スーパーCEO列伝

「SPEEDA」&「NewsPicks」にフォーカス

ユーザベースの2大サービスが生み出す経済情報プラットフォーム戦略

文/吉田祐基(ペロンパワークス・プロダクション) | 2018.10.10

企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」で経済情報のインフラを構築するユーザベース。ここでは両サービスのビジネスモデルを紐解き、その成長性の背景に迫る。

SPEEDA(スピーダ)

世界200か国以上、560業界以上を網羅したレポートをはじめ、約500万社の上場・未上場企業データや、約2000媒体のニュース記事、さらには150万件におよぶM&A情報などがワンストップで取得できる、企業・業界情報のITプラットフォーム。

NewsPicks(ニューズピックス)

国内外の経済ニュースや、NewsPicks編集部執筆によるオリジナルコンテンツを提供するソーシャル経済メディア。ニュースに対して専門家や著名人の解説コメントが投稿され、ニュースを多角的に読み解くことができる。

 

SPEEDA3つの強み

豊富な情報量とユーザビリティを武器に、収益の柱としてユーザベースを支えてきたSPEEDAの強みに迫る。
 

国内の全上場企業はもちろん、未上場の約115万社の企業情報を網羅。世界においても、上場企業約6万社(全上場企業の99%)に加え、アジアを中心とした未上場企業約400万社の企業情報をデータベース化している。また、企業情報だけでなく、560業界におけるSPEEDA独自の分析レポートも取得できる。これまで別途コンサルティング会社に依頼していたような、リサーチしたい業界のトレンドや、競合他社の分析情報を手元で入手できる点が、SPEEDAの強みだ。こういった分析レポートは、経営戦略の策定や新規事業開発などでも利用価値が高いため、金融関連企業のみならず一般の事業会社にとってもニーズがあるといえる。また約2000媒体以上から配信される企業関連ニュースも網羅しており、SPEEDAのトップ画面からこれらの豊富な情報に、容易にアクセスが可能だ。
 

BtoB向けサービスにありがちだった複雑な画面を極力改善し、シンプルな操作性が追求されている。これにより、誰もが企業のあらゆる情報を容易に検索・閲覧でき、情報の分析から資料の作成までをワンストップでの実施が可能に。画面上部にある検索ボックスにキーワードを入力するだけで、関連する財務情報や業界情報、市場動向やニュースなどを表示。複数のキーワードを入力することで、GoogleのようなAND検索(指定したキーワードをいずれも含む検索)も可能だ。これはユーザベースの共同代表の梅田氏が、外資系証券会社時代に利用していた金融情報サービスに対して、もっと改善の余地があるという問題意識から着想を得ており、ビジネスの世界でも検索ひとつで情報にアクセスできるものを作ろうという想いが反映された結果といえる。
 

企業・業界情報のデータベースを利用できるのみならず、専属コンサルタントによる無償のコンサルティングサービスも付帯している。これは情報の検索方法などSPEEDAの利用方法に関することはもちろん、SPEEDA内の情報を利用したデータ収集や企業リストの作成などにも対応している。営業時間内であれば受付後30分以内のスピード回答も、ほしい情報をすぐに入手したいビジネスマンにとってはうれしいサービスだ。

 

NewsPicks3つの強み

厳選された国内外のニュースや専門家によるコメントによって読む体験を変えたNewsPicks。その3つの強みを見ていく。
 

NewsPicksは日々大量に届けられる世の中のニュースから、良質な経済情報に出会うためのプラットフォームだ。「The Wall Street Journal」や「New York Times」など100以上の提携メディアから配信されるニュースが厳選して集約されている。加えて、気になるユーザーをフォローすることもでき、フォローしているユーザーがPick(気になる記事を選択したり、コメントを入れたりできる機能)したニュースがタイムライン上に表示される。また、自分の興味関心を登録できる「キーワード登録」により、個人の興味関心に応じてパーソナライズしたニュースを読むこともできる。このように数多くのニュースのなかからNewsPicks内でキュレーションすることによって、サイトを訪れたユーザーは厳選された日々の経済情報を閲覧することができるのだ。
 

