スーパーCEO列伝

事業開発部マネージャー・小野直人さんに聞きました

メルカリのブレイクスルーポイントは、企業連携にあり

株式会社メルカリ

事業開発部マネージャー

小野直人

写真/高橋郁子 文/長谷川 敦 | 2018.02.13

メルカリ事業開発部・小野直人
メルカリの驚異的な成長を下支えするのがアライアンス戦略。各社との協働で、配送や決済分野の利便性を向上させてきた。キーマン・小野直人氏に企業連携成功の極意を伺った。

株式会社メルカリ 事業開発部マネージャー 小野直人(おのなおと)

早稲田大学政治経済学部を卒業後、1999年NTTドコモへ入社。海外携帯キャリアとのアライアンスなどを手掛けた後、米国ビジネススクールへ留学し、帰国後は経営企画部、IR部へ。2011年にはシニアプロダクトマネージャーとしてAmazon Japanに参画する。学生向けサービスAmazon Studentの日本立ち上げとAmazon Booksの事業企画にコミットする。2014年に株式会社メルカリに参画。事業開発(BizDev)のマネージャーとして、外部パートナーとの提携・協業をを通じ、プロダクトと事業の成長を担う。

メルカリの成長を下支えするアライアンス先との提携事業

らくらくメルカリ便

●メルカリ×ヤマト運輸
「らくらくメルカリ便」「大型らくらくメルカリ便」

●メルカリ×NTT ドコモ、KDDI、ソフトバンク
「キャリア決済」

●メルカリ×JCB、ダイナースクラブ、ディスカバー
「クレジットカード決済」

●メルカリ× 日本郵便
「ゆうゆうメルカリ便」

●メルカリ× 各倉庫・物流事業者
「メルカリNOW」

●メルカリ× 各Eコマース事業者
「メルカリチャンネル」
など

配送と決済における利便性を飛躍的に高めた

メルカリがフリマアプリの世界で圧倒的な利用率を獲得している要因には、手軽さや使い勝手のよさがあると言われている。
 
その手軽さを飛躍的に向上させたのが、2015年4月にヤマト運輸をパートナーとしてリリースされた「らくらくメルカリ便」だ。従来は送り先によって異なっていた送料をサイズごとに全国一律に統一。しかもその送料は、ヤマト運輸の通常価格より最大69%オフになった。またQRコードが発行されるため、出品者は伝票に宛名を記入する必要もなくなった。

ちなみにフリマアプリ事業者が宅配事業者と配送サービスに関するアライアンスを組んだのは、業界でも初めてのことだった。

このヤマト運輸とのアライアンスを実現させたのが、事業開発部長の小野直人氏だ。「私がメルカリに入社したのは2014年12月。そこからヤマトさんと本格的に交渉を始めて、翌年4月にはサービスをリリース。まさに怒濤の4か月間でした」と振り返る。

小野氏が所属する事業開発部とは「戦略アライアンスの締結と、そのプロジェクトマネジメントを担当する部門」(小野氏)である。

小野氏はその後、配送の分野では日本郵便とのアライアンスによる「ゆうゆうメルカリ便」を手がけた。また決済の分野ではNTTドコモ、au、ソフトバンクといった携帯キャリアとのアライアンスによる携帯キャリア決済や、コンビニ決済、クレジットカード決済など、フリマアプリ業界で初となる提携・協業案件を次々と実現させてきた。

いわば小野氏は、メルカリのみならずフリマアプリ市場において、配送と決済の利便性を画期的に高めたキーマンといえる人物なのだ。

大企業での経験がいま、存分に活きている

メルカリ事業開発部・小野直人

小野氏がヤマト運輸と交渉を始めた2014年12月といえば、ダウンロード数は飛躍的に伸びていたものの、一般にはまだ「メルカリって何?」と言われることの多い時期だった。

「社会的な知名度や信用度も今より高くない頃。そんな中で大手企業とアライアンスに関する交渉をするのは、それなりに大変なことでした」(小野氏)

ただそのときに活きたのが、小野氏自身の大企業での勤務経験である。小野氏は大学卒業後NTTドコモに入社。欧米各国での国際ビジネスや、経営企画/ 財務畑を中心にキャリアを積み重ねたあとに、アマゾンジャパンに転職。ここではシニアプロダクトマネジャーとしてAmazon Student(学生向けAmazon Primeサービス)の立ち上げを行った。そうした大手企業出身の小野氏だからこそ、大企業の意思決定のメカニズムやプロセスについても熟知している。

ヤマト運輸に関していえば、信頼関係を構築するためには、まず両者のトップマネジメント同士を引き合わせ、ビジョンを語り合う場を設定することが大切だと考えた。

「ヤマトさんは、『我々は物流のコモンキャリアとして、あらゆるモノを届ける義務を負っている』というポリシーをお持ちの企業です。一方メルカリはCtoCのプラットフォームを構築することで、消費者同士を結ぶマーケットを創出していきたいと考えています。両社のトップ同士が、そうしたビジョンや夢をお互いに語り合い、共鳴し合える場を実現できれば、このアライアンスは良い方向へ動き出すと考えたのです」(小野氏)

