スーパーCEO列伝

DDHD松村厚久社長のアライアンス戦略 友好的M&Aが紡ぐ自由の翼

株式会社DDホールディングス

代表取締役社長

松村厚久

写真/宮下 潤 文/長谷川 敦 | 2018.08.10

松村厚久氏が2001年に創業し、2015年には東証1部上場企業に名を連ねるまで成長したダイヤモンドダイニングは、2017年9月にホールディングス体制に移行し、社名を株式会社DDホールディングスに変更。今また、新たな高みを目指そうとしている。

その高みとは? どんなスタイルと方法で挑もうとしているのか? これまで外食業界においてさまざまな革命を起こしてきた代表取締役社長の松村氏に、今後のビジョンと独自の組織論、経営論を聞いた。

株式会社DDホールディングス 代表取締役社長 松村厚久(まつむらあつひさ)

1967年3月29日生まれ、高知県出身。日本大学理工学部卒業。89年、日拓エンタープライズ入社。95年、独立して日焼けサロン経営。96年、エイアンドワイビューティサプライを設立。2001年に飲食業に初参入し、銀座で「VAMPIRE CAFE」をオープン。以降も独自の発想によるコンセプトレストランを次々と打ち出し、02年に株式会社ダイヤモンドダイニングに社名変更。07年、大証ヘラクレス上場。2011年「100店舗100業態」を達成。2015年に東証1部上場。2017年9月に持株会社体制に移行したのに伴いDDホールディングスに社名変更。直営店は国内外で約480店舗を展開(2018年7月現在)。

M&Aとホールディングス化 大きな転機となった2017年

ダイヤモンドダイニングといえば、一つの主力業態をチェーン展開するのが主流の飲食業界において、「100店舗100業態」を目標に掲げ、創業からわずか9年でその目標を達成した会社として知られている。そして東証2部を経て、2015年7月には東証1部上場も果たすなど、右肩上がりの成長を続けてきた。

そんな同社にとって、2017年は、さらなる転機の年となった。まず6月に、M&Aによってゼットンと商業藝術を連結子会社化し、そして同年9月にはホールディングス体制へ移行、DDホールディングス(DDHD)となった。

このM&Aやホールディングス体制への移行には、同社を率いる松村厚久氏の組織づくりに対する独自のスタイルが反映されている。

もともとゼットンは稲本健一氏、商業藝術は貞廣一鑑氏というカリスマ的な経営者が牽引してきた会社だ。一般的なM&Aでは、買収された企業のトップは組織から去り、本体から別の経営者が送られるケースが多いが、稲本氏も貞廣氏も、そのまま同社の中枢にとどまっている。稲本氏はDDHDの取締役兼海外統括CCOに就任。また、貞廣氏はそのまま商業藝術の社長を続投。その理由を、松村氏はこう語る。

「イナケン(稲本氏)は昔からの親友ですが、徳川園(愛知県名古屋市)や横浜マリンタワー(神奈川県)といった行政も絡む大きな公共施設に個性的な店舗を出店するなど、交渉力が抜群に秀でています。また、貞廣さんはカルチャーやアートへの造詣が深く、カフェや和食店などの業態において、他社とはまったく色合いが違う店舗づくりができる。この2人にDDHDに加わってもらい、その能力を遺憾なく発揮してもらうことは、間違いなく会社の成長にとってプラスになります。

2人とも創業社長だから、もちろん自分が手掛がけてきた会社に対する思いはとても強いはず。それでも仲間入りしてくれたのは、自分の会社をより輝かせるためにも、DDと一緒になった方が、メリットがあると判断してくれたからだと思います。だから完全に友好的なM&Aです。敵対的M&Aは、これまで一度もやったことがありません」

ホールディングス体制への移行に伴い、クリエイティブディレクター佐藤可士和氏が手掛けた新ロゴを採用。「D」の一部が開いたデザインには、革新的な商品やサービスを創出する概念「オープンイノベーション」が込められている。

航空アライアンスのような連合組織に

一方、組織をホールディングス体制に移行させたのは、ピラミッド型組織の中でグループ会社を統率することが目的ではなく、むしろグループ会社各社が持っている個性をより生かしやすい組織にするためだ。

「ダイヤモンドダイニングの下にグループ会社があるという形だと、ダイヤモンドダイニングの方針に従ってグループ会社が動くといった上下関係にどうしてもなりがちです。そこでホールディングス体制を敷いて、ホールディングス体制の下に一列に18社のグループ会社が並ぶという形にしたのです。

ホールディングスはあくまでも管理部門。グループ会社には自由にやってもらいたい。縛れば各社の個性を殺してしまいますからね。だから、組織を一つにまとめようなんて思わないわけです」