2018年3月末時点で無料会員数300万人を超えるNewsPicksでは、SNSのように気になる人をフォローすることで、その人がPickやコメントをした記事を確認することができる。またひとつのニュースに、プロピッカーと呼ばれるNewsPicks公式コメンテーターをはじめ、様々な分野の専門家やユーザー同士のコメントが集まることで、多角的な視点で今世の中で起きている話題を深掘りすることも可能に。プラットフォーム上に投稿されたコンテンツに対して、ユーザーがコメントし、フォローし合い、Likeするという自然発生的に生まれるコミュニティもNewsPicksの強みだ。

2017年4月からはオンラインのみならず、リアルに集う場を提供する「NewsPicksアカデミア」がスタート。併せて、2014年からスタートしていた月額1500円で利用できるプレミアム会員とは別に、新たに月額5000円のアカデミア会員枠が設置された。アカデミア会員であれば、NewsPicksの有料コンテンツの閲覧はもちろん、NewsPicksオリジナルの書籍「NewsPicks Book」が毎月送付されると共に、リアルな場で実施される各界の著名人による特別講義への参加チケットも付与される。
 

2014年7月、現取締役CCOの佐々木氏が編集長に就任したことをきっかけにNewsPicks編集部が発足し、有料会員に向けたオリジナルコンテンツに力を入れ始めた。2018年7月時点では、オリジナルコンテンツを制作する編集チームは約15人のメンバーからなり、毎日5本~8本程度の独自コンテンツを配信している。徹底取材による読み応えのある記事はNewsPicksに新たな価値をもたらし、広告に依存しない継続課金のモデルの確立を目指している。また、2017年4月にはJ-Waveとコラボをした「PickOne」や、2018年5月には動画を中心としたオリジナルコンテンツの企画・制作を実施する「NewsPicks Studio」を設立。テキスト・動画・音声などの表現手段を複合したコンテンツを創出し、これまでテキストで伝えることが当たり前だった経済メディアを、さまざまな表現手段を使って構築しようとしている。

 

両事業ともに高成長率を維持

2016年に黒字化したNewsPicksの成長も寄与し、上場してもなお高い成長率を維持するユーザベース。この快進撃がどこまで続くのか注目したい。

◆前年を上回る成長率51%を達成、NewsPicksの会員数増加が牽引

創業より収益の柱としてきたSPEEDA事業においては、2018年第2四半期の決算時点で2299の契約数を獲得。事業単独で見た場合の売上高も2017年第2四半期は13.3億円であったのに対し、2018年第2四半期は18.1億円と2016年10月に東証マザーズへ上場した後も前年比36%の成長率を達成している。

一方、2016年に黒字化を果たしたNewsPicks事業においても、売上が2017年第2四半期から2018年第2四半期にかけて前年比81%増と大幅に成長。黒字化の要因としては、これまでの広告売上に加えて、有料課金による売上が事業全体の半分近くを占めるようになったことが起因している。2018年第2四半期の決算時点でNewsPicksの課金ユーザーも7万3570人にまで増加しており、両事業ともに前年を超える売上成長率を維持している。

またユーザベースの堅調な成長を支える要因としては、基幹事業である両サービスがストックビジネスであることも大きい。会員数の増加に比例して、売上げも増加していくため、今後も安定的な成長が期待できる。2つの事業(木)が安定的に拡大することによって、「経済情報プラットフォーム」としてのユーザベース自体(森)も企業価値を向上させることができる。両事業において安定的な収益源を確保しているからこそ、スタートアップに特化したデータベース「entrepedia(アントレぺディア)」や、マーケティング支援ツール「FORCAS(フォーカス)」といった新規事業への投資、さらには米国版NewsPicksのリリースや米経済メディア「Quartz」の買収など、海外展開に向けた新たな挑戦が可能となる。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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