ヒラメキから突破への方程式

退路を断って即行動 “情熱”と“忍耐”で時流をもつかむ!

弁護士ドットコム株式会社

代表取締役会長

元榮太一郎

写真/芹澤裕介、動画/トップチャンネル、文/髙橋 光二 | 2017.01.24

無料で法律相談ができるポータルサイト「弁護士ドットコム」。毎月約850万人以上が訪問するこのサイトを立ち上げたのは現役の弁護士でもある元榮太一郎氏。2014年12月には、日本で初めて、弁護士として東証マザーズによる株式上場を果たす。元榮氏が事業に込める思いとは?

弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長 元榮太一郎(もとえ たいちろう)

1975年アメリカイリノイ州生まれ。慶應義塾大学法学部卒業の翌年、司法試験に合格。2001年にアンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。 M&Aを中心とした最先端の企業法務に携わる。2005年に独立し、オーセンスグループ株式会社(現・弁護士ドットコム株式会社)を設立し、無料法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」の運営を開始。2014年12月に東証マザーズに上場。

ユーザーの無料相談に対する弁護士からの回答率が95%以上、しかも1時間以内の回答が90%以上という極めて高いパフォーマンスが人気の「弁護士ドットコム」。ユーザーのみならず弁護士にも、回答を通じて信頼感が醸成されるメリットがある。この“Win=Win”の構図がキモといえよう。元榮氏が「専門家をもっと身近に」と願い、このサービスを生みだした背景には、次のような経緯があった。

「法律事務所に勤めていた2003年ごろ、ネットベンチャーのM&Aを通じてインターネットには無限の可能性があると感じました。そして、ゼロから会社を起業し大きく育てる様を見て、一度きりの人生、司法試験に合格しただけではない生き方にチャレンジするのも非常に面白いと思ったのです」

成功の確度を高めるため、自分の得意領域である弁護士とインターネットを掛け合わせたサービスをつくろう。そんな思いのなか、引越しの金額を比較するサイトを見かける。

「モノだけでなく、サービスも比較できるのか。待てよ。弁護士もサービス業じゃないか! そんな感じでした(笑)」

元榮氏は20歳の時に交通事故を起こし弁護士に助けられた記憶を思い出し

「当時の自分のように困っている人は、日本中にたくさんいるに違いない。しかし、弁護士ってどこにいて、どうやって相談すればいいかわからない。それを教えるサイトをつくれば絶対に喜ばれるに違いないと確信したのです」

周囲が引き留めるなか、元榮氏は即座に大手法律事務所を退職する。

「まず退路を断ち、起業に集中しようと。100%集中することで“突破力”が生まれると考えたからです」

ネットビジネスや起業に関する本を読み漁り、元榮氏は2005年1月、「弁護士ドットコム」を設立。そして弁護士の勧誘を始めたが、反応はさっぱりだった。

当時はまだ「従来の牧歌的な“一見様お断り”の弁護士界のままで、まだ見ぬネット上の潜在ユーザーにアピールする必要性など全く理解されなかった」と述懐する。もちろん、そこで諦めるのではなく、親しい弁護士に頭を下げて回り続け、なんとか200人を集めて同年8月ローンチ。

分野別・地域別で弁護士が検索できるほか、弁護士への無料相談や、他人の相談の閲覧(有料)ができる。

しかし、やっとの思いで開設はできたものの反響を得られず1年ほど無収入状態が続いた。貯金が底をつき、元榮氏は再び弁護士業を始めることに。

「幸いなことに、初の弁護士起業家ということでメディアに取り上げられたので、顧問弁護士の依頼などが舞い込みました。その収入をサイト運営に注ぎ込む期間が、結局8年間続きました」

そんな苦しい期間を支えたのは、ユーザーからのメッセージだった。

「『借金に困って、もう首を括ろうと考えていた時、弁護士ドットコムを通じていい弁護士に相談でき、なんとか前に進めるようになりました。ありがとうございます』というメッセージが届くのです。自分たちがやりたかったことができている。よし、頑張ろうと励まされましたね」

ユーザーの声を聞く度に「俺たちのサービスは役立っている」と元榮氏は自分を奮い立たせながら、愚直に運営を続ける。風向きが変わったのは、2007年の12月から「司法改革」により導入されたロースクールの1期生が弁護士市場に参入し始めたこと。

年間2,000人ほど登録される時代になり、「弁護士もマーケティングが必要」という認識が業界に一気に広まり始めたのだ。そして、消費者金融の「過払い請求」への対応という“特需”が、2010年の消費者金融大手の破たんで終焉したことが大きかった。

「待っているだけでは仕事は来ない、という状況になり、『弁護士ドットコム』へ登録する弁護士の数もみるみる増えましたね」

これにより、ユーザーの利用も急増し、メディアとしての広告収入および、登録弁護士およびエンドユーザーに対する月額課金(機能制限解除)も実現。今では、弁護士の5人に1人がサイトを利用するまでに成長しているという。

このように弁護士紹介サイトとして圧倒的な存在になりながらも、元榮氏は挑戦をやめない。2014年6月に、「弁護士ドットコム」で培った運営ノウハウを注ぎ込み「税理士ドットコム」もリリース。事業基盤強化を計るとともに、元榮氏の「専門家をもっと身近に」という理念に向かって邁進を続け、2014年12月には見事、東証マザーズ上場を果たす。

税理士への無料相談や、税理士の検索とともに、自分に合う税理士を無料で紹介してもらえる。

「上場は企業としての通過点に過ぎません。今後目指すは“110番、119番、弁護士ドットコム”と思われるほど、さらに身近な存在になること」と元榮氏。

2015年10月には、事務負担の大きい“紙の契約書”を一掃する、日本初のクラウド契約サービスサイト「クラウドサイン」を立ち上げた。すでに“弁護士資格ももつ、有能なベンチャー経営者”の風格すら漂う。そんな元榮氏は、謙遜しつつ後進にこうアドバイスして結んだ。

「自分自身まだまだ修行中の身ですが、起業に躊躇している人には、一度きりの人生は有限であると言いたいですね。やりたいことがあるなら、素直に向かい合うべき。その熱い心が、日本を元気にすると思います。一緒に頑張りましょう!」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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