ヒラメキから突破への方程式

【ファクトリエ×ファン】ファンを仲間にする“三方良し”のブランド戦略

ライフスタイルアクセント株式会社

文/吉田祐基(ペロンパワークス) 写真/芹澤裕介 | 2020.09.18

工場直結のメイドインジャパンブランドとして、商品をただ売るのではなく「つくり手の想いをお客様に伝えたい」と語る「ファクトリエ」代表の山田敏夫氏。伝えるうえで重要な役割を担うのが、ファクトリエの広報とコンシェルジュの存在だ。
では、実際どのようにしてつくり手の想いを伝えているのか。また、ファクトリエにとってファンとはどのような存在か。広報の山岡 真由子氏とコンシェルジュの羽田野 真衣氏に話を聞いた。

ライフスタイルアクセント株式会社  

2012年1月創業。メイド・イン・ジャパンの工場直結ファッションブランド「Factelier(ファクトリエ)」を展開している。「語れるもので日々を豊かに」という理念のもと、職人のこだわり、ストーリーが詰まった、人に語りたくなるものを長く大切に使ってもらいたい、そんな想いと共に、工場と消費者を直接結ぶことによって高品質な商品を"適正価格”で提供している。
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つくり手と買い手を“つなぐ”ブランド

ファクトリエでは、つくり手(生地づくりや縫製を手がける工場)と買い手をつなぐ取り組みをリアル・オンライン問わず行っている。

例えばリアルでつながる機会としては「工場ツアー」や「ものづくりカレッジ」などがある。工場ツアーとは、実際にどのような過程を経て商品が生まれるのか、買い手に直接見てもらう場だ。もともとは各地の縫製工場を回り、すばらしい技術に触れるなかで代表の山田氏が「これをお客様にも直に見て体験して欲しい」と思ったのが始まりとなる。

つくり手の想いだけでなく、手間や労力を買い手が体感することで、“値段以上の価値”を伝える狙いがある。工場ツアーが終わると、参加者のコメントがSNS上で投稿され、その工場でつくる商品の売り上げも伸びるという。

また、ものづくりカレッジはチョコレートやクラフトビール、ダイヤモンドなどファッションに限らずさまざまな分野の職人がものづくりを語る場だ。分野は違えど、ものづくりの裏にある職人の想いを語ってもらうことで、ファクトリエが大切にしている「主役はつくり手」という価値観を間接的に伝える場としての役割もある。

さらにオンラインでつながる機会で言うと、ファクトリエの販売サイトでは服の機能や特徴の紹介だけでなく、工場で働く人の取材記事も掲載されている。

各商品ページでは、購入者限定でその商品のつくり手(工場)へ応援メッセージを送ることができる。寄せられたコメントに対して工場側も返信できるようになっており、オンライン上でつくり手と買い手の相互コミュニケーションが可能となる。

「お客様から届いたメッセージを、従業員の見えるところに張り出している工場もなかにはあります。それぐらい買い手からのメッセージは嬉しいわけです。工場の従業員のモチベーションはアップし、ものづくりの現場は活性化。結果的に良いものづくりにつながっています」(ファクトリエ 広報  山岡 真由子氏、以下同)

これまで生地づくりや縫製を手がける工場は、アパレルブランドからの発注を受けてつくり、そこで終わりだった。商品を手に取った買い手の声を聞く機会はなかったといえる。

また従来、ブランド名が商品に刺繍されることはあるものの、つくった工場の名前まで刺繍されることはなかった。しかしファクトリエでは、商品に工場の名前も刺繍している。

ファクトリエが最初に提携した世界に誇れるシャツファクトリー「HITOYOSHI」。

世界的に有名なブランドとの取引きもある100年工房「HIROAN」の革小物。

開発に40年以上費やしたという“ものがたり”がある「東洋繊維」の唯一無二の和紙ソックス。

「日本には世界ブランドが信頼している工場がたくさんあります。にもかかわらず工場の名前そのものが、ブランドとして認知される機会はありません。なので私たちは工場名を前面に出します。そして、その工場のファンが増えて欲しいと考えています。

ファクトリエは、これまであまり知る機会がなかった工場と購入者のつなぎ手であり、伝え手の役割を担っています。工場も自社で情報発信を行うには、そこまで手が回らない現状もあります。私たちとしてはもっと、ものづくりに集中して欲しい。だからこそ、ファクトリエが代わりに工場の想いや過程を言語化し、お客様に伝えているわけです」

お客様は神様“ではない”