ただし、そもそもスタートアップの企業と大企業のトップ同士の会談を実現するのは、決して簡単なことではない。

「どうやって相手先のトップとコンタクトをとるかについては、個人的な人脈を使うことも多いですし、株主様など当社を応援してくださっているステークホルダー経由でアプローチすることもあります。そこはあらゆる手段を講じて切り拓いていきます」(小野氏)

また小野氏が交渉を含めたプロジェクト運営をすすめる際に、最も意識している、シンプルな流儀がある。“相手の立場に立ち、まるで相手企業の社員であるかのように思考・行動をシミュレーションする”ことだ。

同じ大企業でも、意思決定のプロセスは会社によって異なる。そこで相手の情報を収集したうえで、「この企業の場合、この時点でこういう情報を誰々に提供すれば、スムーズな意思決定につながる」「この企業ではこういう稟議書が必要になるから、稟議書を書きやすいように、こんな書類を用意しておこう」といったように、相手企業の意思決定がスムーズに進むように仕掛けていくのだ。こうした大企業の社員の立場に立ったイメージングは、まさに小野氏自身の大企業での勤務経験がもっとも活きる場面だ。

一般に大企業の意思決定のスピードは、スタートアップの企業と比べればかなり遅い。そこで小野氏は、どこがその企業の意思決定のボトルネックになっているかを見極め、その障害を取り除いていくのだ。小野氏がスピード感を持って次々とアライアンスを実現できているのには、そんな理由がある。

社史や創業者の伝記を読み企業DNAを掴みとる

メルカリ事業開発部・小野直人

小野氏は、さまざまな企業の社史や創業者の伝記、企業小説やドキュメンタリーを読むのが好きだという。その企業が創業以来培ってきた価値観や行動規範といった、企業DNAとでも呼ぶべきものがつかめるからだ。

「ときどき『企業DNAなんかつかんでも、実際の現場の仕事には関係ないのではないですか』と聞かれることがありますが、大いに関係があります。

個人と同様に、法人にも、顔というかキャラクターのようなものが明らかに存在し、それは大企業間でも明らかに違います。ここをつかむと、相手企業が何を大切にし、どんなスタイルでビジネスに取り組む会社なのかが見えてくるからです。こちらもそれに応じた動き方をすれば、アライアンスがスムーズに進むようになります」(小野氏)

また小野氏は、業界ごとの特質も意識するようにしている。

「相手企業とWin-Winの関係を築くには、Show Them the Money(お金を見せてあげる)が不可欠になりますが、実際はそれだけでは人や企業は動きません。

例えば相手がヤマト運輸のようなチャレンジを好む会社なら、Show Them the Dream(夢を見せてあげる)としたほうが、相手の心を動かしやすい。一方、JCBなど信頼性をとくに尊ぶ決済系の企業なら、Show Them No risk(リスクがないことを見せてあげる)に基づいたコミュニケーションのほうが、相手は安心します」(小野氏)

中国の兵法書のひとつ『孫氏』の中に「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉がある。まさに小野氏は「彼」(アライアンスを組む業界や企業)のことを徹底的に知り尽くし、何を語れば相手の心に響くかを意識しながら交渉に臨んでいるのだ。

一方で「己を知る」ことも怠っていない。

「メルカリのお客さまが何を望んでいるか、web/アプリ業界のトレンドは何か、といったところを正確に把握するのは言わずもがなです。加えて、メルカリの社内のそれぞれの事業担当者が、どんな性格の人間で、何を考え、これから何をしようとしているかも把握するように努めています。

『彼、あるいは彼女はこのタイミングできっとこう動くだろうから、今のうちにこういうアライアンス先を探しておこう』といったように、社内の様子を見ながら、常にあらゆるシミュレーションをして未来を細かく予測。Proactiveに先手先手を打つようにしています」(小野氏)

ところで、小野氏が所属する事業開発部では、この1年間でちょっとした変化が起きた。これまで小野氏は入社後の2年間、ほぼ1人でアライアンス先の開拓やマネジメントに携わってきた。そこに2017年4月以降、新しいメンバーが徐々に増え、事業開発部のメンバーは、小野氏も含めて4名になった。

「これまでは1人でやってきたため、CtoCの業界で事業開発を行う際のノウハウやCtoCプラットフォームならではのアライアンスの進め方や注意点などは、私の頭の中だけに蓄えられていました。今はその暗黙知化されていたノウハウを、wiki などの形で再現可能なように形式知化しています。メンバーへの浸透についても手応えを感じています」(小野氏)

小野氏はこの分野においては、間違いなくフロントランナーである。その小野氏が蓄えてきた暗黙知が、しっかりと形式知化され、メンバーにも完全に浸透したとき、日本、いや世界屈指の事業開発部門ができあがることだろう。

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