ヒラメキから突破への方程式

人が「不」を感じるところに利他主義のビジネスを育てる

株式会社ネクスト

代表取締役社長

井上高志

写真/宮下 潤、動画/トップチャンネル、文/大野重和(lefthands) | 2014.08.11

インターネットによる不動産情報流通のインフラを開拓。起業当時、まだ情報格差の大きかった分野に風穴を開け市場を開拓したネクスト。不動産デベロッパーに勤めた新入社員の頃職務を超えてお客様のニーズに応えたときの喜びを原点に利他主義を貫きながらもダイナミックにビジネスを展開する井上高志社長に話を伺った。

株式会社ネクスト 代表取締役社長 井上高志(いのうえ たかし)

株式会社リクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)からリクルートへ出向・転籍後、「不動産業界の仕組みを変えたい」との信念から、1997年、株式会社ネクストを設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指し、不動産・住宅情報サイト『HOME'S』を立ち上げ、質・量ともに日本最大級のサイトに育て上げる。地域情報サイト「Lococom」など、不動産業界にとどまらず、よりよい社会の仕組みづくりを目指し事業を展開。2017年4月、株式会社ネクストから株式会社LIFULL(ライフル)へと社名変更。個人の活動として、寄付に頼らず、ビジネスを通じて途上国の「自立」と「子どもたちの幸せ」を支援するためのプロジェクト「FEEL PEACEプロジェクト」を立ち上げ、西アフリカ・ペナン共和国の支援を行っている。2014年、100年後の世界をより良いものにするため行動を起こすべく、一般財団法人「Next Wisdom Foundation」を設立し、代表理事を務める。

インターネットと不動産。ネクストは、当時誰も思い付かなかった二者を結び付けるというひらめきを形にし、業界のトップを走り続けている。

「1991年、私はマンションデベロッパーの新入販売員として働いていました。とあるご夫婦が、私の紹介した物件を気に入ってくださったのですが、ローン審査が通らなかった。そこで気の毒になって、気に入ってくれそうな物件をできる限り探してあげたんです。結果、お客様は他社のマンションを購入することになり大変喜んでくださいましたが、私は上司から叱られました。

でもそのときに、やっぱり働くというのは、笑顔をたくさんつくり出していくことなのだなと感じ入りました。それ以来、一生に一度の大きな買い物をされるお客様に対して、情報格差なく、求められる情報をすべて提供していきたい、そんな風に思ったのがきっかけでした」

ネクストが開発したバーチャル内覧アプリケーション「Room VR」。ヘッドマウントディスプレイにより、遠隔地にいてもバーチャルに部屋の内覧体験が可能。

そうした原体験をもとに、井上高志社長は事業コンセプトを画策していく。

「そのあと4年間、私は別の仕事に就いていたのですが、いつしか3つのコンセプトを考えつきました。まずは、全国津々浦々にある、すべての住まいの情報を一元管理するデータベースをつくろうと。情報を持っているのは売り主、貸し主、不動産会社ですから、彼らとつながるネットワーキングも必要です。

最後に、集まった情報をユーザーに伝えるためのメディア。データベースとネットワークとメディアをつくり上げて、いつでも誰でも無料で見られるサービスにしようと考えたんです」

驚くべきは、そのときの井上社長は、まだインターネットの存在を知らなかったというのだ。

「当時フランスで、ミニテルというマルチメディア端末が普及しているという話を聞いたんです。ただ、初期投資に100億円もかかると知り、悶々としました。インターネットの存在を知ったのは、まさにそんなときだったんです。そこで意を決して会社を辞め、いましかない! とばかりにスタートしたのが、ネクストの第一歩でした」

まだ誰もインターネットの可能性に気付いていなかった時代である。だが、試行錯誤の日々に光は差した。

「1995年、個人事業主として起業し、HOME'Sの原形となるサイトを起ち上げました。4ヶ月待ちましたが、初めての成約がありました。本当にインターネットで家が売れる時代が来たんだという手応えに、興奮しましたね。96年の年明けのことでした」

正式に法人登記したのは97年のこと。そして2006年にはマザーズ上場を果たす。

「02年までに、HOME’Sの加盟店は1,000店舗まで拡大していったのですが、後発の同業他社に追い抜かれてしまうんです。そこで営業の仕方を、アウトバウンドからインバウンドのスタイルに切り替えました。

これが功を奏して、5年間かかって1,000店舗だったところを、次の1年で1,300店舗さらに純増させました。そして03年から、どこよりも先にSEO対策に注力しました。結果、ユニークユーザー数がその後2年間で3倍に増えるという劇的な成長を遂げました。10年に東証一部に指定替えをしてからは、海外進出も進めています」

上場の鐘を叩く、井上高志社長。上場に伴い、資本力、信用力、認知度をアップさせたネクストは、さらに勢いを得て、業界トップを走り続ける。

時代に合わせてチャレンジし続ける井上社長。ひらめきの元はどこにあるのだろうか?

「もともとHOME’Sは、ユーザーにとって最も嬉しいことは何かと考え続けた結果生まれた、利他主義を主眼に置いたビジネスです。世の中にある不満、不安、不便というものを、どうしたら満足や安心に切り替えられるだろうとつねに考えているわけです。ヒントは、人が『不』を感じるところにあるんですね」

最後に、アーリーステージの起業家たちに対するアドバイスを求めた。

「まずは、ちゃんと稼ぎなさいといいたい。会社というバスに乗ってゴール地点を目指すとき、乗組員を誰にするのかというのも大事ですし、どこのゴールに向かうかというのも、ドライバーは伝えないといけない。これが会社の経営理念になるわけですよね。

ただし、ガソリンを入れないとバスは走りません。稼ぐというのはそのガソリンを入れることと同じで、これがなければ前に進めない。だから、売上や利益にはこだわりつつ、世のため人のためになるような働き方をして、たくさんの人たちに喜ばれるような事業やサービスを目指して欲しいですね」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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