日本では「お客様は神様」として、消費者の言うことはすべて聞く姿勢が美徳とされる場面もある。しかし山岡氏によると、お客はあくまでも“ファンであり仲間”だという。

「お客様があってこそなので、当然お客様は大切なんです。ですが、お客様の表に出てくる声を聞き過ぎてしまうと、つくられる商品は主張がなくまとまり、ファクトリエの世界観は守れなくなってしまいます。これだけブランドが溢れる時代に、世界観が守れなくなったら買い手に選ばれることもありません。それこそ消費者のトレンドに合わせたものづくりを行っていると、結局店頭に並ぶ商品はどこも同じになる。するとお客様にとってはどの商品も似たようなデザインだから、後はより価格が安い商品を求めて価格競争になってしまう。そしたら、つくり手の工場も利益が出づらくなり、疲弊してしまいますよね。

『もっと安くしてよ』という声に耳を傾けていたら、工場の人の生活は守れなくなる。大切なのはあくまでも商品を手にとったお客様が、『本当に欲しい』と思える商品をつくり心から満足してもらえること、そして『これって、このブランドっぽいよね』と思ってもらうことなんです」

リピーターなど、購入者がブランドのファンになることは理解できる。だが、お客が“仲間”であるとは、どういうことなのか?

「お客様のなかには購入いただいた商品をSNSに投稿したり、人におすすめしてくれたりと、商品にまつわる物語を自発的に伝えてくれる人もいます。つまり、私たちがやっている活動を“一緒に”行ってくれるわけです。ファクトリエを心から応援してくれますし、『こうしたほうがいい!』などのご提案をいただくこともあります。ファクトリエにとってのお客様は、ファンでもあり仲間なんです」

しかし、良いモノをつくるだけではファンが仲間になることはないと言う。

「品質の良い商品をつくるのは大前提です。それにプラスしてファクトリエや工場が大事にする価値観を繰り返し伝える。すると、ものがたりに共感してくれたファンが、さらにファンを呼んできてくれます。『お客様』『工場』『ファクトリエ』それぞれの目的がバランスした三方良しの関係性を大切にしています」

提携する工場は、自らの「工場希望価格」を提示できるため、従来のように「小売り希望価格」からコストを算出したときよりも利益を確保しやすい。またファクトリエでは、中間業者を介さずに直接お客に商品を届けているため、中間マージンが上乗せされない価格で商品を購入可能だ。語れるものを中心としたこだわり消費の生態系をつくることで、買い手(お客)、つくり手(工場)、売り手(ファクトリエ)の三方良しの関係性を実現している。

ファクトリエの広報はフィールドが広い

一般的に、広報の仕事とは会社の魅力を社外に伝えるというイメージがある。しかしファクトリエの目的はあくまでも認知にとどまらず、“工場やファクトリエのファンをつくる”こと。それゆえに、山岡氏が担う役割も幅広い。

最近ではコロナ禍で外出が制限されるなか、お客と双方向のコミュニケーションを実施できる機会を設けようと「オンラインコンシェルジュ」を企画。自宅と店舗をオンライン上でつなげることで、お客との新たな接点を設けた。

「ファンの皆様とのコミュニケーションで、一方的にインスタや動画で商品の魅力をPRするだけでは不十分だと思いました。やはり来店していただくことは難しくても、お客様とコンシェルジュとの顔が見える双方向のコミュニケーションを大切にしたいなと。その方がより深い関係を築くことができますし、お客様のECで購入する際の悩みが解決できるのではないかと考えたためです」

そして、山岡氏にとって広報を次のように定義する。

「ファクトリエにとっての広報は“ファンづくり”なんです。ファクトリエに共感してくれるファンをいかに増やすか、ですね。そのための方法は色々あると思いますし、他のチーム横断のプロジェクトを企画することもあります。例えば、工場文化祭のように工場と購入者が直接つながる機会をつくったり、オンラインコンシェルジュみたいにファクトリエとお客様が深くつながる時間もつくる。あらゆるコミュニケーションを設計する伝え手のプロでありたいと思います」

昨年からは洋服ができるまでをゼロから体験できる、「COTTON PROJECT(コットンプロジェクト)」を実施。「ファクトリエの『語れるもので、日々を豊かに。』という世界観を楽しみながら感じていただける(体験していただける)プロジェクトです」(山岡氏)

コンシェルジュは売り手ではなく“伝え手”

ファンづくりにおいては広報だけでなく「コンシェルジュ」の役割も大きい。ファクトリエでは店頭に立つ販売員をコンシェルジュと呼び、売るではなく「伝える」に力を注いでいる。

「トレンドや素材感など、服の話だけでなく、工場の人がどういう過程や試行錯誤を経てつくったのかなどもお客様には伝えます」(ファクトリエ コンシュルジュ  羽田野 真衣氏、以下同)

