スーパーCEO列伝

【特集】SBIグループ Practical

ロボアドバイザーやアプリ上での資産管理を実現【住信SBIネット銀行/SBIグループのFinTech活用法】

住信SBIネット銀行株式会社

代表取締役社長

円山法昭

文/大西洋平 写真/鶴田真実 | 2018.06.11

新たなテクノロジーの登場によって、再び変革の時期を迎えているネット金融業界。「住信SBIネット銀行」に、ロボアドバイザーや自動家計簿といったFinTechの導入・活用実例と、今後の展開について聞いた。

住信SBIネット銀行株式会社 代表取締役社長 円山法昭(まるやま のりあき)

1965年生まれ、福井県出身。1989年に神戸大学を卒業後、東海銀行(現・三菱UFJ銀行)を経て、2000年にイー・ローン(現・SBIホールディングス)入社。SBIモーゲージ代表取締役社長執行役員CEOなどを経て、14年4月より現職。

創業からわずか数年で預金とローンの取扱額で競合他社を圧倒

その名の通り、ネット専業銀行はインターネットをメインチャネルとして金融サービスを提供している。一般的な銀行のように大がかりな店舗網や行員を抱えていないため、ローコストでの経営が可能で、その分高い預金金利や低いローン金利を利用者に提示できる。

日本でネット銀行の設立が相次いだのは2000年代初頭だったが、住信SBIネット銀行の開業は2007年9月。どちらかといえば後発組だといえるだろう。

しかしながら、住信SBIネット銀行が顧客から集めた預金残高の総額は2018年3月末の時点で4.4兆円を突破しており、競合する他のネット専業銀行を圧倒している。また、住宅ローンの取扱額も今年4月に4.2兆円を突破しており、こちらも群を抜いている。金利面などでより優位性の高い預金やローンを提供し、支持されてきたのだ。

行名からも想像できるように、住信SBIネット銀行は三井住友信託銀行とSBIホールディングスが共同出資して設立された。そして、現在ではSBI証券と共にSBIグループの金融サービス事業の中核として、前述のような高い実績を上げている。

「ネット専業銀行としては後発となった当行が、最初に力を入れたのがSBI証券との連携でした。ネット証券最大手である同社で取り引きされているお客様にとって、非常に利便性の高い『SBIハイブリッド預金』の取り扱いをスタートしたのです」

こう説明するのは、住信SBIネット銀行代表取締役社長の円山法昭氏。「SBIハイブリッド預金」とは、銀行と証券会社との資金移動を容易にしたものだ。ここにお金を預けておけば、SBI証券の取引口座に送金手続きを行わなくても、同証券で株式や投資信託などを取り引きする際に、その買い付け資金に充当される仕組みになっている。

また、住信SBIネット銀行のウェブサイト上では預金残高と共に、SBI証券の口座残高も一括で把握できる。銀行のウェブサイトから証券口座の開設も行えるし、その逆も可能。しかも、すでに証券口座を開いていれば、銀行口座の開設時に本人確認書類を再提出する必要もない。

近年、ようやく日本でも「ワンストップ」と共に「ワンスオンリー(重複する書類の提出は一度限り)」のサービスに目が向けられ始めたが、SBIグループではかねてからそれが常識となっている。

ネットワークを広げ対面営業で住宅ローンを全国展開

こうして利便性を追求してきたほか、冒頭でも触れたように預金やローンにおいても顧客に有利な条件を提示して業績を伸ばしてきた。ただ、日本銀行がデフレ(物価が持続的に下落していく経済現象)からの脱却のためにマイナス金利政策を実施した結果、その影響を受けてしまう預金の金利に関しては、競合他社と大きな差はつけにくくなった。

反面、金利がいっそう低下したことで逆に魅力を増すのが住宅ローンだ。実際、マイナス金利の導入直後には、より有利な金利を求めた借り換え需要が急増したという。

現在、住信SBIネット銀行の主力商品である住宅ローンについては、[1]三井住友信託銀行の銀行代理業者として販売する「ネット専用住宅ローン」、[2]銀行代理業者を通じて販売する「ミスター住宅ローンREAL」、[3]提携先の不動産会社経由で販売する「提携住宅ローン」、[4]住宅金融支援機構と提携し販売する「フラット35」を提供している。

