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創業50周年を迎える靴下総合企業

靴下ひと筋の老舗タビオが「スピード」を重視する理由

タビオ株式会社

代表取締役社長

越智勝寛

写真/芹澤裕介 文/竹田 明(ユータック) | 2017.10.10

越智勝寛のポートレート
2018年に創業50周年を迎える老舗、靴下専業の総合企業・タビオ。同社は最高品質の靴下を追求するため、メイドインジャパンの魂と技術を注いでいる。“靴下の神様”と呼ばれた父の後を継いだ2代目社長には、メイドインジャパンの価値と意味は、どのように映っているのか?

タビオ株式会社 代表取締役社長 越智勝寛(おち かつひろ)

1969年生まれ。大阪府出身。1994年から約3年間、化粧品会社ハウス オブ ローゼで販売員として働く。その後、父親が創業者である会社、ダン(現タビオ)の商品部に入り、各部署で活躍。2005年には、一年間休職して経営者研修に参加する。ドラッカーの経営学や財務会計を学び、2007年から営業本部長に。2008年、代表取締役に就任。

創業50年を迎える老舗の靴下専門総合企業

靴下屋一号店

▲1984年に福岡県久留米市でオープンした「靴下屋」の1号店

タビオ株式会社(創業時の社名は「ダン」)は、1968年に靴下専門卸問屋としてスタートした。越智勝寛社長の父である創業者、越智直正会長の靴下への情熱は、やがて靴下作りに向けられ、自社で企画した製品を作りはじめる。1982年に、取引先の要望にこたえる形で、たった一坪の小さな店を兵庫県神戸市の三宮に構えたところ、これが大成功。1984年には福岡県久留米市で、現在も主力となっている「靴下屋」の第1号店をオープンした。

その後「靴下屋」は急成長を遂げ、60店舗に届こうかというところで、フランチャイズによる出店をスタート。事業拡大はさらに加速した。1992年には取引工場とともに協同組合靴下屋共栄会を設立。「不況産業といわれる靴下業界に、我々の手で桃源郷をつくろう。そして業界の灯火になろう」という熱い思いを込めたシステムを構築するためだった。

企画から小売りまでを手掛ける「SPA(製造小売り)」

スポーツソックス

▲近年ではランニングなどのスポーツ用ソックスも展開

そのような歴史を経て、現在のタビオでは、靴下の企画から小売までを一貫して手掛けている。「靴下屋」「Tabio」「TabioMEN」といったブランドを直営店、FC店として運営しつつ、ビジネスの領域は広範にわたる。

なお、自社で企画した製品を委託で生産して自社のチェーン店で販売するビジネスモデルは「SPA(Specialty Store Retailer of Private Label Apparel、製造小売業)」と呼ばれている。1986年にアメリカのアパレルメーカー「GAP」が提唱し、「ユニクロ」や「無印良品」といった日本のアパレルブランドもSPAで成功をおさめている。

タビオではこのビジネスモデルを、日本国内の靴下工場と提携して実行。人件費が安い中国や東南アジアの工場と提携すれば、コスト削減が可能で価格競争力のある製品を作ることはできるが、タビオはプロパー品について日本国内の工場でしか生産委託をしない方針をとっている。この理由は、タビオが “クオリティ”と“スピード” にこだわっているからだ。

“タビオ・クオリティ”の靴下を作れるのは日本の工場だけ

工場風景

工場での仕事風景

▲工場では縫製はもちろん、仕上がりのチェックにも余念がない

履き心地が良くて耐久性にも優れている、それがタビオの考える理想の靴下。しかし、一般に靴下の履き心地と耐久性は反比例に近い関係にある。履き心地を追求すれば耐久性は落ちるし、破れにくい靴下を作ると履き心地が犠牲になるのだ。タビオでは、可能な限りギリギリの線まで履き心地と耐久性の両立を追求したいという思いから、自分たちが追い求めている靴下を製造できる工場にしか生産を依頼しない。

