スーパーCEO列伝

キーワードは「時短」と「共有」!ユーザベースの成長要因をベンチャー企業分析の専門家が紐解く

株式会社フィスコ

情報配信部 株式アナリスト

雲宮 祥士

文/吉田祐基(ペロンパワークス・プロダクション) | 2018.10.10

企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」とソーシャル経済メディア「NewsPicks」という2つのサービスを軸に、世界に向けて“経済情報インフラ”を醸成するユーザベース。上場を果たした後もなお、高成長率を維持する理由はどこにあるのか? 数多くのベンチャー企業分析を手がけるフィスコ・雲宮氏に伺った。

株式会社フィスコ 情報配信部 株式アナリスト 雲宮 祥士(くもみや しょうじ)

1992年生まれ。大手証券会社を経て、2016年にフィスコに入社。情報配信部のアナリストとして業績や需給、提供するサービスなど様々な角度から企業分析を行う。担当は新興市場・個別銘柄・仮想通貨。これまでに数多くのベンチャー企業分析を手がける。

ユーザベースの「これまでの成長要因」

時短とSNS文化との親和性の高さが鍵

契約ID数をこの3年間で2倍以上の2299(2018年6月時点)にまで伸ばした「SPEEDA」と、同じく3年間で有料会員数を約15倍の7万3570人(2018年6月時点)まで伸ばした「NewsPicks」。両プロダクトが契約・会員数を右肩上がりに増やしている要因について、数多くのベンチャー企業分析を手がけるフィスコ・雲宮氏は「社会的な時短労働意識の高まりやSNS文化の定着など、まず時流に沿ったサービス設計であった」と指摘する。

「SPEEDA」のサービス開始は2009年と意外と年数をさかのぼる。

「成長のキーワードとなったのは業務効率化でしょう。少子高齢化や労働人口減少から、いわゆる働き方改革が求められるようになった近年において、『SPEEDA』は『7日間かかる業界分析を、たった1時間に短縮』をキャッチフレーズに掲げてきました。何かをキッカケにたまたまブレイクしたのではなく、サービスの本質が社会のニーズと合致していたことにより、むしろ着実なステップで幅広い企業に受け入れられてきたのだと思います」(雲宮氏)

時短により業務効率化が求められる今、「SPEEDA」を利用すれば通常はバラバラの情報源を地道に辿らなければ取得できない情報を、一括で収集することが可能だ。

「たとえば緻密なデータ分析が求められる金融機関やコンサルティングファームはもちろん、不動産業界の新規開拓における実地調査や広告業界のマーケティング調査など、幅広いニーズを満たしたことも、契約社数増加の一因として挙げられるでしょう」(雲宮氏)

一方、「NewsPicks」においては、TwitterやFacebookといったSNSの普及が成長を紐解く要因として外せない。

「若いビジネスマンにとって、経済ニュースを読むことは少なからず社会人としての義務感をともなう行為だったと思います。しかし『NewsPicks』はフォローしたユーザーのコメントやPickしたニュースがタイムラインに流れたりといった、SNS的な機能に準じた仕掛けが実に上手い。ユーザーにとって、経済ニュースにアクセスすること自体の心理的ハードルをグッと下げた側面があると思います。

またSNS的なコミュニティ形成によってユーザーは飽きることなく、サービスの定着率にも好影響を与えていると読み解けます。このあたりの大胆かつ受動的ではなく能動的にユーザーが楽しめる仕掛けは、日経新聞など既存のメディアにはなかった価値提供ではないでしょうか」(雲宮氏)

既存の経済メディアにはなかった、SNS機能を前面に出したプラットフォーム。これらが多くのユーザーに届いた背景には、意思決定の速さ、そして実際に展開するフットワークの軽さといった強みをユーザベースが持ち合わせていた結果だと、雲宮氏は指摘する。

ストック型ビジネスだからこそ新サービス創出の一歩を踏み出せる

2013年にスタートした「NewsPicks」事業は、たった3年後である2016年に黒字化を達成。創業時より収益源となっていた「SPEEDA」事業と合わせて売上の柱が2つとなったユーザベースだが、両事業の収益構造が一過性の流行やヒットコンテンツに頼るものではない点にも注目したい。「継続課金によるストック型のビジネスモデルであることが、高成長率を維持する大きな要因」だと雲宮氏は続ける。

「ユーザベースの収益規模を見てみると、契約・会員数の増加にともなって安定的に成長しています。売上高も、2015年から平均して前年比約70%という驚異的な成長率を続けています」(雲宮氏)