その中でも特に伸びているのが[2]で、自らは店舗を持たないネット銀行でありながら、対面営業によって住宅ローンの取り扱いを拡大させているのだ。

「マイホームは人生で最大の買い物といわれるように、多額の借金である住宅ローンを利用する際には、いくらインターネットが便利になったからといってもやはり専門家から直接助言を受けたいというお客様からの声は今でも大変多くあります。そこで、直接お客様にご案内できるよう、銀行代理業者が運営する住宅ローンの販売店舗を拡充しています。

銀行が自前で対面チャネルをつくると賃貸料や人件費といった膨大なコストがかかりますが、この方式なら銀行代理業者への手数料だけなので、とても効率的です。銀行が商品を開発し銀行代理業者が販売する、いわゆる『製販分離』の発想で考えています」(円山氏)

メガバンクが経営効率化の一環で店舗の削減を進めているのを尻目に、住信SBIネット銀行は銀行代理業者を活用してコストを抑える方式で、販路の拡大を図っているわけだ。

しかも、このローンは単に低金利に優位性があるだけではない。ローンを利用する際に加入が必要となる団体信用生命保険に全疾病保障を付帯し、その保険料を住信SBIネット銀行がすべて負担しているのだ。

つまりローンを借り入れる顧客は保険料の負担をせずに、全疾病保障付きの団体信用生命保険に加入でき、将来の万が一のリスクに備えることができる。その点に関しては、次のSBI生命の記事で後述したい。

»さらなる成長のカギは顧客の健康管理にあり【SBI生命保険/SBIグループのFinTech活用法】

SBIグループ投資先企業の最先端フィンテックサービスと積極連携

一方、住信SBIネット銀行は新たなイノベーションの取り込みにも意欲的だ。

「SBIグループの投資先企業が開発した技術をいち早く導入することによって、当行はより便利な最先端のサービスをお客様に提供できます。こうして私どもがユーザー拡大の一助となることで投資先企業の成長も促され、グループ内でシナジーが発揮されることにもつながります」(円山氏)

顧客のリスク許容度に応じて自動的に資産運用を行うウェルスナビ、お金のデザイン社が提供するロボアドバイザーサービスや、マネーフォワードの家計簿・資産管理ツール「マネーフォワード for 住信SBIネット銀行」の提供や、クラウド会計ソフトを手がけるfreee(フリー)との振込連携サービスなど、フィンテック企業と積極的に連携している。

住信SBIネット銀行はそういった最先端のサービスを有利に利用できる特典を設けることで、顧客を囲い込んでいくという新たなアプローチにも取り組んでいる。2018年6月から導入される有料の「プレミアムサービス」がそれだ。

「Amazonプライムをイメージしていただければ分かりやすいと思いますが、当行の商品やサービスをよく利用されているお客様にとっては、月額500円の利用料を大きく上回る数々の特典を用意しています」と、円山氏も強い自信をのぞかせる。

例えば、同行の「Visaデビットカード」や独自のクレジットカード「ミライノ カード」のポイント還元率が通常よりも0.4%アップしたり、「WealthNavi for 住信SBIネット銀行」や「THEO+ 住信SBIネット銀行」といったロボアドバイザーサービスの投資一任報酬の20%相当がポイントで還元されたりするのだ。

AIを活用し、様々なステージの企業を資金面からサポート

さらに、円山氏が今後における大きなビジネスチャンスととらえているのが創業期の企業への事業融資だ。創業してから日が浅い企業に対する融資には、極めて消極的なスタンスだったのがこれまでの銀行業界の実情。社会の発展に大きく貢献する可能性や飛躍的な成長を遂げる可能性を秘めていたとしても、創業期は実績がない分、融資した資金を回収できないリスクが高いと判断されるからだ。

「当行では、口座の入出金情報や決済情報だけを利用し、AIのテクノロジーを駆使して数秒で審査を行い、その結果に基づいて、スピーディーに融資を行います。従来の金融機関が融資に対して消極的であったような創業期の企業を資金面からサポートでき、社会的にも非常に意義深いことです」(円山氏)

中小企業庁の発表によると日本国内の法人の99.7%がいわゆる中小企業や小規模事業者だ。(2014年7月時点)そういった企業の中には、従来の金融機関の審査基準では、資金需要があっても借り入れができない企業も多く含まれることだろう。

同行は新たなテクノロジーを活用して精度の高い与信をスピーディーに行うことで、創業期の企業を含め、中小企業の融資でいち早くニーズを開拓しようとしている。その先行者メリットは絶大なものであろう。無論、それは他のネット銀行に対しても、一歩先んじることになる。

まだ未開拓のブルーオーシャンを制覇しようとしている同行の今後に対して、非常に大きな期待が寄せられそうだ。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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