未来を創るニッポンの底力
タビオ株式会社
代表取締役社長
越智勝寛
写真/芹澤裕介 文/竹田 明(ユータック) | 2017.10.17
タビオ株式会社 代表取締役社長 越智勝寛(おち かつひろ)
1969年生まれ。大阪府出身。1994年から約3年間、化粧品会社ハウス オブ ローゼで販売員として働く。その後、父親が創業者である会社、ダン(現タビオ)の商品部に入り、各部署で活躍。2005年には、一年間休職して経営者研修に参加する。ドラッカーの経営学や財務会計を学び、2007年から営業本部長に。2008年、代表取締役に就任。
製品の開発には、「作り手が良いと思うものを作る」という考え方である「プロダクトアウト」と、「売れる確率が高いものを作る」と考え消費者のニーズを優先する「マーケットイン」という2つの方法があるのはよく知られた話だ。
タビオ株式会社の場合、“靴下の神様”と呼ばれる創業者、越智直正会長の靴下への熱い想いが会社の土台にあるため基本的は「プロダクトアウト」的な思考をする会社だといえるが、余剰在庫を持たない生産スタイルは「マーケットイン」的な考えから生まれた施策といえよう。
「当社は、昔からプロダクトアウトとマーケットインの間を行ったり来たりしていますが、会長の考え方をベースにしているため、基本的にはプロダクトアウトの会社です。一方で、いい商品を作れば崖の上に店を構えても、お客様は崖を這い上ってでも買いに来てくれるとさえ考えてしまいがち。製品への自信や誇りは失ってはいけませんが、ユーザーを無視して暴走すると会社が傾きます」
プロダクトアウト的な発想をする自社を冷静に分析する越智勝寛社長だが、マーケットインが行き過ぎた場合も会社にとって危機だと続ける。
「若い世代は、先代のころとは違って、クールに働いています。しかし、アパレルメーカーのように商品をアイテムと呼んで、実物の靴下に触れないで品番だけで処理する人も増えています。マーケットを意識して消費者のニーズに合わせて動くには効率的な働き方なのかもしれませんが、作り手の想いがこもった製品を触ったこともなく販売するのは当社らしくない話です。だから、オフィスを改装して、営業部の隣に商品の展示スペースを作りました。元来は営業部と商品展示スペースは違うフロアにあったんですが、営業に商品を身近に感じてもらい、製品へのより深い理解につなげてもらうためです」
プロダクトアウトとマーケットインには、それぞれメリットとデメリットがあるもの。越智勝寛社長は父から受け継いだ会社を発展させるために、プロダクトアウトとマーケットインをバランスよく使い分けていきたいと語った。
2008年に代表取締役社長に就任した越智勝寛社長は、会長の靴下へのこだわりと愛情をDNAとして社内に残しつつも、時代の変化に対応して会社を経営してきた。会社を維持するには、社内に新しい風を起こして、プロダクトアウトがもたらす硬直した考え方を排す必要がある。そのため、事あるごとに会社の問題点を指摘し、改革に挑んできた。
そんな越智勝寛社長は、社外のコンサルティング会社に依頼し、社内改革とブランディングの大改革に乗り出した。
「2017年2月期の決算で純利益が46%減となったのは、コンサルティングの費用を計上したからです。Web時代に対応するため、はじめて社外の手を借りることにしました。社内の人間だけでは靴下屋の発想から抜け出せません。今後はどんなビジネスモデルにシフトしていくべきか、Web時代のブランディングは何をするべきかを提案してもらい、会社の新しい土台を築きたいと考えています」
越智勝寛社長が大改革に着手した理由は、アメリカ視察で目にしたショッピングモールの衰退だった。
「アメリカでは、インターネットで買い物した商品を、自宅まで届けてくれるサービスが根付いた結果、ショッピングモールの営業が立ち行かなくなっています。もちろんショッピングモールに出店している店舗も閉店が相次いでいます。日本でも遅かれ早かれ同様の事態に至ると思い、eコマースに注力する方向に会社の舵を切ろうと考えています。5年後を見据えると、今までのやり方では赤字転落もありうる、それぐらいの危機感で臨んでいます」
品質の高い製品を生み出すだけでは、これからの時代は乗り切れないのかもしれない。ユーザーとコミュニケーションを密にして、品質の高さをユーザーに伝えて支持をえるまでが企業の仕事だといえよう。メイドインジャパンの高い品質を維持しながら、タビオ製品の良さを伝える越智勝寛社長の努力が今後のタビオの発展を支えるのだ。
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