採用ブランディング

【連載】無名・中小企業こそ必要!「採用ブランディング」③

求職者に迎合するな。 徹底的に強みで勝負しろ。

むすび株式会社

代表取締役

深澤 了

2019.05.24

グローバル・リスク・マネジメントの採用パンフレット
採用の現場で抱えている本質的な課題(母集団が集まらない・選考中の離脱者が多い・内定辞退が多い)、採用しても定着せず活躍人材が見込めないといった状況を分析し、企業の強みを引き出し、アプローチを変えるのが「採用ブランディング」です。経営者がおかしがちな失敗を避けるために、第三回は実例を元にターゲット、コンセプトの設定のポイントを説明します。

むすび株式会社 代表取締役 深澤 了(ふかさわ りょう)

1978年山梨県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループに入社。広告代理店であるアドブレーン社にてCMプランナー/コピーライターののち、株式会社パラドックスへ。コピーライターとしてブランディングから制作物まで一貫して従事。2015年、早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年、むすび株式会社設立。2018年、書籍『採用ブランディング』を上梓し、採用分野の企業ブランディングにも注力。商品や企業を問わず、社内外への理念浸透を軸にしたブランド構築を進めている。

入社後の悪いギャップを準備する必要性

求職者からの頻出質問に「会社のよくないところはどこですか」があります。そこでいい加減に答えてしまえば、必然的に悪い印象はいつまでも残ります。答えた本人はそれほど問題ないことのように思えても、実際にその場で働いたことのない人には大きな印象として残ってしまいます。そうなると、ブランディングしていく上でとても重要な「強くて、好ましくて、ユニーク」なイメージを持ってもらうことには、マイナスに働いてしまうのです。

グローバル・リンク・マネジメントの場合、出てきた付箋を整理すると「人」「制度」「業務」「環境」「その他」と、5つのカテゴリーに当時分けることができました。入社後の悪いギャップをワークショップで洗い出すことはとても大切な作業ですが、しかしそこで終わってはいけません。それらをどうポジティブに変換し、説明できるか、というところまで準備しておかなければなりません。いいことはいい加減に答えてもマイナスにはなりませんが、悪いことはポジティブに変換しなければ、前述の通り、マイナスに働いてしまいます。

「元気で素直」は、ほしい人物像とは言えない

あくまで実感ですが、社長に「ほしい人物像はどんな人ですか?」聞くと「元気で素直」と答えることが多いように思います。しかし、「元気で素直」な人はどの企業でもほしい人材でしょうし、そもそも自社で言う「元気」と「素直」は、他の企業とは意味合いが違うはずです。その「ニュアンス」を社内で共有することで、面接や選考にブレがなくなります。

グローバル・リンク・マネジメントの場合、大きく「モテる人」「決断した人」という大項目があり、前者に「素直さ」「ポジティブさ」「負けず嫌い」「自責」「興味を持つ」という5項目に大別され、後者に「行動力」「気遣い」「経験」があります。こうして整理された項目だけ見ると、どこにでもあるような感じがしますが、ワークショップで行う場合、それぞれのメンバーが出した項目をグループにしていきますので、自然とニュアンスが共有される利点があります。

最初から上記のような項目で分けようとしてしまうと、なかなかニュアンスを共有するのが難しくなる嫌いがあります。そして大切なのは、これらの項目の中で、何が絶対になければならない「must」項目で、あればプラスの「want」項目なのかをしっかりと議論することです。この議論を経ることで、自社の人材要件とって何が重要なのか、の優先順位を決めることができます。

当然ですが「must」が多ければ、多くの人を排除することになりますので、採用難易度は上がります。しかし遠慮して「must」を減らせば、ミスマッチが増える要因にもなるので、しっかりと、議論することをオススメしています。

「must」を持ち合わせた理想の人物像は誰か

「must」項目が決まったら、今度はその「must」を満たす理想の人物像をペルソナ化します。ここでポイントになるのは「超理想の人物像」をペルソナ化するということです。ペルソナ化には、賛否両論あります。

