場に進出するきっかけとなり、彼女たちの経済的自立をサポートしたいと思っています。このような潜在層をどう取り込んでいくかは、今後の大きな課題です」
一方で確実な手ごたえを感じている取り組みもある。
「カラーズでは今年8月、女子大生層へアプローチするために『女子大生キッズラインベビーシッター資格認定講座』を開講しました。すると、募集と同時に口コミだけで100人超の女子大生が殺到。
彼女たちは、“ワーキングマザーのライフスタイルを間近で見られるので就職活動や将来設計に役立つ”“育児スキルが身につくので未来の子育てに役立つ”と、ベビーシッターとして働くことのメリットを感じてくれています」
自分の人生をどうデザインするかを考える上で、有意義な体験となったそうだ。
「シッティングを依頼する女性とベビーシッターがお互いのライフスタイルを支え合い、お互いのスキルやノウハウをフィードバックするような女性の循環サイクルが構築できれば、日本の女性問題や労働問題は解決できると信じています」
もちろん、このような大きな改革を実行するには、規模の拡大が不可欠。サービスのクオリティを高めながら、3年以内にキッズラインを全国に行き渡らせることが当面の目標だ。
「起業家こそが、社会を変えるイニシアチブを持っています。大きな志を忘れずに、世界を変えるような事業を視野に入れていれば、目先の悩みはちっぽけなことだと感じますね」
そう力強く語った経沢氏の瞳には、自ら生み出したサービスによって、より豊かに進化した未来が映っているに違いない。
vol.56
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