採用ブランディング

【連載】無名・中小企業こそ必要!「採用ブランディング」②

強みがない会社なんてない。どんな会社にも、必ずある。

むすび株式会社

代表取締役

深澤 了

2019.04.05

グローバル・リンク・マネジメントの採用パンフレット
採用の現場で抱えている本質的な課題、つまり母集団が集まらない・選考中の離脱者が多い・内定辞退が多い、そして採用しても定着せず活躍人材が見込めないといった状況を分析し、根本からアプローチを変えるのが「採用ブランディング」です。中小企業でも、地方でも、学生に不人気の業界でも、強みがない会社なんてない。どんな会社にも、必ずあるのです。第二回は、前回の宿題を元に、強みの見出し方を解説します。

むすび株式会社 代表取締役 深澤 了(ふかさわ りょう)

1978年山梨県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループに入社。広告代理店であるアドブレーン社にてCMプランナー/コピーライターののち、株式会社パラドックスへ。コピーライターとしてブランディングから制作物まで一貫して従事。2015年、早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年、むすび株式会社設立。2018年、書籍『採用ブランディング』を上梓し、採用分野の企業ブランディングにも注力。商品や企業を問わず、社内外への理念浸透を軸にしたブランド構築を進めている。

母集団の数ではなく、質に問題があった。

採用ブランディング前の採用率を示す表

※実数値ではなく、参考値です。

前回、上記の図を見て、どのような仮説を抱くのか、という宿題を出しました。さて何を頭に思い浮かべたでしょうか。

まず、前回も少し指摘しましたが、エントリーから説明会の予約率が14.7%で、悪くはありません。エントリーも十分すぎます。昨年〜今年のデータで考えれば上出来です(まして不動産投資業界です)。また説明会予約からの参加率は70%近いですから、ここも悪くありません。説明会と1次選考はセットで行われていました。

しかし、上記の表を見ても分かる通り、通過率は28.6%と、非常に低い確率になっています。なぜそうだったのか。それはヒアリングから見えてくるものがありました。まず、「通したいと思える人がいない」、そして「判断する観点が個人でバラバラ」という問題でした。つまり、説明会には来るけど、思うほどの人材がいない上に、会社として個人の判断に任されているので、必要以上に落としてしまっている可能性も否めない、ということが見えてきました。

1次選考から2次選考への参加者の辞退はほとんどなく、2次選考の通過率が45.2%と半数以上落としています。聞けば、最終面接は社長と専務で、面接の中で、求職者が「行きます!」と言えば、内定をほぼ出すが、そうでなければ出さない、というのが経営陣の考えでした。2次選考の面接官は、自社に来てくれる可能性が高く、モチベーションも高い人を最終面接に送り込んでいたのですが、最終面接では12名中、4名しか志望度の高い人(=内定を出した人)がいず、そのうち3名が内定承諾になったということです。そしてこのあと、新卒紹介であと2名採用しています。

ここでわかるのは、1500名のエントリーに対して、3名しか内定承諾できていなかったという効率の悪さです。また志望者を選んでいたのは1次選考までで、2次選考は「誰が志望度が高いか」という観点で見ていたので、実質選考ではありません。つまりそもそもの母集団の質の問題が、一番大きな課題でした。

採用の課題は逆パターンで解消せよ

採用の課題について話をしておきたいと思います。採用の課題は大きく次の4つに大別できます。①母集団が集まらない。②母集団の質が悪い。③選考途中の離脱が多い。④内定辞退が多い。

①は今、本当に深刻化しています。これまで通りナビ媒体で募集していても、さまざまな施策を追加しなければ、前年の母集団を集められなくなってきました。これは数年前から年々進んでいる現象で、原因は多くの求職者の大手志向の増加が考えられます。②は集まってはいるが、思うほどいいと思う人はいない、という状況です。つまり妥協して採用している、という状態です。

③は例えば1次面接を通過し、2次面接の案内をされたが、なんらかの事情で来なかったか、明確に辞退の連絡が来た場合です。選考が長くなる、負担がキツイ企業に多いように思います。いずれにしても、他に志望度の高い企業が見つかったということでしょう。④は内定は求職者にとっては、「内定は欲しかったけど、やっぱり他にしました」ということ。彼らにとって、入社したい企業ではなかったということです。

