“超”私的エクストリームな瞬間

【プラネタリウム】

不可能に挑み続け満天の星をつくる

有限会社大平技研

代表取締役

大平 貴之

写真/芹澤 裕介 動画/トップチャンネル 文/髙橋光二 | 2016.12.12

満天の星を再現するプラネタリウム。投影する星の数がそれまで最大3万個程度であったところ、一挙に170万個もの星を投影する「MEGASTAR」を開発して世界を驚嘆させた大平貴之氏。2004年にはギネス認定も受け、さらに2008年には、2200万個の「SUPER MEGASTAR-II」を開発した。大平氏の情熱の根源と宇宙への思いとは?

有限会社大平技研 代表取締役 大平 貴之(おおひら たかゆき)

1970年神奈川県川崎市生まれ。小学校時代からプラネタリウムの自作に取り組み、大学時代に、個人開発では前例のないレンズ投影式プラネタリウム「アストロライナー」を完成。1996年ソニー(株)入社、生産技術の業務に携わる。その後も独自で開発を続け、1998年には恒星数170万個の「MEGASTAR-I」を、2003年には「MEGASTAR-II」を完成。同年、ソニーを退社し、2005年2月、有限会社大平技研を設立。著書に『プラネタリウム男』(講談社現代新著)、『プラネタリウムを作りました。~7畳間で生まれた410万個の星~』(エクスナレッジ)など。

無数の星が集まる天の川。一般的なプラネタリウムの投影機は、薄く光る“帯”として再現されていたが、「MEGASTAR-ll」は、その一つひとつの星を粒として完全に再現している。人間の肉眼では、実際の夜空で1等星から6等星までおよそ9000の星が確認できる程度であるというから、2200万個がいかにケタはずれのものであるかわかるだろう。そんな“モンスターマシン”をつくり上げた大平氏は、世界一の“プラネタリウム・クリエーター”に違いない。

大平氏が率いる大平技研は、公共施設へのプラネタリウムの設置から、結婚式などのイベントにおける星空の演出まで、およそ“星空の再現”に関するあらゆることを手掛けている。

「最近では、プラネタリウムという枠からかなりはみ出るようになりました。しかし、いずれにおいても、その場にいる人が驚いたり、喜んだり、感動してくれるのは同じです。そういった反応を見るのが、この仕事で一番手応えを感じるところですね」

2008年、大平氏が38歳の時に発表した「SUPER MEGASTAR-ll」。投影する星の数は、当時世界最多となる13等星までの恒星2200万個に及ぶ。

そう語る大平氏がプラネタリウムに魅せられたのは、小学生のころ。

「プラネタリウムで満天の星を目の当たりにして、なんてきれいなんだろう、と感動し“実際の空で見てみたい!”と思ったんです。でも、僕は川崎市で生まれたので、山奥に星を見に行く機会もありません。それがプラネタリウムなら星空を自在につくることができる、と興味を抱くようになりメカニズムに惹かれるようになったんです」

子どものころから何でも自分で試してみなければ気が済まなかったという大平氏は、ロケットをつくってみたり、日光写真を撮影してみたりと様々な“実験”にのめり込んでいた。プラネタリウムもその延長で、蛍光塗料で自宅の部屋に星空を描くことから始まり、やがて本格的なプラネタリウムづくりに打ち込んでいくことになる。

「高校の文化祭で、当時、既存の投影機が最大3万個程度の星の数であったところ、1万6000個投影できるプラネタリウムをつくりました。先生や同級生、来場者がみんな感心してくれてうれしかったですね。エンターテインメントの面白さも実感しました」

しかし、その時に採用したピンホール式では星像の鮮明さに限界がある。シャープに映すためにはレンズ式でなければならないが、複雑な構造体のそれを個人がつくるのは絶対に無理とされていた。いわば、一人で車1台をつくるようなもの。しかし、“人間は可能は証明できるが、不可能は証明できない”という信念をもつ大平氏は、大学を一旦休学し本気で挑み21歳で4万5000個の星を投影する「アストロライナー」を完成させる。

「プラネタリウムは、機械や電気、光学、天文などの知識や技術の集合体。とはいえ原理はスライド映写機の組み合わせです。それを一つひとつ分解し、どうすればできるか、どこまでできるか、いくらあればできるかを検証し、自分のなかで“できる”と思えたので、チャレンジしました。よく“あきらめない性格だからできたのでは?”と聞かれますが、自分にそういう思いはありません。プラネタリウムは自分に合っていただけです」

と大平氏は平然と言う。また、続けるためのコツもあると語る。

「自分に見合った目標を立てることが大切だと思います。自分でしっかりと調べて、できることを見極めて実行する。だから僕は“あきらめなかった”というよりは“あきらめなければならない”という状況がほとんどなかっただけなんです」

1996年国際プラネタリウム協会の大会で発表した「アストロライナー」は大反響を呼ぶ。その後も「もっと世界を驚かせてやりたい」と星の数170万個、410万個、560万個、そしてついに2200万個と世界を驚かせ続ける。このあくなき探究心の源は一体なんなのか?

「技術者として“もっとこんな演出がしたい”“こんな表現がしたい”と、どんどん欲が出てきて、それを達成していく喜びはあります。また、昔はよく“いつまでそんなことをやるんだ?”なんてことも言われたんですが、僕のプラネタリムを見に行ったのがきっかけで“彼女ができました!”なんていう声をいただいたり、自分の思いもよらなかったところで誰かの人生にプラスの影響を与えることができたり、それが楽しくて続けてこられました」

MEGASTARは国内を飛び出し、アメリカ、ロシア、オーストラリア、アルゼンチン、ワルシャワなど海外にも12か所常設。写真はニューヨーク州。

その後もMEGASTARの海外進出など勢いにのるなかで、大平氏はどんなビジョンを見据えているのか? 

「プラネタリムって、生きていくうえではなくてもいいモノなんです。でも、満天の星を見るという体験をできるだけ多くの人に与えて感動させたい。そして、混沌とする世の中にあって、人々に“広大な宇宙の中で暮らしている”“地球も無数にある星のなかの、ひとつに過ぎない”ということを思い出し、大きな視点でものごとや自分自身を見つめ直すきっかけを与えられればと思っています」

と語る大平氏からアーリーステージの経営者にメッセージをもらった。

「好きなことを仕事にするということは、素晴らしいことです。働くということは、生きている活動そのものですから。僕は、会社とは人が集まってひとつの目標に向かってチームを組むことでより楽しくなる“幸福追求装置”だと思っています。ですから、その幸福度合いを“どうすればより高められるか?”を常に考えて楽しく挑戦してください」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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