「同じ機械、同じ原材料を使っても、できあがる靴下のクオリティはまったく異なります。メンテナンスと機械を動かす際の微調整は、まさに匠の技といえます。当社の靴下は、熟練の職人さんがいる国内工場で、魂を込めて作り上げられた最高品質のもの。以前、外国の工場で生産が可能か試したことがあるのですが、当社の靴下へ込める思いが理解してもらえなかったようで、サンプルを何度も作り直して微調整を繰り返しているうちに、職人さんが怒り出してしまいました」

正確に言うと、タビオはメイドインジャパンにこだわっているわけではない。タビオが求めるクオリティの靴下を作れるのが、日本の工場とそこで働く職人だけなのだ。

SNS時代に対応するスピード感あるサプライチェーン

タビオがメイドインジャパンにこだわる、もう一つの理由は製品供給のスピードだ。

タビオは、サプライチェーンにいち早く注目した企業でもある。メーカーが作った製品を卸業者が仕入れ、衣料品を扱う小売業者に売るというのが、従来の靴下産業の物流構造だった。そのやり方では、余剰在庫と欠品のリスクをうまくコントロールする必要がある。

そこで、タビオでは、店舗の売り上げや在庫の状況を工場と共有し、売れている商品を必要な数だけ生産するシステムを作り上げている。在庫を極限まで減らしながらも欠品させない試みだが、そのためには、製品の売れ行きに敏感に反応しなければならない。海外の工場に発注して生産し、それを船で日本まで運んでいたら間に合わない。だからこそ、スピーディに反応できる日本国内の工場でなければならないのだ。

「SNS時代の今、ブームは爆発的に広がり、商品へのニーズは突然一気に高まります。しかし、その一方ですぐに別のものに関心が移るため、ブームに対応しようと急ピッチで生産を拡大しても、商品が店頭に並ぶころには、ブームが収束しています。安く生産できるからといって、海外の工場に発注していては間に合いません。当社が築いた国内生産ネットワークなら、急なニーズの高まりにも迅速に対応できます」

海外進出における諸刃の剣「メイドインジャパン」

フランス、パリの店外観

▲2009年には、フランスのパリ・マレ地区にも出店

2002年3月、タビオは海外進出を果たした。ロンドン市内の一等商業地であるキングス・ロードに「タビオ」をオープン。その後も、タビオの海外戦略は着実な歩みを見せ、現在はロンドンに2店舗とパリに2店舗構えている。しかし、タビオの海外進出において、メイドインジャパンは、大きな武器となる一方、足かせともなる、いわば諸刃の剣なのだ

「タビオの製品はメイドインジャパンが基本。日本の靴下工場、とりわけ熟練の技と繊細な感性を併せ持った職人さんたちの力が必要です。今後も海外進出を推進する予定のなか、それに合わせて提携工場に生産力を上げてもらうよう要請することもあるでしょう。タビオが海外進出することで、提携工場にも成長してもらえると理想です。しかし、それにも限界があります。タビオの求めるクオリティの靴下をそれ以上供給できないようなら、そこが当社の限界点。クオリティを下げてまで生産力を高めようとは思っていません」

自らの求める理想の靴下を作り続けるためには、今後もメイドインジャパンにこだわり続けることになると越智勝寛社長は考えている。

「タビオのモノづくりの精神に共鳴し、一緒にハイクオリティな靴下を作ってくれる工場があれば、海外での生産もありえます。私たちは、日本製にこだわっているわけではなく、日本品質、タビオ品質にこだわっているだけですから。とはいえ、タビオの求める基準をクリアできない工場には、今後も製造を委託するつもりはありません。たとえ、会社の成長が頭打ちを迎えたとしても。今後もしばらくはメイドインジャパンにこだわり続けることになると思います。それぐらい、日本の工場は技術と熱意を持っています。世界最高水準の靴下を履いてもらいたい。それがタビオの世界進出の意味なんです」

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DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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