コンシェルジュ自身、工場ツアーの引率などで現場に行くこともしばしば。加えて、コンテンツ作成のための取材や店舗イベント開催のために、日頃からつくり手とコミュニケーションを取っているからこそできることだ。

コンシェルジュの羽田野氏自身は、もともと百貨店で高級ブランドの販売経験を持つ。そこでは、つくり手の顔が見えないことにもどかしさを感じる機会もあったという。

「通常の販売店でも、服のトレンドや素材の特徴など商品への知識は深めることができます。ただ、どういった過程を経てつくられているのかはまったく見えません。

一方でファクトリエでは私たちコンシュルジュが工場の方とも接する機会が多いため、どういう想いやこだわりで商品をつくっているのか、知る機会も多い。お客様だけでなく、工場の方のためにも商品の魅力を伝えようという考えになりますね。だから自然と、伝えるときに熱もこもる。勿論、私自身もファクトリエの品質が良いと感じるからこそ、お客さまに『本当に使って欲しい』という想いを持ちながら提案できるのかしれません」

コンシェルジュは工場のつくり手と話す機会だけでなく、生産の途中で自分たち自身が試着を行うことも欠かさない。「良いモノをほかの人にも広めたい」と、コンシェルジュ自身が工場やファクトリエのファンだからこそ、伝えるときにはお客にも熱量が伝わりやすいといえる。

「自分たちが実感したことをなるべく、お客様にも伝えるようにしています。なので、素材感など知識を覚えるのではなく、自分が最初に試着してみて直感的に感じたことを言語化するようにしていますね」

店舗は体験してもらう場所

ファクトリエでは、商品を「売る店舗」は持たないという特徴的なモットーもある。しかし銀座店、名古屋店、熊本店など各地域にリアルの店舗は存在する。

「リアルの店舗は試着などを通じて、ファクトリエの世界観を体験してもらう場。商品を売る場ではなく、あくまでも伝える場という位置付けです。なので、お客様は別に商品を選びに来るだけでなくとも純粋に『コンシェルジュと会話したい』でも良い。コンシェルジュは商品を売ろうとするわけではないので、通常の販売店より来店のハードルは低いと思いますね」

「気兼ねなく自分の趣味を話せる場」というコンセプトで新たにリニューアルした熊本本店の『Factelier & COFFEE』も、純粋にカフェとして安らぐ場所だったり、コンシェルジュと世間話をする場所として機能しているという。

とはいえ、商品を購入するだけならインターネットで完結する時代。そのなかでファクトリエは、店舗の役割をどのように考えているのか。

「2つの役割があると思っています。1つは『熱量』を伝える場。お客様の『知りたい』を聞きながら、私たちが工場の方に教えてもらった話や試着などを通じて実感したことを伝えることができます。熱量だけは、インターネットで商品の写真を見るだけでは感じることはできませんからね。それに熱量の伝染が、お客さまから一歩進んだファンを増やすことにつながると思っています。

そして2つ目は『思いがけない出合い』に遭遇する場。例えばパンツを見に来たけど、『この方時計にもこだわってそうだな』と感じたら、時計から革ベルトの話まで広げることもあります」

ただ、現在はモノが売れない時代とも言われる。特に今回のコロナウイルス感染拡大を受けて、消費の在り方を見直す人も多いだろう。しかし逆にモノが売れない時代だからこそ、お客は「本当に良いモノ」を求めているという。

「最近お会いしたお客様に、コロナ禍であまり外出しなくなったことで、逆にお金の使い道を厳選するようになった、という方がいました。その方はもともとシャツは消耗品ということで、定期的に買い換えるのが当たり前に感じていたといいます。ただ外出制限で買い物の機会が減るなか、何度も買い換えなくて良いように、本当に品質が良くて長持ちする商品を選びたいと、ファクトリエに来ていただきました。

ただ私たちは『品質が良い』だけでは、不十分だとも考えています。工場の人がどういう想いでつくっているのかなど、その商品にかける手間暇も含めてお客さんは『本当に良いモノ』と判断します。だから私たちは商品そのものの魅力はもちろん、背景にある物語も伝えるわけです」

ネットでいろいろなアパレルブランドを比較検討して購入する時代に「ここがいい」と思ってもらうためにも、商品の品質はもちろん、背景にある物語を語ることでお客にいかに体験を提供できるかはやはり大切だ。

機能の訴求ではなく体験が提供できなければ、そこに共感も生まれにくい。共感から生じるファンもつくれないといえる。「モノ消費からコト消費」は今や当たり前に言われている視点だが、ファクトリエのように体験を提供するブランドは消費者に今後ますます受け入れられていくのではないだろうか。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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