目指しているのは、航空会社間で結ばれているアライアンスのようなイメージだという。航空会社各社は、就航している路線も違えば、機内でのサービスも違うし、キャビンアテンダントの制服も違うが、コードシェアや予約システム、ポイントサービスの共有など、コスト削減と集客強化のスケールメリットを享受し合う。DDHDのグループ会社もそれと同じような緩い連携だからこそ、M&AによってDDHDに加わった会社、つまりゼットンにしても商業藝術にしても、それまで培ってきた個性を失わずに走り続けることができるわけだ。

「DDHDは今後もこの緩い連携によって、友好的なM&Aを繰り返しながら会社を大きくしていきたいと考えています。そしてイナケンや貞廣さんがDDHDに加わってくれたように、実力があって魅力的な社長たちをこれからも仲間に引き入れながら、より大きなアライアンスの輪を築いていきたいと思っています」

「カラーは会社によって全く違います。でも、それでいいんです」

社員も企業も“任せること”によって成長する

ただし個々の会社の独自性を認めることは、ひとつ間違えると組織としての一体感が失われ、それぞれの会社がバラバラな方向を向いてしまうリスクもあるはず。

しかし松村氏は、そうした不安はまったく持っていないようだ。なぜなら、そもそも松村氏が1店舗から育ててきたダイヤモンドダイニングという会社自体が、そういう社風の会社だったから。

「ダイヤモンドダイニングが『100店舗100業態』の目標を早期に実現できたのは、社員に対して大幅な権限委譲をおこなってきたからです。社員が新しい業態の店舗を立ち上げ、運営する際には、『コンセプトを外さないこと』『お客様に楽しんでもらうこと』『適正な利益を上げること』の3つの約束さえ守れば、あとは何をやってもいいと話してきました。

社員を信用し、任せれば、彼らは自分の頭で考えて行動するようになるため、成長スピードが高まります。そして彼らの成長に伴い、会社も成長していきます。これは一人ひとりの社員に対してだけでなく、グループ会社に対してもまったく同じ。『3つの約束さえ守れれば、あとは何をやってもいいですよ』と話しています」

各社の企業理念や企業文化は最大限尊重したい

同社では、今回のホールディングス体制への移行にあたり『Dynamic&Dramatic(大胆かつ劇的に行動する)』という行動指針を打ち出した。ちなみにDDホールディングスの「DD」は、これまでダイヤモンドダイニングの略称として親しまれてきたDD(ディーディー)を継承するとともに、「Dynamic&Dramatic」の2つの単語の頭文字からとって命名されたものだ。この社名に込められた思いを、松村氏は次のように話す。

「3つの約束の中のひとつに『お客様に楽しんでもらうこと』というのがあるように、DDはこれまでお客様が、『わあ』とか『キャー』とか、『えっ何!? こんなお店をつくっちゃったの?』といった驚きや感動の声を上げてくだるような店づくりを重視してきました。

ホールディングス体制へ移行した後も、この姿勢は大事にしていきたいと思っています。行動指針には、これからもお客様に驚きや感動を与え続けられる企業であるために、大胆かつ劇的に行動していこうというメッセージが込められています。

何度も繰り返しますけど、そうした姿勢さえグループで共有化できていれば、あとは各社が持っている企業理念や企業文化については尊重していきたい。例えば商業藝術であれば『Make a Cinema Day/あなたを上映する』、バグースであれば『ホスピタリティ&エンターテインメント』というように、各社がそれぞれ独自のスローガンやコンセプトを掲げています。

会社のカラーだって、ゴールデンマジックは大衆向けの居酒屋を展開しているので、スタッフはみんな元気いっぱいなのに対し、バグースはラグジュアリーな店舗が多いので、スタッフの立ち振る舞いが洗練されているというように、会社によってまったく違います。でも、それでいいんです」

「ライバルは『ライザップ』。外食にライバルはいません」

年商1000億円に必要な拡大のスピードとリスクヘッジ

今、DDHDがM&Aを積極的に展開しながら拡大路線を進めているのには、ひとつには松村氏が掲げている“年商1000億円の実現”という目標があるためだ。

飲食業界には、“年商300億円の壁”があるといわれる。年商300億円台までは経営者のカリスマ性によって会社を大きくすることができても、なぜかそこで成長が止まってしまうのだ。そこで松村氏は、M&Aを事業拡大のための手段として効果的に用いながら、その壁を大きく超える年商1000億円を目指そうとしている。ちなみに、ゼットンと商業藝術を買収した後のDDHDの2017年度(2018年2月期決算)の売上高は、約450億円に上った。

