スーパーCEO列伝

【特集】SBIグループ Analysis

金融の専門家が分析するSBIグループの強さ 逆境の金融業界で躍進し続ける理由とは?

文/大正谷 成晴 | 2018.06.11

いまや、銀行や証券、保険など、様々な金融サービス事業を手がける一大金融グループを形成したSBIホールディングス。既存の金融機関が軒並み経営不振に陥るなか、どうして短期間でこのような大成長を遂げることができたのだろうか。

金融機関が次々に破綻する不況期に新しい金融ビジネスを立ち上げた狙い

「SBIグループが大発展を遂げられたひとつのポイントは、会社を設立した1999年という年にあると思います」と話すのは、SBI大学院大学経営管理研究科教授の花村信也氏だ。


SBI大学院大学 経営管理研究科教授 花村信也(はなむら しんや)

1959年生まれ、東京都出身。83年東北大学経済学部経済学科卒業。デューク大学MBA取得。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士課程修了、同大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。みずほ証券、みずほフィナンシャルグループ常務執行役員を経て現職。


 

1999年は、バブル崩壊に伴う不況の最中。日本経済にとって、金融環境が非常に厳しい時期だった。金利は依然として引き上げられたままなので、金融機関の貸出先はなくなった。また、多くの金融機関が不良債権の処理に悩まされてもいた。

日本債権信用銀行、日本長期信用銀行は破綻し、りそなホールディングスに公的資金が注入され、日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の統合(現・みずほフィナンシャルグループ)についての議論も始まった。この時期から10年かけて、銀行全体で処理してきた不良債権は、約100兆円を超えるというとんでもない額だった。

一方、テクノロジーをみれば、インターネットを中心に、産業革命に匹敵する様々な技術革新が起こった時期でもあった。

既存の金融業界とテクノロジーの関係

1992年に日本で初めてのインターネット・プロバイダーが誕生し、日本もインターネットを利用できる環境が整い始めた。いちいちホームページアドレスを打ち込まなくても、サイト名を打ち込めばホームページに接続できるインターネットエクスプローラーなどのウェブブラウザが開発されると、登録サイト数は一気に拡大。インターネットユーザー数も約6億人を超えたとされている。

1998年にグーグルが設立され、1999年にはアマゾンの利用者は1700万人を超え、アマゾンのCEOジェフ・ベゾスがタイム誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」になった。

「SBIグループは、アマゾンが小売機能をネットインフラに乗せたように、金融事業をネットインフラに乗せようとしたわけです」(花村氏)

インターネット上に展開するワンストップの金融ビジネス

金融をめぐる環境が厳しい状況下で、わざわざファイナンス事業をインターネットで展開する企業を立ち上げることは、一般の金融人には無謀に見えたはずだ。しかし、見方を変えれば旧態依然とした金融機関の体力の低下は、そのままネット金融の伸びしろということになる。狙えるマーケットの規模は限りなく大きい。

今になってみれば、1999年にSBIグループを設立した北尾吉孝氏のインターネットと金融の親和性の高さに対する確信があったからこその決断だったと理解できる。

»【北尾社長インタビュー】先見性と顧客中心主義でインターネット金融サービスの荒野を切り拓く

銀行の伝統的なビジネスモデルは、企業にお金を貸し出し、その利ざやで儲けるといったスタイルだ。どの企業も資金が足りなかった戦後や高度経済成長期には、そうしたスタイルで成長することができたが、企業が潤沢な内部留保を抱えたり、債券市場や証券市場をはじめ、資金調達の手法が多様化した時代には通用しない。

バブル前には設備投資など、事業拡大のために融資を受ける企業が少なくなり、土地投機をはじめとした財テク用にどんどん資金を貸し出すようになった。これがバブル崩壊の引き金になったわけだが、1999年になっても、銀行のビジネスモデルに変化はなかった。

このように銀行をはじめとする金融機関が旧態依然の環境にとどまるなか、北尾氏はSBIグループを設立した。そして、証券、銀行、保険など様々な金融会社を傘下に収め、ネットを利用することで、様々な金融商品サービスをワンストップで利用することができる体制を整えていったわけだ。

また、インターネットサービスなので人件費を抑えることが可能となり、店舗も不要。だから不況時でも利益の確保が可能になる。

ワンストップサービスの最も分わかりやすい例は、住信SBIネット銀行の「SBIハイブリッド預金」。SBIハイブリッド預金に預けたお金は、SBI証券口座の買付余力に自動的に反映され、株式や投資信託、債券などの証券取引に利用できる。

