ヒラメキから突破への方程式
株式会社ティーケーピー
代表取締役社長
河野貴輝
写真/芹澤裕介 文/竹田 明(ユータック) | 2017.10.13
株式会社ティーケーピー 代表取締役社長 河野貴輝(かわの たかてる)
1972年10月13日生まれ、大分県大分市出身。慶應義塾大学商学部卒。1996年、伊藤忠商事に入社、為替証券部に配属。日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)の設立にかかわる。2000年、伊藤忠を退職し、イーバンク銀行(現・楽天銀行)で執行役員営業本部長などを歴任。2005年、株式会社ティーケーピー(TKP)設立。2017年3月27日に東京証券取引所マザーズ市場へ上場。
伊藤忠商事の為替証券部でディーラーを経験した後、ITの知識を買われて日本オンライン証券の設立に参画し、伊藤忠商事を退社してイーバンク銀行(現・楽天銀行)の立ち上げメンバーとしても活躍した河野社長が、株式会社ティーケーピーを創業したのは2005年。当時は新興企業が新興市場で株式公開するのが流行りだった。
大学時代から起業を志してきた河野社長は、日本オンライン証券とイーバンク銀行の設立を経て「今度は自分の番」と考えていた。しかし、未来計画はまったくの白紙。ただ、インフラビジネスをしたいという思いと、不動産の有効活用が念頭にあった。
「インフラビジネスは資金が必要なため、公共機関か大企業しか参入できません。独立したてのベンチャーができるのは、世の中で有効に活用されていないものや、ニッチなニーズを見つけて、そこをITと金融の知識を使ってビジネスにすることです」
そんなとき、河野社長は六本木を歩いていて、取り壊しが決まっているビルと出合う。現在の六本木ミッドタウンが建つ場所で、当時は再開発のため周辺ビルの立ち退きを進めている段階だった。
「周囲の物件が高い坪単価で貸し出されているのに、取り壊しが決まっているというだけで、そこは何も生み出していませんでした。撤去作業を始める際には速やかに引き渡すという条件付きで安く借り、そこを会議室として貸せば利益が出ると考えました」
早速ビルのオーナーに連絡を取り、2階と3階を借りた。これが、TKP第1号の会議室だ。
TKP第1号の会議室は六本木にある取り壊しが決まっているビルから始まった。
河野社長の狙い通り、TKPの時間貸会議室は大ヒット。「TKP貸会議室ネット」というウェブサイトをつくり受付をすると、すぐに予約で埋まった。1人1時間100円。商社で大金を動かしていたときとはまったく違う世界。それでも、河野社長は毎日が楽しかったと当時を振り返る。
「この一拭きが100円!とウキウキしながら机を拭いていたのが、今となっては良い思い出です。自分の力で稼いでいる実感がありました。とにかく、事業は最初から順調で、入金を確認するための記帳が楽しかったのを覚えています。
ホワイトボードにビジネスの成長フローを書いて、最初は古いビル、エレベーターの無いビル、最終地点はホテルの宴会場を会議室として利用すること……といろんなことを考えました。早くそれを実現したいと思いながら働いていましたね。
ビジネスで重要なのは仕組みづくりです。TKPの事業は、例えるなら、翌日が消費期限の100円のジュースを10円で買って、今日飲みたい人に50円で売れば、売り手は廃棄する商品を10円で売れ、買い手は100円のジュースが50円で手に入る。そして間に入った人も40円儲かる、そんな仕組みです。みんな儲かっているから成功するんです」
最初の月の売上は50万円だったが、翌年には月1億円にまで増加。物件さえ見つけてくれば事業はどんどん大きくなった。
創業から3年、順調に売上が伸びていたTKPを、リーマン・ショックが襲う。会議室利用のキャンセルが相次ぎ、月間1億円の赤字を計上するという事態に陥る。
立て直しに奔走する一方で、貸会議室ビジネスだけを展開するリスクを感じた河野社長は、会議・研修のトータルサービスの提供を開始し、ビル管理事業やコールセンター事業に参入した。さらに、中国とアメリカへの進出も果たし、ポートフォリオを意識した事業構造を構築する。
リーマン・ショックの影響から立ち直り、再び成長軌道に乗る矢先、今度は東日本大震災が発生。世の中全体にイベントの自粛ムードが広まり、どこのホテルも宴会場のキャンセルが相次ぎ、稼働率が大幅にダウンした。
そんななか、河野社長は再びピンチをチャンスに変える。ここぞとばかりに、ホテルの宴会場をTKPの貸会議室事業に組み込んでいったのだ。
「ホテルなら音響設備も充実しているし、厨房があって料理人がいるから食事も提供できます。これがお客様から好評でした。それまでのTKPの会議室は、ただスペースを貸し出すだけで、食事はケータリング業者に任せていました」
ホテル内宴会場の開業で質の高いサービスを提供でき、多目的な利用のニーズに対応することが可能になった。そして、より高付加価値のサービスを実現するために、シナジー効果のある事業の展開も次々と手がけていった。
「物件を仕入れて会議室として貸し出すだけでなく、質の高いサービスで価値を最大化し、相応の利用料をいただく。これで収益がさらに拡大しました。加えて、ケータリングビジネスや音響機器のレンタルサービスも始め、レストランや旅館、ビジネスホテルの運営まで手がけるようになりました」
取り壊しが決まっているビルの有効利用から始まったTKPのビジネスは、今やいろいろな事業を再生する企業に進化。まさに“空間再生流通事業”の体現といえる。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美