採用ブランディング

【連載】無名・中小企業こそ必要!「採用ブランディング」①

採用できないことを、自分たちのいる業界のせいにするな

むすび株式会社

代表取締役

深澤 了

2019.03.13

グローバル・リンク・マネジメントの採用ホームページ
今、採用の現場は、母集団が集まらない・選考中の離脱者が多い・内定辞退が多いと嘆いています。新卒も中途も同様です。また採用しても人材が定着せず活躍人材が見込めないという本質的な課題も抱えています。
これらを根本的に見直し、中小企業でも、地方でも、学生に不人気の業界でも、“強く、好ましく、ユニーク”に見せていく方法論が「採用ブランディング」です。この連載では、実例を元に具体的に解説していきます。

むすび株式会社 代表取締役 深澤 了(ふかさわ りょう)

1978年山梨県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループに入社。広告代理店であるアドブレーン社にてCMプランナー/コピーライターののち、株式会社パラドックスへ。コピーライターとしてブランディングから制作物まで一貫して従事。2015年、早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年、むすび株式会社設立。2018年、書籍『採用ブランディング』を上梓し、採用分野の企業ブランディングにも注力。商品や企業を問わず、社内外への理念浸透を軸にしたブランド構築を進めている。

 

不人気業界をどう克服するか

採用で困っている企業が年々増えている要因などは、多くの記事やみなさんの実感の通りなので、あえてここでは言及しません。

図1にまとめたように、従来のやり方や手法の組み合わせで採用を捉えた場合、①の業界イメージが良く、BtoCへの商品・サービスを行っている企業が一番有利です。ここに企業の大きさや知名度が加味されればその企業がダントツで有利となります。例えば常に就職したい人気企業ランキングでベスト3に入るJTBなどはここに属するでしょう。

②は業界イメージが良く、BtoBでの商品・サービスを行っている企業。時代を超えて人気業種であり続ける商社はこの位置に属します。

③は業界メージが悪く、BtoCへの商品・サービスを行っている企業。今回のグローバル・リンク・マネジメントや飲食業界などが当てはまると思います。

④は不人気業界でBtoB。例えば、エンジニアの派遣などを行っている企業が該当するでしょう。ただ業界イメージというのは、実際にサービスを買う側と求職者では異なりますから、ここで言う業界イメージは後者の場合となります。

採用における業界イメージと事業の関連性を示す図

 

採用が圧倒的に不利な「投資不動産業界」の場合

2017年にマザーズ上場を果たし、2018年には東証一部上場も果たしたグローバル・リンク・マネジメントです。投資不動産業界は、どこもドブラックなイメージゆえ、採用は圧倒的に不利です。

グローバル・リンク・マネジメントは、当初から業界では珍しく、土地の購入、マンションの建築、販売、管理まで一気通貫して行っていました。ただ販売してマージンを稼ぐだけでなく、自らリスクを負って販売しているところに本気さや誠実さがにじみ出るような企業でした。

今もそうですが、不動産投資業界によくあるガツガツした雰囲気は皆無でした。しかし、売上の好調さとは裏腹に、採用は大苦戦。2015年入社の新入社員5名は、入社する1月に新卒紹介サービスなども駆使して出揃ったというくらい、成長に人員が追いつかない典型的な企業でした。

しかし、採用ブランディングという考え方は、不人気だろうが、BtoB企業だろうが関係ありません。こういう会社がしっかりと「結果」を残すところに、面白さがあります。

 

ブランディングとは、「一貫性」をどうつくるか

採用ブランディングを行う上で、最も重要なのは「一貫性」をどうつくり、持続させるかです。それを語るには下記の「ブランド構築の公式」で説明することができます。

ブランド構築の公式

つまり、従業員の行動と社外へのコミュニケーションが必ず理念を伴っている必要がある、と説明できる式です。

cにお金がかけられる企業ほどもちろん有利ですが、採用は必ず求職者との接点があり、かなりの時間をかけられるので、bの従業員行動次第では、短期間に大きな効果を出すことが可能です。

