刺激空間から革新が生まれる

シリコンバレーに着想を得たイノベーティブなオフィス

株式会社グッドパッチ

代表取締役兼CEO

土屋尚史

写真/宮下 潤 文/福富 大介 | 2015.04.10

世界を変えるようなサービスやプロダクトが生まれる場所アメリカの西海岸、サンフランシスコ・シリコンバレー。そこにあふれるイノベーティブな空気感に魅了された土屋尚史氏が追い求めたのはメンバー間の化学反応を促すオープンなオフィス空間だった。

株式会社グッドパッチ 代表取締役兼CEO 土屋尚史(つちや なおふみ)

Web制作会社のディレクターを経て、2011年にサンフランシスコに渡り、インターンとしてWebデザイン、マーケティング、リサーチ・ブランディングを提供するコンサルティング会社btrax Inc.にて日本企業の海外進出サポートに携わる。帰国して2011年9月にグッドパッチを起ち上げ、UIデザインに事業をフォーカス。ニュース配信アプリ『Gunosy』などヒットアプリのUIを生み出し続け、現在急成長中の企業を率いる若き経営者。

情報シェアする文化を育み最高のパフォーマンスを引き出す

グッドパッチCEOの土屋氏には、忘れられない言葉がある。それは、DeNA南場社長(当時)の「シリコンバレーのベンチャーは、いろいろな国籍のメンバーで構成されていて、それが強さになっている。日本のベンチャーも日本人だけが集まっていては駄目。多国籍軍をつくりなさい!」という言葉。

Web制作会社を辞めて起業する決意はあったものの、何をすれば良いのか模索していた時期、ネタ探しのために参加した講演会でこの言葉に出合い背中を押された。すぐにシリコンバレー行きを決め、数ヵ月後にサンフランシスコの会社でインターンとして働き始めた土屋氏は、そこで新たな衝撃を受ける。それは見たこともないオフィス、ドッグパッチラボというコワーキングスペースだった。

「さまざまな会社の人たちがオープンなスペースに集まり、自分たちのプロダクトやサービスを、そこにいる別の会社の人たちにプレゼンしてフィードバックを受け、ブラッシュアップしていました。こんな環境、日本では考えられない。そしてこれがシリコンバレーからイノベーションが起こる理由なんだと思いました」

帰国後、ドッグパッチラボから名前をもらい、グッドパッチを起業した土屋氏。当初はコワーキングスペースの運営を事業の柱に考えていた。

「でも、なかなかうまくいかなくて…、結局いくつかあった事業をUI(ユーザーインターフェース)のデザイン・設計に絞り、それ以外の事業は整理しました」

だからと言ってオフィスへの思い入れが消えたわけではなかった。「ドッグパッチラボのようなオフィスをつくりたい」という思いを抱き続け、4つ目となる今のオフィスで、ようやく理想のオフィスへの第一歩を踏み出せたと語る。

エントランスとエレベーターには、ブルーが印象的なグッドパッチのロゴ。あえて塗装せずに素材を剥き出しにした扉が存在感を放ち、個性的なオフィスへと誘う。

特にこだわったのは、エントランスの扉を開けてすぐに広がるオープンなスペース。ライトグレーとブルーの配色、洒落た小物やインテリア、まるでカフェバーと見間違えるような空間だ。ロゴにも使われている壁のブルーは、カリフォルニアの空の色をイメージしたもの。

「オフィスに余白があることが大事なんです。息がつまるような環境で良い仕事はできません。余白があるから、そこでディスカッションが始まり、コミュニケーションが活性化します。実際に今のオフィスに引っ越してから、コミュニケーション量は圧倒的に増えましたね」

朝礼や終礼、外部から講師を招いての勉強会などもこのスペースで行われている。

「情報のシェアを重視しているので、そのために活用しています。朝礼は毎朝、僕が会社の状況を話したり、その日の当番が最近気になったニュースをスピーチしたりしています。毎週月曜日の朝は“プロジェクトレビュー”といって、会社で進行中のプロジェクトをプレゼンして、それに対するフィードバックを行います」

チーム内で情報を抱え込まずに、全体でシェアしてフィードバックを受け、サービスやプロダクトをブラッシュアップする。当初思い描いていたカルチャーが根付き始めた。まさにドッグパッチラボで遭遇した光景の再現だ。オフィスの内装やレイアウトには、スタッフの意見も取り入れた。

「デザイン案がアップデートされるたびに意見を出し合って、会議室の壁をホワイトボードにしたり、メインの執務室とは離れた場所に集中スペースを設けたり、皆で働きやすいオフィスをつくりあげました」

透明ガラスで仕切られた会議室は、DropBox社を参考にしたつくり。他にも世界中のカッコ良くて実用的なオフィスのエッセンスを随所に取り入れている。

オフィス環境を整備することで、スタッフの生産性が上がった。そして、何より採用に大きな効果があったと言う。

「多くのベンチャーにとって、優秀な人材をいかに確保するかは重要な課題です。うちの場合、このオフィスに越してから8ヵ月でスタッフは倍以上に増えました。しかも採用コストはほとんどかかっていません」

遊びに来たスタッフの知人や友人がオフィス環境を気に入り、そのままグッドパッチに入社してしまうこともあるそうだ。

「一般的な日本のオフィスに、感度の高い外国人のデザイナーは魅力を感じません。今うちではドイツ人、アメリカ人、中国人など、さまざまな国籍の人材が活躍しています。もっと“多国籍”で強いチームをつくるために、彼らが働きたいと思えるような理想のオフィス環境を追求したいですね」

最近ここから徒歩数分の場所に、第2オフィスを構えた。そこも開放感あふれる空間となっている。今後、オフィス環境がどう発展していくのか、グッドパッチの成長に注目したい。

徒歩数分の場所にオープンしたばかりの第2オフィス。元々飲食店向けの物件だったものをオフィス用に改装した。天井が抜けていて青空が見える。開放感、抜群!

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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