またユーザベースは安定した収益源を確保しつつ、新規事業への投資も積極的に行っている。

「たとえば2020年以降の資金回収を目標として、ベンチャーキャピタル事業の『UB Ventures』やアメリカ版『NewsPicks』などの新規事業へ積極的に投資を行っています。そのため直近の決算書を見ると営業利益が減少していることもありますが、これは先行投資の結果。2020年以降におけるさらなる業績拡大が期待されます」(雲宮氏)

 

ユーザベースの「今後の成長性」

海外開拓でさらなる顧客増へはSNS機能の成否がポイント

2018年7月には米経済メディア「Quartz」を買収し、今後本格的な海外展開を控える。海外においては、「ブルームバーグ」や「トムソン・ロイター」など経済情報サービスの大手が控えるなか、同社の独自性はどこにあるのか。

「ユーザベースは金融情報および経済メディアというカテゴリ下で、顧客ターゲットを法人と個人の両方としている点が一番の独自性だと考えています。『ブルームバーグ』や『トムソン・ロイター』はどちらかといえば法人向けのサービス設計。またご存じの通り、国内で経済情報を提供する代表的なメディアである『日経新聞』では個人のビジネスマン向けのコンテンツといえます。

しかしユーザベースは『SPEEDA』で法人、『NewsPicks』で個人という両方のターゲットに向けてサービス提供しており、どちらも収益化に成功している。こういった企業はたとえば米国でもほぼ見当たりません。国内でひとまず収益化に成功したといえるこの両輪のスタンスが、海外でどこまで通用するか注目していきたいですね」(雲宮氏)

では、「SPEEDA」「NewsPicks」の両サービスにおいて、今後の伸び代はどこにあるのか。

「私が個人的に使っていても実感するのですが、『SPEEDA』は他の法人向けサービスと比較して、見やすさや操作性などユーザビリティの部分で評価が高いといわれています。言語の壁がある海外では、こういった直感的に使いやすいサービスは強い。企業の導入ハードルも下がるでしょう。実際『SPEEDA』は、アジア展開においてはまず現地での事業展開を考える日系企業向けに導入を進めてきましたが、現在は導入企業の約半数が現地法人だといいます。日系企業のみならず、現地法人に広がるといったかたちで、今後はアメリカや欧州でのさらなる契約企業数の拡大に期待したいですね」(雲宮氏)

一方、日本から海外へメディアを輸出展開し、成功した前例はほぼないとされている。このことから「NewsPicks」の海外展開は、正直なところ伸び代は未知数だ。

「しかし、SNSに関しては海外発のサービスが多く、コミュニティ形成においては日本以上に心理的なハードルは低い。そのため、まずは無料会員によるコミュニティを形成し、そこから『Quartz』とタッグを組むことによって課金してでも読みたいと思える独自コンテンツを作り、有料会員をいかに増やしていくかが今後の鍵を握ると思います」(雲宮氏)

「SPEEDA」「NewsPicks」に続き第3の矢となりうる事業の登場

ここまで基幹事業である「SPEEDA」と「NewsPicks」軸に見てきたが、ユーザベースは新規事業への投資にも積極的だ。特に、スタートアップ企業に特化したデータベースである「enterpedia(アントレペディア)」と、法人向けマーケティングプラットフォームの「FORCAS(フォーカス)」は、それぞれ2020年と2021年を黒字化目標にしており、ユーザベースにとって今後、第3の矢となり得る可能性がある。

「ユーザベースのような社員数が数百人規模のベンチャー企業情報検索機能を持つ『enterpedia』は、一番の注目株と見ています。ベンチャー企業同士のM&Aや資本提携の際に、こういったツールを活用して情報収集を効率化できるのであれば、労働資源に限りがある中小規模の企業を中心に導入が増えていくでしょう。

また『FORCAS』のようなBtoBマーケティングプラットフォームも、労働人口が減少するなかでアウトソーシングや効率化が求められている時代においては、今後ますます引き合いが増えていくはずです。

実際、クラウドソーシングの市場は近年伸び続けており、これまでアウトソーシングといえば事務処理やシステム管理などの保守・運用において利用する機会が多かったという企業も、今後はマーケティング戦略やM&Aのためのリサーチといった、“攻め”のビジネス局面において利用される時代が来る可能性も高い。そこでこのFORCASが注目されれば、さらにユーザベースが飛躍的に成長するキッカケになるかもしれません」(雲宮氏)

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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