刺激空間から革新が生まれる
株式会社カヤック
企画部(ディレクター)飲食事業部取締役会(代表取締役CEO)
柳澤大輔
写真/宮下 潤 文/田中 縁 | 2014.08.11
株式会社カヤック 企画部(ディレクター)飲食事業部取締役会(代表取締役CEO) 柳澤大輔(やなぎさわだいすけ)
1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を構え、鎌倉からオリジナリティのあるコンテンツをWebサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲーム市場に発信する。主要事業のほかにもカヤックが運営する飲食店「DONBURI CAFE DINING bowls」の運営や2009年、ビンボーゆすりを科学したプロダクト「YUREX」の開発のプロデュースにたずさわる。100以上のクリエイティブディレクターをつとめる傍ら、2012年カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル、2010年東京インタラクティブ・アド・アワード、2010~2014年Yahoo!インターネットクリエイティブアワードなどWeb広告賞で審査員をつとめ、著書に「面白法人カヤック会社案内」(プレジデント社)、「アイデアは考えるな」(日経BP社)などがある。ユニークな人事制度(サイコロ給、スマイル給)や、ワークスタイル(旅する支社)を発信し、「面白法人」というキャッチコピーの名のもと新しい会社のスタイルに挑戦中。
鎌倉駅から徒歩5分。鶴岡八幡宮へと続く、若宮大路沿いのビルの2階に面白法人カヤックの本社オフィスはあった。鎌倉という場所を選んだ理由を問うと、開口一番、「海と山があるから」と柳澤氏。
「それって重要なことじゃないですか。自然に近いと、“美しい”っていう感覚を日々感じることができますから」
都心から離れすぎず、自然とも近い、鎌倉という立地。そこにオフィスを構えるという絶妙なバランス感覚こそ、いままでにない、ユニークな会社として知られるカヤックという企業体をあらわしている。
サイコロを振って給料を決めたり、働き方や働く場所に囚われることなく、自由に選べる制度があったりと、仕事スタイルや自社サービスのユニークさで知られるカヤックだが、200人近い社員一人ひとりの個性も、唯一無二の、カヤックにしかない圧倒的なオリジナリティであり、企業の魅力そのものでもある。そんなカヤックの本社オフィスは、立地、空間、すべてにおいて、そうした企業の精神を体現するものだった。
このビルに引っ越してきたのは、いまから7年前の2007年。クライン・ダイサム・アーキテクツが内装設計を手がけた。彼らに出したオーダーは「オープンであること」「鎌倉ならでの空間づくり」「ペーパーレス化」の3つ。
「会社全体がひとつの会議室というか、みんなでブレストしているような感覚がほしかったんです。鎌倉らしさとして、畳や縁側のような和のしつらえと、木や漆などの素材を取り入れてくれました。ウェブの会社なので、紙があまり必要なく、本棚もない。できるだけペーパーレス化して、シンプルにしてほしいと伝えました」
【シェアオフィス】入り口からすぐ左にあるシェアオフィスの空間には、現在複数社が入居。高い天井からは、LANケーブルのような黒いチューブを使った、ユニークなシャンデリアが吊り下がる。畳の上ではくつろいだり、仕事したり、自由自在に過ごせる。畳の上にあるのはカルテルのTテーブル。椅子は座り心地にこだわった岡村製作所製。
シャンデリアはオーダーシャンデリアを中心に活躍するデザイナー、キム・ソンヘの作品。
オフィスに入るなり、何も遮るもののない空間でオフィスのなかが一望できる。中央部には畳が敷かれ、そこで寝転がるもよし、マンガを読むもよし、のリラックススペースは「何でもアリ」な空間。掘りごたつ式のテーブルもあり、仕事や打ち合わせも可能だ。
「天井が高いことはオフィスの必須条件でした。空間が広い方が発想も広がるような気がするし、何より気持ちがいい。『気持ちいいかどうか』といった感覚がクリエイティブに与える影響は、多分にあると思います」
オフィスへ訪問した際、受付しか通らず、会議室へと通され、会社の雰囲気がわからないことも多い。けれど、「それはもったいない」と柳澤氏は話す。
「うちの会社の一番のコンテンツは社員。働いている雰囲気は見えた方がいいし、見てほしい。オープンであるということは、社内と社外、両方に対して、開かれているということなんです」
また、なかでもこだわったのは、机や床など、経年変化で劣化する素材は、いいものを使うということ。
「オフィスというのは、新しくできた時は高揚するもの。半年ぐらい経てば、意匠的なことにはなじんでしまいます。けれど、場の空気感や長く使って気持ちがいいかどうかという、人が感じる生理的な感覚を大切にしたほうがいい。新築の家を見るよりも、中古の方が実際に住んだ感覚がわかるように、いい感じに変化していくのか、ただ劣化していくのか、時間が経てばはっきりしてくると思います」
柳澤氏が考えるクリエイターにとって、理想的なオフィスを実際に手に入れたようにみえるけれど、「事業内容や社員の数に合わせて、オフィスはその時々で変わっていくもの」ときっぱり。その時々に合わせて、オフィスも柔軟に変わっていくのがカヤック流なのだろう。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美