結局、企業にとっては内定承諾(≒入社数)の確保が重要課題なわけですが、しかし、現状の採用は母集団至上主義、つまり◯人採用するためには、◯人の母集団が必要である、という考え方ですから、どうしても上記でいうところの①に課題をフォーカスしがちになります。

しかし、採用ブランディング的に言えば、まず重視すべきは内定辞退者を減らすこと。最後の選考まで参加しているわけですから、まったく興味が無いわけではないのです。そしてその次にすべきは辞退者を減らすこと。選考に参加しているわけですから、内定辞退者ほどでないにしても、興味がないわけではありません。

そして、母集団の質を上げていくこと。これは具体的には、ナビ媒体や採用HP、パンフレット、説明会など「採用広報」と言われる分野での発信が鍵を握ります。そして最後に考えるべきが母集団の数。多くの会社が①→④へと課題の解消を図ろうとしますが、そうではなく、④→①へ課題を解消するのが、実は難易度が低く、すぐにできる方法なのです。母集団から解消しようとすると、予算が毎年上がっていくばかりになります。

採用ブランディングは、理念や価値観に共感した人を集め、採用する方法論です。やみくもに母集団を集めるやりかたではありません。そのためには、理念や価値観を含めた強みの整理を行い、何を訴求すべきかを明確にしなければなりません。

強みの整理は2方向から

さて、以上のことをふまえ、本格的にワークショップへ入っていきます。まず強みの整理から行います。具体的には2つの方向から考えます。①メンバーが入社した理由、②入社してからのいい意味でのギャップです。

①はメンバー自身も気づいているわけですから、見えている「強み」。②は入社しないとわからない強みなので見えていない「強み」です。①②を付箋で出し合い、グルーピングすると、どんな企業でも10-20個くらいの強みが出てきます。②を見落としがちになりますが、入ってからしかわからないことを、外に向けて黙っておく必要はなんらありませんので、②を採用上の強みとして整理していくことはとても重要なことです。

グローバル・リンク・マネジメントの採用ホームページ

グローバル・リンク・マネジメントが「採用ブランディング」の手法を初めて用いた2014年の採用HP。

グローバル・リンク・マネジメントの場合、「社長や専務の人柄」や、「向上心を持った社員」、「若くから活躍できる環境」など、合計10個のグループができました。グループが出来上がると、メンバーで振り分けて、「それぞれの担当になったグループを、求職者になんと説明しますか?」ということを考え、文章化してもらいます。自分の頭で一度、強みの集合を整理して考えることで、実際に話せるようになってもらうためです。それを発表し、すり合わせすることで、全員が自社の強みについて話せるようになっていきます。

自社の強みについては、求職者からもよく出る質問です。だいたいが通り一遍等のことを言ってしまうか、「あまりうちはないんだよねえ〜」というふうにやり過ごすことが多いように思います。しかし、こうして整理しておくことで、採用に関わる全員が、深く強みを理解し話せるようになることは、他社よりも大きな差別化となって、脳内での好印象となっていくのです。

さて、ワークショップはこのあと「弱みの整理」と「採用基準の設定」に移ります。どちらもしっかり準備し、採用チーム(面接官含め)で整理している会社は多くありません。なぜこれを行う必要があるのか。グルーバル・リンク・マネジメントの場合、どうだったのか。次回の連載で詳しく説明していくことにします。


【連載】無名・中小企業こそ必要!「採用ブランディング」
採用できないことを、自分たちのいる業界のせいにするな

●むすび株式会社 公式サイト

「採用ブランディング」書籍表紙

■書籍情報

 

著書『「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる 採用ブランディング』は、その理論と実例が豊富に掲載されています。経営者にとって必読の1冊。

 

「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる
採用ブランディング

 

深澤 了/著

定価:800円(税抜)
出版社名:幻冬舎メディアコンサルティング
発行年月:2018年1月

 

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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