刺激空間から革新が生まれる

SOULとCREEDを体現した「360°スゴイ」オフィス

株式会社VOYAGE GROUP

代表取締役社長兼CEO

宇佐美 進典

写真/宮下 潤 文/福富 大介 | 2014.10.10

今をときめくベンチャー起業家たちが熱く未来を語った地、渋谷。その一角にオフィスを構えるのがVOYAGE GROUPだ。エントランスに立った瞬間、誰もがその特異な光景にまず度肝を抜かれるだろう。しかし、一見個性的過ぎると思えるオフィスにはCEOである宇佐美 進典氏の熱い想いと経営理念が体現されていた。

株式会社VOYAGE GROUP 代表取締役社長兼CEO 宇佐美 進典(うさみしんすけ)

1972年10月12日生まれ。愛知県出身。大学卒業後トーマツコンサルティングを経て、1999年に株式会社アクシブドットコム(現 株式会社VOYAGE GROUP)を設立。取締役COOに就任後、2002年10月に代表取締役CEOに。2005年~2010年の5年間、サイバーエージェント取締役を兼務し主に技術部門を統括した。2010年に日本インターネットポイント協議会会長としても広く活躍。2011年、社名を「株式会社VOYAGE GROUP」に変更。また、スタートアップの起業家の支援にも注力している。懸賞サイト「MyID」からスタートした事業は、価格比較サイト(後にポイントサイト)ECナビなどのメディア関連を中心に拡大。更に現在はメディアの収益を最大化させる仕組みSSP(Supply-Side Platform)の「Fluct」などアドテクノロジー事業にも進出している。

秘密基地に海賊、航海…大切にしたいのはワクワク感

渋谷の深い谷から道玄坂を上り切り、さらに5分ほど歩いた場所、京王井の頭線の神泉駅から徒歩3分という立地にVOYAGE GROUPのオフィスはあった。渋谷界隈はかつて「ビットバレー」と呼ばれたIT起業家ゆかりの地。VOYAGE GROUPを率いる宇佐美氏もそんな活気溢れる土地の磁力に引き寄せられた一人だ。

さて、VOYAGE GROUPはポイントサイトECナビの運営など、メディア事業・アドテクノロジー事業を展開するITベンチャーである。そのCEOである宇佐美氏がオフィスにこだわりを持ち始めたのは10年ほど前のこと。

当時サイバーエージェントの役員を兼務していた宇佐美氏は同社の充実したオフィス環境に触れるうち、「オフィスはコストではなく投資だ」と考えるようになった。そして、今のオフィスに至る大きなターニングポイントとなったのが、2007年に完成した「AJITO」という空間である。

エントランスの奥にある、海賊船をイメージした社内バー「AJITO」。日中はミーティングや休憩スペースとして、18:30以降はアルコールがフリードリンクになり部署の打ち上げや、お客様と親交を深めるコミュニティースペースとして活用されている。

企業の第一印象を決めるエントランスとしての機能を果たしながら、社員同士、あるいはお客様とのコミュニケーションの活性化にも一役買う。そんなスペースの設計コンセプトは、「子どもの頃に遊んだ秘密基地」。宇佐美氏は幼少期に味わった心の底から湧き上がるようなワクワク感の再現を求めた。

一般的な企業のオフィスに求めるオーダーとは一味違った要望に、120%の意外性で応えたのが「兼城祐作+造形集団」だ。彼らは宇佐美氏の要望を「近未来的海賊の隠れ家」と解釈し具現化してみせた。廃船を模したオブジェが圧倒的な存在感で横たわるエントランスに隣接して、六本木あたりにありそうなおしゃれなバースペースが誕生した。

そして、AJITOの完成から約2年。2009年末に宇佐美氏はオフィスの全面リニューアルに向けたプロジェクト「VOYAGE(航海)」を立ち上げる。VOYAGE GROUPだから「VOYAGE」なのではない。当時の社名は「ECナビ」だった。つまり今の社名「VOYAGE GROUP」は、この「VOYAGE」がルーツである。

プロジェクトのキックオフにあたり、宇佐美氏は「経営理念を全社に浸透させ、毎日みんなでワクワクすることをやりたい」との思いを語った。プロジェクトはその思いに共感した大勢の社員たちによって進められ、彼らの夢と希望がつまった新オフィスは2010年2月に完成した。

VOYAGE GROUPの経営理念は、創業時の熱い思いであるSOUL(魂)と、8つの行動規範であるCREED(価値観) で構成されており、このSOULとCREEDがリニューアルされたオフィス全体で体現されている。

では、CREEDに散りばめられた「仲間」「スピード」「楽しさ」といったキーワードはどのようにオフィスに反映されているのだろうか。宇佐美氏に聞いてみると、「デッキ」という答えが返ってきた。デッキとは執務室の一角にあるオープンスペースのこと。

VOYAGEプロジェクトのメインテーマはその名の通り「航海」。社員(クルー)が業務に向かう執務フロアはキャビン、デッキはクルーが集まるオープンスペースという位置づけだ。広々としたキャビンの中央にレイアウトされたデッキには、ちょっとした休憩スペースとドリンクコーナーを配置。仕事の合間にちょっとひと息つきにきたクルー同士が気軽に雑談を交わすところから、ユニークな新ビジネスが動き出すこともあるという。

VOYAGE GROUPのオフィスが入るビルの1階には、本格的な社内ライブラリがある。本棚には技術系の書籍がずらり。さすがIT系企業と思いきや、別の棚にはビジネス書や漫画まである。この蔵書は社員が持ち寄っているのだとか。貸出はセルフサービスだが、返却された本の整理は社内の有志が行っている。調べものやミーティングに使われるのはもちろん、自分のデスクから離れて仕事に集中したいときにも絶好のスペースだ。

「航海」にまつわることといえば、各フロアの会議室も特徴的だ。例えば、4階会議室は大航海・中世時代の7つの海の名前、7階会議室は航海の道標となる星座の名前、8階会議室は冒険が待つ大陸の名が付けられている。各会議室はそれぞれのネーミングにふさわしいデザインとインテリアで構成されており、通常オフィスには使わないような建材や内装材を採用するなどの遊び心が満載だ。

VOYAGE GROUPのオフィスでは今日もクルーが楽しそうに語らい、ワクワクしながらスゴイことを考えているに違いない。

会議室には、すべて「航海」にまつわる名前がついている。写真は南極を意味する「アンタークティカ」と、「ジパング」(和室)。ちなみに、アンタークティカの壁に浮き上がる紋様は、渋谷駅から同社までの俯瞰地図。オフィス内には、こういった遊び心が随所に散りばめられているのだ。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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