「M&Aを積極的に実施しているのには、DDHDの業態の幅をさらに広げたいという狙いもあります。一つの主力業態だけで多店舗展開している会社は、調子が良いときは右肩上がりですが、その業態が失速すると、会社の経営自体が傾いてしまうことになりかねません。

当社グループはアルバイトも含めると、1万人近くのスタッフがいる大きな組織になりました。彼らを路頭に迷わせるわけにはいきません。だからリスクヘッジのためにも、多業態化をさらに推し進める必要があります」

飲食の枠組みを越えて

また、各グループ会社の中にさまざまな業態の店舗があることは、グループ間でアライアンスを組むメリットをより効果的なものにしている。

「DDHDでは、グループ会社の各店舗の予約受付を一括で受けるコールセンターを開設しています。すると、例えばあるお客様が、恵比寿にあるゼットンの店舗を予約しようと思って電話をしたけれども、あいにく満席だったときに、同じエリアにあるダイヤモンドダイニングの店舗をご紹介すること等が可能になります。

また、恵比寿以外のエリアにある似たような雰囲気や業態のほかのお店を紹介することもできます。せっかく電話してくださったお客様を、満席であったためにお断りしなくてはいけないといった機会損失を減らすことができるのです。

特にDDHDの場合、約480店舗中250店舗以上が山手線内にあります。これだけ都心の一等地に集中的に出店しているのは、飲食業界の中でも、うちぐらいだと思います。狭いエリアに店舗が集中していても、業態の幅が広いので店舗間でカニバリゼーションを起こすことはありません。それでいて、満席のときには近くにあるほかのお店を紹介できるという強みもあるわけです」

そしてDDHDでは今、ウエディングやゴルフレッスンスタジオ、カプセルホテルなど、飲食の枠組みを越えて、業態の幅をさらに広げようとしている。松村氏は本気か冗談か、「うちのライバルはライザップ」と語る。

「飲食以外のことを手掛けるといっても、いきなりメーカーとしてモノづくりを始めるといったことはありません。基本的にはお客様と対面で接しながら、サービスを提供できる分野を選んでいくことになると思います。その際にライバルというか、ヒントにできるのがライザップです。

ライザップはパーソナル・トレーニングジムをはじめ、料理教室や英会話教室などさまざまな業界に進出していますが、『結果にコミットする』ことが可能な分野だけを選んで展開するという軸は決してぶらしていません。DDHDも今後何を手掛がけるにせよ、これまで飲食の世界でずっとやってきたように、『お客様を驚かせ、感動させる』という軸をぶらさずにやっていきたいと思っています」

「新しい世界が見られそう」という予感

松村氏はこれまでM&Aをおこなっていく上で、紹介会社を利用したことは一度もないという。「紹介会社が提案してきた案件の中で、メリットが感じられる案件が一つもなかったから」だそうだ。

「これまでM&Aをしたのは、イナケンのゼットンのように知人の会社だったり、知人の紹介だったり、なんらかのつながりがあるものばかり。自分がその会社のことをよく把握し、高いポテンシャルを感じられる会社をM&Aの対象としてきました。

M&Aを検討する際に重視するのは、まず、今は経営状態が悪かったとしても、テコ入れによって業績を伸ばせる余地があるかどうかということです。そしてもうひとつは、その会社の中にいる人材です。

M&Aの対象になるような会社の中には、潜在能力はあるのに、その能力を十分に生かしきれていない人がたくさんいます。そうした優れた人材がうちの会社に加わってくれることで、組織にシナジーが生まれることがよくあります」

ここまで見てきたように、DDHDは社員に権限を委譲し、社員に任せることによって成長を遂げてきた会社だ。それが可能なのは、松村氏がその人が持っている長所や強みを見極め、適材適所のポジションを与えることに長けているからだ。

「人を見る目は、高校のサッカー部でキャプテンをやっていた時代から鍛えられていたと思います。チームの中でサッカーが一番うまいわけでも、勉強が一番できるわけでもなかったのにキャプテンを任されたのは、そういうところがあったからじゃないでしょうか。

その人に適したポジションを見つけたら、次に大切になるのは、とにかくその仕事をやり切らせることです。一度や二度失敗したからといって、すぐに担当を外していたら、結果を残すことはできません。凡退を重ねても打席に立たせ続けるうちに、やがてヒットが出るようになり、アベレージも上がっていく。人を育てるときにはそういう長い目で見ることが大事です」

松村氏の周りは多士済々、優れた人物が集まってくる。それは、「この人だったら、きっと自分の可能性をもっと引き出してくれる」「この人と一緒に仕事をすれば、何か新しい世界が見えてきそう」という予感のようなものを、松村氏が感じさせてくれるからではないだろうか。

松村社長の人を見抜く力、人の心をつかむ力が、DDホールディングスの成長の原動力となっている。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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