スーパーCEO列伝

【特集】SBIグループ Keyword

日本の金融業界を変えた風雲児 SBIグループ・急成長のワケ

イラスト/野中聡紀 文/杉山直隆(カデナクリエイト) | 2018.06.11

金融業界では後発組といえるSBIグループが、日本有数のインターネット金融グループに成長できた要因は、どこにあるのか。北尾氏の発言などから、4つのキーワードを抽出した。

【顧客中心主義】インターネットの登場で顕在化した顧客の要求に徹底的に応える

SBIグループの発足当時から、北尾氏が常に言い続けてきたのが、「顧客中心主義」を貫き通すことだ。

インターネットの登場によって、顧客は手間暇をかけずに十分な情報を得られるので、賢い消費行動や投資行動ができるようになる。すると、顧客の立場が強くなるので、顧客の要望に応えられない企業は生き残れなくなる。

インターネット時代の戦略は、「目先の利益よりも、お客様の要求に応えることを優先する」。

SBI証券では、大手対面証券会社の20分の1以下という業界で最も安い水準まで売買手数料を下げ、顧客便益性の高いサービスを提供している。住信SBIネット銀行では住宅ローンの金利を業界最安水準まで下げ、振込手数料を一定回数まで無料にした。

その結果、現在、SBI証券ではオンライン証券各社のなかで個人株式委託売買代金シェア・口座数・預かり資産においてナンバーワンの地位を獲得し、住信SBIネット銀行でも、インターネット専業銀行のなかで預金残高において首位に立つ。

【企業生態系】グループ会社のシナジーで生まれる「ネットワークの価値」

インターネットの力で日本の金融業界に革命を起こしたいと考えていた北尾氏は、1999年にSBIホールディングスを立ち上げると、その後も、様々な分野の金融子会社を急ピッチで設立していった。その理由は、金融の「企業生態系」を築くためだ。

企業生態系とは、互いに作用し合う組織や個人の基盤によって支えられた経済共同体のこと。共同体の中の企業同士がネットワークをつくってシナジーを働かせれば、個別の企業だけでは提供できない「ネットワークの価値」を生み出せるようになる。インターネットの時代は、企業同士がつながりやすくなるので、「ネットワークの価値」が勝負の鍵を握るようになると、北尾氏は考えたのである。

今では、世界でも類を見ない、証券、銀行、生命・損害保険、ベンチャーキャピタルなどの企業が集まる企業生態系が完成。ここから生まれる「ネットワークの価値」の力は、他社との大きな差別化につながっている。

【中国古典】時代の最先端をいくグループを支えるのは古典からの教え

北尾氏を語る上で、外すことができないポイントが、「中国古典」だ。幼少期より父親から中国古典の片言隻語を聞いて育った北尾氏は、学生時代から自然と『論語』や『孟子』などのいわゆる四書五経や、『韓非子』『孫子』などに触れ、今も読み続けているという。

こうした中国古典の教えは、北尾氏の物の見方や考え方の礎となっている。何かディシジョンメイキングをするときには『論語』に立ち返って考えることが多く、先見性に関しても、物事の変化を察する能力の重要性を説く『易経』に学ぶことで、磨いてきたという。

社員に対しても、訓示などで古典からの言葉を伝え、人間力向上を図っている。時代の最先端をいくインターネット金融グループは、古典の教えに支えられているのだ。

【ブロックチェーン】先端テクノロジーを取り入れ、目指すは「フィンテック2.0」

創業当初から、先端的なテクノロジーを導入し、新たな金融サービスの提供を図ってきた北尾氏が、「大きな社会変革をもたらす技術」と期待を寄せているのが、「ブロックチェーン」だ。

日本語でいえば分散型台帳技術で、取引履歴などの記録をインターネット上の複数の箇所で分散して保有することで、デジタル資産の多種多様な取引を安全に低コストで処理できる。仮想通貨の基本技術というイメージが強いが、仮想通貨だけでなく、債券取引や商品取引など多様な金融サービスに活用できるとみられている。

北尾氏はこのブロックチェーンを中核技術に、革新的な金融サービスを提供する「フィンテック2.0」を構想。2016年にはSBIホールディングスにブロックチェーン推進室を設置し、様々な実証実験を積極的に進めている。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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