私たちはまず、採用プロジェクトに関わるメンバーの人選と、できれば現場でとても活躍している方を入れてください、とお願いします。それは現場の活躍人材の方を入れることで、現場でのやり甲斐を生で知ることができますし、採用したい人のペルソナ像をつくるためのミスマッチを防ぐ意味合いもあります。現場と人事が欲しい像は往々にして異なる場合もあるからです。

グローバル・リンク・マネジメントのみなさんは、当時、とても売れっ子のメンバーを集め、採用に全力投球を約束してくれました。私たちは彼らをまずは取材し、現場で感じている採用の課題やメンバーごとの採用に関するズレを把握することから始めます。

話を聴くと、売上を上げているメンバーばかりなので、とても仕事に前向き。どのメンバーも熱くやり甲斐を語ってくれました。成長企業にありがちなギスギスした雰囲気はありませんし、会社も渋谷のマークシティ。交通の条件も抜群です。

しかし、採用になると「なぜか断られる」、「そもそも集まらない」という課題ばかり。また社長の金さんも、情熱あふれる方で、採用にも熱心。説明会には必ず出席して、自ら起業の熱い想いを語るほどでした。

入社したあと、こうして活躍するスターをたくさん輩出できる会社であるのに、業界イメージというだけで損をしている。最初、取材したあとの実感はそのような感覚を抱いたものです。
 

メンバー全員がワークショップを通して課題を把握

私たちがメンバー全員の取材を行い、その会社の考え方を把握したあと、いよいよワークショップに入ります。採用ブランディングのワークショップなんて、ほとんどの人が体験したことがありませんから、みなさん半信半疑、なにをやるのかさえ想像できないまま、当日を迎える方がほぼ全員です。グローバル・リンク・マネジメントさんもそれは例外ではありませんでした。

グローバル・リンク・マネジメントの採用パンフレット

初めて「採用ブランディング」方法論で生み出したグローバル・リンク・マネジメントの採用パンフレット。トップのHP画像も同じタイミングでつくったもの。

10名のメンバーで構成されたみなさんと一緒にまずは採用上の課題から共有していきます。当時の資料を見返すと、前出の課題の他に「軸がない」、「営業優先」、「採用基準が明文化できていない」など、数多くの課題を出し合い、共有しました。

図2を見てください。2015年度採用を数値データで振り返ると、当時媒体でのエントリーが1500人程度。今よりも遥かに集まった時代でした。そこから説明会の予約が220人、参加が150人ですから、10%の参加率。当時であれば「良くはない」という程度ではありますが、今であれば、かなり善戦していると言えるのではないでしょうか。

そこから説明会とのセットで開催するグループワーク(GW)への参加が133人、通過するのが38人。2次は個別面接で、参加が31名で14名通過、最終面接は3割程度に内定出しをしています。さすがに3名では入社数が足りないので、新卒紹介などを駆使していました。

採用ブランディング前の採用数値を示す表

※実数値ではなく、参考値です。

この数字が、採用ピークの1-2ヶ月間での数字ではなく、夏過ぎ(になれば数値はほぼ動きませんが)までの数字というところに、採用活動の負担の大きさという課題も隠れていました。

さて、みなさんはこの数字を見て、何が強みで、何が課題であると考えるでしょうか。ぜひ次回連載までに仮説を考えてみてください。数字(とヒアリング)があれば、私たちのような採用に関わる人間はだいたい把握できます。これらの事実からわかること、みなさんの思っている課題をメンバー全員で共有し、ワークショップは本格的に始まっていきます。

少し長くなりましたので、次回はこの数字から私たちが考える強みの仮説、課題を明らかにしながら、グローバル・リンク・マネジメントがどんな議論をたどって今の成功にたどり着いたのかを紐解いていきたいと思います。
 

「採用ブランディング」書籍表紙

■書籍情報

 

著書『「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる 採用ブランディング』は、その理論と実例が豊富に掲載されています。経営者にとって必読の1冊。

 

「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる
採用ブランディング

 

深澤 了/著

定価:800円(税抜)
出版社名:幻冬舎メディアコンサルティング
発行年月:2018年1月

 

●むすび株式会社 代表取締役 深澤 了(ふかさわ りょう)
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●むすび株式会社 公式サイト

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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