スーパーCEO列伝

失敗から学び成功につなぐ

株式会社SYホールディングス

会長

杉本 宏之

写真/宮下 潤 文/髙橋光二 マンガ/M41 Co.,Ltd | 2016.10.11

杉本宏之のポートレート
28歳で不動産会社であるエスグラントコーポレーションの株式上場を果たし、一躍“不動産業界で最年少の上場経営者”として名を馳せた、杉本宏之氏。しかし、リーマン・ショックの怒濤に飲み込まれてしまう。

30歳で400億円もの負債を抱え、地獄のような日々を耐え抜く。そこには、起業家仲間の励ましや支援があった。そして、民事再生手続を完了させ、2010年、同じ不動産ビジネスで再起を期す。

現在のシーラホールディングスは、グループ7社、売上高200億円を超えるまでに成長。見事にリベンジを果たした。大失敗を猛省し、成功哲学を紡ぎ出した杉本氏に、その心得を聞いた。

株式会社SYホールディングス 会長 杉本 宏之(すぎもとひろゆき)

株式会社シーラホールディングス会長。1977年生まれ。高校卒業後、住宅販売会社に就職、22歳でトップ営業マンとなる。2001年に退社し、24歳でエスグラントコーポレーションを設立。デザイナーズワンルームマンションの開発を皮切りにプロパティマネジメント、賃貸仲介業、人材派遣業、リノベーションなどと事業を拡大し総合不動産企業に成長させる。2005年12月、名証セントレックス市場に業界最年少で上場を果たす。2008年、リーマン・ショックで急激に業績が悪化。負債191億円を抱え、2009年3月、民事再生を申請、受理される。2010年にSYホールディングス(現シーラホールディングス)を設立し、グループ7社、売上高200億円を超えるまでに成長。

杉本宏之が重んじる大失敗から学んだ企業運営 6つの心得

“不動産業界最年少の上場経営者”と囃し立てられ、有頂天になり、勉強不足にも関わらず人の忠告に耳を傾けない“驕り”が大失敗の元凶と猛省。二度と同じ轍は踏めないと堅実な企業運営のための経営哲学を紡ぎ出した。社員や協力会社、そして仲間を大切にする杉本氏の思考とは?

杉本宏之のインタビュー写真

会社は家であり、社員は家族である

いまの企業社会、社員同士のふれ合いが希薄化し、ドライな風土の企業が増えているように思います。しかし、仕事は楽しくなければはかどりませんし、社内の一体感がなければ組織としての力を発揮しきれないのではないでしょうか。ですから私は、時代に逆行するように“脂っこい”社員第一主義に舵を切りました。

ある幹部社員の奥さんがご病気で、当時5歳のお嬢さんがいたその社員は出社できなくなりました。本人は退社を考えていましたが、これを機にフレキシブル勤務制度とベビーシッター代補助制度、さらに1親等以内の重度障害補助金制度の導入を決めたのです。このコストは相当なもので、役員会では喧々囂々議論しました。

しかし、少子化でどんどんシュリンクする日本のマーケットでこれから闘っていくには、優秀な社員は絶対に不可欠。このコストは収益性とギリギリにバランスさせてでも導入すべきと決断しました。

その結果、この幹部社員は会社に対するロイヤリティを高め、限られた勤務時間で大活躍を始めてくれました。そのほか、大型連休制度や年2回の社員旅行(うち1回は海外、家族も一部費用負担で招待)も導入。社員のモチベーションを高め、コストをカバーするだけの収益増をもたらしています。


デザインとモノづくりにこだわる

ワンルームマンションは、よく投資用に買われます。投資を目的としたマンションは購入されたお客様が住まないことが多いので、管理組合が機能しないことをいいことに、いい加減なつくり込みで済ませている物件が非常に多いのです。しかし、当社グループが手掛ける単身者向けマンションは、ファミリータイプのように“億ション”であるかのようなグレードを重視してつくり込んでいます。

その基準は、「自分がほしい」と思えること。ですから、例えばタイルの接着剤一つにもこだわり、できるだけ劣化度の少ない高品質のものを使用しています。壁紙も、フローリングも、タイルも、すべてメンテナンスしやすいものを選んでいます。