SBI証券と住信SBIネット銀行の双方に口座を持つ顧客にとって便益性の高いサービスになるわけだ。保険についても同様だ。

また、例えば住信SBIネット銀行で住宅ローンを組んだ顧客は、火災保険や生命保険などをワンストップで購入することが可能に。事業間の垣根を越え、商品を提供できるのは、魅力あるサービスをそろえているという自負があるからだ。

実際に手数料勝負の証券の世界では、SBI証券の口座数は、2017年9月には400万口座を突破し、多くの顧客からの支持を集めている。これは野村證券に次ぐ規模で、大和証券やSMBC日興証券の口座数を上回っている。

多様な金融会社をもつことは、グループ内で相互にシナジー効果を発揮できることを意味している。例えば、顧客の動向をネットで管理しているため、どのような金融商品に対するニーズがあるのかが分かる。だから、サービスは充実していくし、顧客からますます支持されるようになる。

俯瞰的に分析すると、成長している企業の特徴である「スーパーモジュラーゲーム」が働き始めたといえそうだ。「スーパーモジュラーゲーム」とは、顧客からのフィードバックをサービスや商品に生かすことによって、付加価値がより高くなり、リピーターや新規顧客がさらに増え、利得が増加していくといったサイクルのことを指す。

「スーパーモジュラーゲーム」のプロセス

SBIグループは、ユーザーの声をサービスに反映していくことで、早い段階でスーパーモジュラーゲームのプロセスに入った。

「ネットビジネスは対面とは異なりユーザーから本音を聞きやすいし、サイトのPVデータなどからも顧客の行動をリサーチできる。しかも顧客基盤が拡大すれば、それだけ収集できるデータも増える。ネットビジネスには『スーパーモジュラーゲーム』のプロセスに入りやすいという特徴があるのです」(花村氏)

金融業界の不振と新たな技術再び大チャンスの時代がやってきた

現在の金融業界の大きな関心は仮想通貨とブロックチェーン。仮想通貨は通貨のあり方を根本から変える力を持っているし、ブロックチェーンはインターネットに匹敵するようなゲームチェンジャーになりうる技術だといわれている。

一方、金融業界をみると、90年代以降、業界の再編が進んだものの、多くの銀行がいま、再び著しく体力を落としている。今年は赤字に陥る銀行も現れた。第2次安倍政権が、低迷していた日経平均株価を上げるために資金供給が必要だと、金利をどんどん下げていったからだ。

銀行業界からみれば、収益の要である金利がどんどん下がっていき、収益を圧迫していく環境だ。貸し出したお金の利ざやで稼ぐという銀行のビジネスモデルが、いまだ変わっていないことには驚かされる。

「新技術が登場し、金融業界が不振に陥っている。この状況は、私にはSBIグループの創業期と非常に似ているように思えます。

SBIグループは、1999年に創業し、SBI証券や住信SBIネット銀行の設立などの大勝負に出てきましたが、再び、このタイミングで大きな勝負に出てくるのではないかと思っています」(花村氏)

実際にSBIグループではブロックチェーンの優れた技術をもつ先端企業に積極的に投資を行い、2016年にはグループ内にブロックチェーン推進室を設立した。また2018年6月からはSBIバーチャル・カレンシーズにおいて仮想通貨の現物取引サービスの提供を開始するなど、新たな金融業界を切り拓くべく歩を進めている。

ただ、ブロックチェーンに関していえば、現在は、インターネットが爆発的に広まるきっかけとなったグーグルやネットスケープなどにあたるアプリケーションがない。誰かが、便利なアプリケーションを開発すれば、金融業界は一気に変わるはずだ。

だからこそ、SBIグループは、かつてインターネットの普及を加速させたようなアプリケーションを開発しうる企業に投資してきた。自らも、歴史のコマを前に進めていこうと積極的に動いているのだ。

「インターネットの普及が私たちの生活を一変させたのと同様に、ブロックチェーンなどの新たなテクノロジーがイノベーションを起こす時期が近づいている。一度インフラが整えば、一気に変革が進み、創業から20年を迎えるSBIグループが新時代の金融業界をけん引していくと予測しています」(花村氏)

新しいアプリケーションが登場したら、どんな世界が広がるのか、今から楽しみだ。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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