刺激空間から革新が生まれる

壁のない空間が一体感を醸成し普遍的な価値を生み出す

株式会社オールアバウト

代表取締役社長

江幡哲也

写真/宮下 潤 動画/アキプロ 文/福富 大介 | 2016.06.10

自らコンセプトブックを作り、図面を引くほどオフィスに強い思い入れを見せる江幡社長。現オフィスに託した思いとは?

株式会社オールアバウト 代表取締役社長 江幡哲也(えばた てつや)

1965年、神奈川県生まれ。武蔵工業大学(現 東京都市大学)電気電子工学科を卒業し、1987年株式会社リクルートに入社。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後数多くの事業を立ち上げる。2000年6月に株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパンを設立。代表取締役社長兼CEOに就任。2004年7月株式会社オールアバウトに社名を変更。2005年9月にJASDAQ上場を遂げる。著書に、「アスピレーション経営の時代」(講談社)など。専門家ネットワークを基盤に世の中の「情報流・商流・製造流」の不条理・不合理に対してイノベーションを起こし、“個人を豊かに、社会を元気に”することを目指す。

「オールアバウトは創業以来16年間、5回の移転を経験しましたが、どこも恵比寿駅から徒歩圏内です。恵比寿は、多種多様な情報やサービスを提供し数多くの人が集うという点で、我々の運営するメディア『All About』のサイトコンセプトに非常にマッチしています」

江幡社長は、恵比寿という街に月間3,000万人~4,000万人が利用する、自社メディアの姿を重ねる。

「2014年8月に竣工したばかりのスバルビルの6階1フロアに、オールアバウトグループが入っています。オフィスのテーマは『普遍的であること』、そして『和』です。ある程度自分たちのやりたい経営体制が整ってきて、これからさらに大きくしようと思ったときに、色あせず陳腐化しない普遍的な価値をオフィスにも反映したいと思いました。また、事業展開がグローバルに広がっていく中で、あえて日本の良さ、和の文化をデザインに取り入れています」

【会議室「さくら(sakura)】「和」をイメージしたデザイン。海外からの来客も多いため、あえて「和」のテイストが随所に施されている。会議室の壁面にはデザインされた自然のマテリアルが。部屋ごとに「くさ(kusa)」「やま(yama)」「さくら(sakura)」など、「和」にちなんだ名前がついている。

最大の特徴は、壁や柱など視界を遮るものが一切ない広大な執務スペースだ。

「会社を機能別に分けてそれぞれの分野に専門特化させ、意思決定を早くする。そうすれば、グループの1社1社は強くなります。しかし一方で、各社が勝手に暴走してしまい、グループ全体のビジョンから離れていくリスクがある。

そこで、グループの一体感を高めるために、物理的にワンフロアであることにこだわりました。また、私の席からは全員の席が見渡せるので、夜オフィスに残っているのはどの部署か、誰と誰が頻繁にコミュニケーションを取っているかなど、社内の様子が一目瞭然です。ワンフロアには、組織の状態を可視化できるという経営上のメリットがあります」

執務スペースの横には会議室や休憩スペースがあるが、社長室や役員室はない。

「グループ横断のコミュニケーションをうたっていながら、リーダーが別の部屋に引っ込んでいては意味がありません。やはり姿は見える方がいい。これは創業以来のポリシーです」

もうひとつ、コミュニケーション面で大きな役割を担っているスペースがある。それが入り口付近にあるキッチン「いろり」だ。

「キッチンは最大のコミュニケーションツールです。ホームパーティーをイメージしてください。人を招いて、集って、食べて、飲んで、ワイワイガヤガヤ。そこでつくられる絆の価値は大きい。実際に『いろり』は業務利用以上に、社内外の懇親会などオフタイムで積極的に活用されています」

【キッチン「いろり」】稼働率の高いオフィス内キッチン。まるでマンションのモデルルームのようだが、正真正銘本物のキッチン。奥の冷蔵庫には食材も収められている。「なぜ社内にキッチンを?」という意見はあったが、今となっては社員みんなの憩いの場。金曜の夜はほぼ予約で埋まっており、江幡氏自ら料理の腕を振るう機会も多い。

会議室での議論より、このようなオフタイムのコミュニケーションが、「自立と自律」を促すという。

「チームで仕事をするには、自分のことを知ってもらうと同時に相手のことも理解しようと努めなければならない。それはつまり、自分を律するということ。オフタイムに自分を律して信頼関係を構築していれば、たとえ仕事の上で意見がぶつかっても大きな問題にはなりません」

オフィスは、コミュニケーションの活性化に加え、従業員のモチベーションアップにも貢献している。

「キッチン横のスペースは、普段は会議室ですが、可動壁を取り払えばオープンなスペースとなります。ここで年に2回、キックオフミーティングを開催し、全従業員の一体感や連帯感を高めると同時に、優秀者を表彰して意識的にヒーローを生み出しています」

【フリースペース】フレキシブルに使える多目的スペース。キッチン前のスペースは普段はミーティングスペースだが、可動壁を移動すれば、250人を収容できるイベントスペースになる。用途を特定しないフレキシビリティは、オフィス全体のコンセプトである「普遍性」にもつながる。

現在のオフィスに移転して1年。業績も順調に推移し、順風満帆に見えるオールアバウトグループだが、江幡氏は今の状況に甘んじてはいない。

「創業以来、『生活者の皆さんの自立を支援したい』という思いを抱いてきました。今後、特に力を入れていきたいのはヘルスケアの分野です。

日本の医療財政はどんどん厳しくなっており、医療から予防への転換が社会の大きな課題と言えます。『All About』の数あるカテゴリーの中でも、“健康・医療”のユーザー数はWEBの世界においてトップクラスです。この膨大な数のユーザーを、ドクターや栄養士などのガイドと呼ばれる健康・医療の専門家ネットワークが支えています。

今後はもっとスピードを上げて、個人の豊かな社会の実現や、自立のサポートにまい進したい。オフィスはそのためのエンジンです」

江幡氏のオフィスに対する思い入れは強い。

「経営を考える上で、オフィスのプライオリティは非常に高いと言えます。オフィスづくりに着手するのは、ある程度事業コンプトが固まってからで十分です。ただしその際には、顧問弁護士や税理士と同じように、オフィスづくりを相談できる専門家を一人、パートナーにするといいと思います」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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