そうなると、当然建築コストはかさみます。その分を価格や賃料に上乗せしきれるものではありません。しかし、ここで暮らすお客様は“一生の買い物”です。10年、20年経った時、どれだけの価値を維持しているかが勝負なのです。我々は、当面の収益価値ではなく、20~30年後の収益価値を重視する。そんな姿勢こそ世の中に評価してもらえると確信しています。


全てにおいて“資産価値”を考える

モノを買う時は、“ネットアセットバリュー”を徹底的に検証するようになりました。仕事である不動産は、都心での賃貸状況、街の将来性、人口動態を踏まえ、「銀行から20年でも30年でも貸し付けたいと言われる物件」を買っています。

また、プライベートでは、例えば、高級腕時計。ロレックスのある型番が欲しくなった際に、その時計を処分するセカンダリーマーケットではいくらぐらいで評価されるのかを調べたのです。いくつかのオークションサイトの過去10年ほどのデータを見たり、ヨーロッパから『ロレックス大辞典』という5万円もする本を取り寄せたりして、その上で手に入れました。今では、当時の3倍近いプライスで取り引きされています。

クルマや時計はもちろん、不動産を含め、高額のものはこのようにして資産価値を調べる習慣が身につきました。倒産や自己破産で、お金に対する価値観が様変わりしましたね。

杉本宏之のインタビュー写真

一人ひとりがシーラホールディングス

グループの社員一人ひとり、グループを代表する人物となるために人材教育を徹底しています。

私は、「会社とは一種の宗教のようなものである」とまで思っています。例えば、宅配便のたった1人のドライバーが荷物を雑に扱っているところを見れば、「この会社のセールスドライバーはみんな荷物をぞんざいに扱っている」と思うでしょう。

だからこそ、教義により正しい方向に導きたい、良い方向に導かなければならないと考えています。このため、毎週1回、1時間の朝礼を行っています。その場では一般社員や幹部社員にスピーチしてもらい、社長が語り、最後は私が語ります。

当初は20分くらいでしたが、「もっと短くしてほしい」という要請がきました。しかしながら、私はこの機に何が本質的に大事なのかを今一度考え、逆に1時間やることに決めたのです。

そして、社員全員に自ら考え、話をさせることを習慣づけ、企業理念を徹底的に伝え、理解してもらう時間にすることにしました。不参加者には罰金を科すほど徹底したのです。この結果、会社の隅々まで企業理念が浸透していると確信できるまでになりました。


リーマン・ショックを忘れるな

これは、私個人の強烈な戒めです。そして、私を含め、グループの役員に対して「行動指針」を定めています。「日頃から倹約を心がければ経費削減など必要ない」「わからない事をわかるふりをする事は最も愚行である」「収入を生まない物は資産ではなく無駄な荷物である」といったことなど全部で16個です。

この「行動指針」は、1時間の朝礼をはじめ事あるごとに語るようにしています。

そして、いつか再び「リーマン・ショック」級の危機が起きた時、適切に対処できるよう役員会で何度もシミュレーションを重ね、“想定外”を潰しています。会社を細かく分け、どこが危なくなっても助けられるようにしています。“ポジティブ”なことと“ネガティブ”なことが常に頭の中にあり、切り替えたりバランスを取るのは簡単なことではありませんが、一番重要なことであると考えてしっかり取り組んでいます。


仲間をとことん大切にする

名前を挙げればきりがありませんが、私には、最後まで私を信じて支えてくれた仲間がたくさんいます。こういった仲間たちに恵まれたおかげで再起できたと思っています。持つべきものは、素晴らしい仲間です。人脈とは少し違いますね。

私は「信頼できる仲間」と思った人とは利害関係を抜きに付き合うようにしています。経営者の先輩たちはもちろん、地元の仲間たちとも今でも定期的に食事をします。そういう方々は、心の支えにもなります。まさに、無形の財産ですね。エスグラント時代からの仲間やグループ社長の湯藤を含め、大切なすべての仲間には、これから一生かけて、恩返ししていきたいと思っています。

SUPER CEO Back Number img/backnumber/Vol_56_1649338847.jpg

vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
コンテンツ広告のご案内
BtoBビジネスサポート
経営サポート
SUPER SELECTION Passion Leaders
ブランジスタが手がける電子雑誌