よくある質問は、一人に絞ってしまったら、(母集団が集まらなくなって)採用できなくなるのではないか、という懸念です。しかし、そもそもターゲットを明確化するということは、市場を絞り込むことが目的ではありません。明確化することによって、対象となる人たちへどんなメッセージを投げかければいいのかを鮮明にするためにあります。そうでなければ、深く突き刺さるメッセージにはなりえません。

消費の場は、利用して好みでなければ、リピートしなければいいだけですが、採用はそうはいきません。将来が決まる採用という場において、その効果は如実に出ます。深く突き刺さらなければ、行動に現れにくいのです。

グローバル・リンク・マネジメントの場合、「早稲田大学に通っていて、地方出身で高校時代は体育会の部活に入っており……」などと、ペルソナ像をつくりあげました(実際はもっと詳細に決めています)。 

必勝するコンセプトのつくりかた

その後は、そのペルソナ像が就職活動で重視していることを書き出し、グループ化します。いわゆるマーケティングで言うところの「インサイト」を考えていきます。そして、自分たちの数ある強みの中から、上位3つまで選び、その強みを、彼らになんと説明しますか?ということを考えると、いわゆる採用を貫くコンセプト(=採用で最も伝えるべき軸)ができあがります。これらを図式化すると、下記の図になります。

コンセプトのつくりかたの図解

つまり右上のビクトリーゾーンでコンセプトをつくり、採用活動を行うことができれば、自分たちの強みとターゲットが大事にしていることの接点で活動ができるので、成功しやすくなりますが、多くの企業はそもそもターゲットを明確化せず、その上で一般的な調査に基づいたなんとなくターゲットが考えていることを類推し(インサイトの深掘りではなく)、そこばかり強調した採用をしがちになります。

例えばそれは、仕事内容、福利厚生、休日休暇、給与などになります。それはこのゾーンで言えば、左上や左下の「レッドオーシャン」と「センスがない」という状態です。いくら休みや給与のことを全面に押し出した採用を行っても、結局上には上がいます。

給与がたくさん欲しい人は、外資系金融機関に是が非でも入るべきなのです。そういう人がそもそも欲しいのか、ということを自社に問いたださなければ、いつまでも入社しても、すぐに辞める非効率な「ザル採用」をし続けることになります。

さて、グローバル・リンク・マネジメントの強み上位3つは「経営陣」「高い向上心を持った個人」「成績評価」でした。当時、上場前だったこともあり、経営陣との距離感が近く、目線の高い先輩たちがいて、若いうちからどんどん活躍できる環境にあることを強みの3つに選び、これをペルソナ化した学生へどう訴求するかを考えていきました。そして2015年〜2019年まで開発された採用スローガンが「人生は、投資だ」でした。 

採用スローガンが掲載されているホームページ

【採用スローガン】

人生は、投資だ。グローバル・リンク・マネジメント

夢なんてまだなくたっていい。すぐに見つかる夢は、簡単に掴めてしまうから。就職は自分を伸ばすための投資。リスクを負って自分の可能性に賭けよう。大きな夢をともに描こう。夢にたどり着くまでにあるたくさんの壁が、自分を強く大きく成長させてくれる。私たちの仕事は、お客さまが描く夢を一緒に実現させていく資産運用コンサルティング。そのために、まずは自分が夢を持とう。99%の努力と1%の諦めない心を持ち続ける粘りが夢を近づけるはず。一生懸命に、真摯に、今を生きる。一緒に右肩上がりの成長曲線を描こう。人生はいつだって投資だ。

 

採用活動のポイントは、この「人生は、投資だ」に紐づけて、一貫性を保つことにあります。次回はこの「人生は、投資だ」という言葉の意味をもう少し深掘りしながら、デザイン開発のポイント、そして採用フローで留意すべき点を紐解いていきます。

【連載】無名・中小企業こそ必要!「採用ブランディング」
採用できないことを、自分たちのいる業界のせいにするな             ②強みがない会社なんてない。どんな会社にも、必ずある。

●むすび株式会社 公式サイト

■書籍情報

 

著書『「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる 採用ブランディング』は、その理論と実例が豊富に掲載されています。経営者にとって必読の1冊。

 

「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる
採用ブランディング

 

深澤 了/著

定価:800円(税抜)
出版社名:幻冬舎メディアコンサルティング
発行年月:2018年1月

 

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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