ナチュラルリビング株式会社
代表取締役
金井 健太郎
写真/芹澤裕介 文/岡本 のぞみ(verb) | 2021.08.10
ナチュラルリビング株式会社 代表取締役 金井 健太郎(かないけんたろう)
1977年、東京都生まれ。アパレル業界に入り、デザインの経験を積んだ後、建築デザインの専門学校で基礎を学ぶ。2001年、不動産会社の設計部門に入社し、多摩区の戸建て住宅の流通などを担当。2008年、別の不動産会社に転職し、横浜・川崎地区担当として、測量を習得する。2010年以降、大手不動産会社など3社で住宅設計の腕を磨いた後、2015年に測量士との共同経営で株式会社輪設計を設立し、独立。2018年輪設計の設計部門を分離させるかたちでナチュラルリビング株式会社を設立。現在に至る。
2030年は人口減少による超高齢化社会で、さまざまな社会問題が表層化すると考えられている。ナチュラルリビング株式会社の金井氏は、これまで都市部の住環境を整える事業を展開してきたが、2030年問題を見据え、地方の“住と食”にも踏み出している。事業拡大できるのは、現段階で業績が好調だからにほかならない。
「当社は、都市部の狭小地を魅力的な資産として生まれ変わらせる事業をメインに展開しています。都市部の狭小地を有効活用したいと考える人は多いのですが、実際にそうした技術をもった会社が少ないのが好調の理由です。狭小地では、建築基準法にのっとったCADやパースを使った設計や特殊な法令緩和の調整が求められます。私は、上場した大手不動産会社でそうした物件を多く担当してきた経験を活かして独立しました。さらに現在は、効率的な生産ラインを確立。設計士が実質3人でたくさんの仕事を抱えています」
どれほど好調かというと、2021年5月までの前期は250棟の受注を獲得し、前々期と比べると、140%アップを達成している。コロナ禍においてこの数字はかなりのもの。建築業界は、コロナ禍が原因のウッドショックによる木材高騰で新規の受注が厳しくなっているからだ。さらに今後のオリンピック後の経済後退を考えると、業界の冷え込みが予想される。それにもかかわらず、今期の目標は365棟。1日1棟を掲げている。そのため、人材を増やしたいと金井氏は言う。
「実は、不動産屋さんからの仕事の相談は常にある状況で、人手が足りないくらい。設計もできるスキルのある人材とベトナム人の人材を探しています。もともと、コロナ前にはベトナム人に技術をつけてもらい、現地でCADセンターをつくる計画もありました。しかし、ベトナムはたびたびロックダウンしていて、計画を進める段階にありません。ならば日本で人材を育てて、コロナ後にスタートダッシュしよう、と考えています」
コロナ禍をものともせず、攻めの姿勢を貫く金井氏。これまでの経験と実績があるからこそ、積極的に打って出られるのだろう。そして、都市部の建築だけでなく、今後見据えているのが、地方への進出。現在、空き家や耕作放棄地を再生し、地方創生を進めている。
「東京は別として、全国的には新築の着工棟数よりも空き家が増えると予想されています。地方には魅力的な資源がたくさんある。農業とセットで古民家を生き返らせる農泊など可能性は無限大です。それに2030年問題の食料自給率を考えると、都市部にいる危険性は高い。食糧難にならないためにも、地方で農業のある暮らしを自治体と進められるように、投資と情報収集をしている最中です」
実際、金井氏は熱海市に物件を購入し、空き家再生を目指している。その他、広島県や岡山県、京都府、長野県、宮城県、北海道の複数の自治体から、視察にきて欲しいと依頼がひっきりなしに届いているという。
これまでの都市部だけでなく、地方創生、さらには食へも事業を広げる金井氏。今後、2つの事業で歩んでいくために、どのようなビジョンを描いているのだろうか。
「地方創生を進めるためにも、地方に第二拠点を設けたいと思っています。その自治体ならではのルールや制度を知るためにも足がかりがあるとスムーズです。また、狭小物件の建築事業を拡大するためには、優秀な人材の確保は急務。大手不動産会社と同等の給与水準と労働環境を用意し、1日1棟の目標を達成したいと思います。当社にとって、地方の事業と都市の事業はどちらも欠かせないもの。どこで暮らしても快適だと思われる環境をつくるのが私の使命だと思っています」
我が国は、経済的にも社会的にもさまざまな問題を抱えている。金井氏は、それをチャンスととらえ、“住まいと食”のベースを整えようと挑んでいる。そんな彼の姿こそ、日本の未来の希望なのかもしれない。
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