ヒラメキから突破への方程式
株式会社ジェイグループホールディングス
代表取締役
新田治郎
写真/宮下 潤 動画/トップチャンネル 文/田尻佳佑 | 2017.01.25
株式会社ジェイグループホールディングス 代表取締役 新田治郎(にったじろう)
1966年、京都市出身。高校卒業後に上京し、1985年、ディスコ「マハラジャ」などを経営する日本レヂャー開発株式会社に入社。店舗立て直しの手腕を買われ、名古屋レジャー開発株式会社の社長に24歳の若さで就任。1997年、ジェイプロジェクトを立ち上げ、飲食業に参入。2006年、東証マザーズで株式を上場する。仕事以外では野球に情熱を燃やし、2009年、ジェイプロジェクト硬式野球部を発足。2012年、第83回都市対抗野球大会予選で東海地区代表となり、全国大会初出場を果たす。
かつて名古屋では、ひとつのビルに複数の飲食店が並ぶことは珍しかった。そこに目を付けた新田代表は、おいしくて安くて、良いサービスを提供するのは当たり前、立地こそがヒットを握る鍵と考え、これまでにはない手法で店舗を立ち上げてきた。
「例えば駅前に古いビルがあったら、オーナーの元へ行き、ビルを解体して、我々の提案する飲食ビルとして建て直せば、利回りが格段によくなりますよ、と話をするんです。そうして超一等地でありながら、有効的に稼働していなかった物件に飲食ビルとして新たな価値を与えていき、事業を拡大してきました」
だが、巨額ともいえる投資に対する不安や、リスクはなかったのだろうか。
「外食産業を変えたかったんです。そして、10年で上場するという目標がありました。達成するには何をやるべきなのか、1年ごとに明確にしていました。リスクも覚悟の上でしたが、業界が成長するためには必要なことであると確信を持っていたので、あとは実行するだけでした。異常なほどのスピードともいわれますが、我々としては計画どおりに物事が進んで、結果が付いてきた、というだけですね」
そうして目標どおり、会社設立からわずか10年で上場を果たすことになる。それからは同業他社とも協力し、業界を盛り上げていくことに。
「資金を持つようになってからは、自社で土地から買い上げて、ビルをつくっていきました。複数の飲食店を集めた『G-SEVENS』や、女性向けの施設を集めた『ダイヤモンドウェイ』には自社以外の店舗や業態も入れるようにしました」
とはいえ、ライバル店を入れて売り上げに影響がないのだろうか。「同業他社はライバルではなく、一緒に業界を盛り上げていく仲間。強いてライバルを挙げるなら、外食が利用されない原因であるコンビニや、高視聴率をとるテレビ番組ですね(笑)」その考えの根底には、外食産業の枠組みを超えた、街づくりという大きな視点があった。
「旧本社ビルが伏見という繊維問屋街にあったんですが、町内会から街の活性化を頼まれたんです。当時の伏見はひっそりとした街でしたが、我々がいくつもの外食ビルを展開していくことで次第にホテルやアパレルなどの店舗が増え、今では若い人が集まる人気のスポットになっています」
街づくりを意識した事業が大企業や行政の目に留まり、さらに大規模のプロジェクトを手掛けていくことになる。
「名古屋駅にある名古屋ルーセントタワーの飲食フロアのプロデュースや、東京ディズニーリゾートのパートナーホテルにおけるコンセプトの提案や飲食部門の受託、今年3月には『日本橋室町豊年萬福』が、東京都建設局が水辺のさらなる魅力向上と地域活性化を目的に行う『かわてらす』に参画するなど、多くの企業や行政と取り組みを行ってきました。
7月1日には名古屋駅前に1年間限定で『鹿児島うまかもん市場』をオープンさせます。弊社の『芋蔵』をはじめとする多くの業態では、鹿児島の特産品を使わせて頂いていて、何か恩返しをしたいと考えていたんです。
鹿児島の生産者の想いや情熱はとても強い。それを多くの人に体験して頂くために、ただの物産展ではなく、その場で食べられるように飲食店を並べる計画を立てました。このように自社だけでなく、業界を、地域を盛り上げるための計画を『プロジェクト出店』と呼んでいます。他社には真似できない強みですね」
プロジェクト出店を軸に、これまでにない規模の計画に携わり成長してきたジェイグループホールディングス。その背景には、新田社長のスタッフへの熱い想いがあった。
「成長の陰には、会社を支えてくれたスタッフたちがいます。プロフェッショナル集団をつくっていくためには、アルバイトやパートではなく社員であることが必要だと思っています。外食産業においては正社員比率が高いといわれる弊社ですが、目指すは100%。新規の自社ビルに当社で育ち、独立していくスタッフを入れるなどして、独立のサポートも行っています。
さらには業界では初の社会人野球チームを持っています。組織というのは、達成感と連帯感と公平感の3つがあれば強くなると考えています。公平感は我々会社側が与えるもので、連帯感と達成感はスタッフの中で醸成されていくものです。仲間とともに、目標に向けて切磋琢磨していくことの意義は大きいと思います。さらに、仕事をしながらも夢を追いかけて欲しいという願いもありますね。実際にドラフトで指名されてプロ野球選手になったスタッフもいます」
人とのつながりや想いを大切に、時流とは逆のスタイルを貫いてきた新田社長。最後にこう語ってくれた。
「会社は時価総額などで評価されがちですが、愛だとか情熱だとか、数値で表すことができないものほど重要だと思っています。10億円稼ぎたい、という夢を持つ子供はいません。プロ野球選手になりたいとか、料理人になりたいとか、お金ではない夢を抱いていたはずです。そのことを常に意識して諦めずに追いかけていけば、自ずと数字が付いてくると信じています。これからも、その想いを忘れることなく挑戦し続けていきたいですね」
vol.56
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