未来を創るニッポンの底力

日本のクラフトビール界を牽引!

「よなよなエール」のヤッホーブルーイングがファンを虜にする3つの“ものづくり発想”

株式会社ヤッホーブルーイング

代表取締役社長

井手直行

写真/海保竜平 文/竹内三保子(カデナクリエイト)  | 2017.06.12

華やかな香りを生む米国産ホップ「カスケード」を使いビールの味は本格的だが、パッケージ、ネーミングなど、和のテイストを入れた個性的な味わいの本格エールビールを醸造している。21世紀型“和魂洋才”ともいえそうな手法で世界を狙う井手直行流“Made in Japan”の発想に学ぶ。

株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手直行(いで なおゆき)

1967年、福岡県久留米市出身。久留米工業高等専門学校を卒業後、大手電器メーカーのエンジニアを経て、長野県・軽井沢の広告代理店の広告営業職に。そして97年、広告代理店を退職の際に、設立間もないヤッホーブルーイングの営業担当としてスカウトされ入社。地ビールブームが終息し業績が低迷する中、2004年楽天市場の通販店舗担当者を志願。ユニークなメルマガ発行などで、業績をV字回復させた。08年より現職。著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)がある。

独自のものづくり発想で急成長

「ビールづくりで私たちが必ず守っているのは、『革新的であること』『スタッフの顔が見えていること』『味が個性的であること』の3つです」

こう語るヤッホーブルーイングの井手直行氏が社長に就任したのは2008年。創業者でもある前社長は、星野リゾートを経営する星野佳路氏だ。長野県の広告代理店の営業マンであった時から井手氏は星野氏と懇意に。その縁で1997年、ヤッホーブルーイングの創業メンバーに誘われた。

創業の目的は、星野氏がアメリカ留学時にエールビールを飲んで感銘を受けたことから「アメリカのような『醸造所同士が個性を刺激し合うクラフトビール文化』を日本に根付かせること」だった。新社長の井手氏には、この目的の具現化が期待された。その第一歩は、お客様から支持されるビールづくり。その神髄が冒頭に述べた3つというわけだ。

創業当時は、1994年にビールの醸造免許取得の基準が2,000キロリットル/年から60キロリットル/年まで規制緩和されたことで、日本全国で空前の「地ビールブーム」の真っただ中であり、同社も滑り出しは上々だった。ちなみに当時、クラフトビールは地ビールと呼ばれていた。

が、2000年頃を境にブームは終焉へ向かうことに。ほとんどの地ビールが町興しや観光客向けを目的に製造されていたため、リピーターの獲得につながらず、一過性のものとなったのだ。

ブームが終わると共に、同社も売上げが激減。2004年まで8期連続で赤字続きの状況に。当時、営業を担当していた井手氏は毎年売上げが減少する状況を打破するため、楽天市場を利用したネット通販に着目。1997年に出店はしていたものの開店休業状態だった中で、大幅な見直しに着手したのだ。

楽天市場の「ショップ・オブ・ザ・イヤー2015」の授賞式で仮装をする井手社長。

楽天市場での成功をきっかけに
12年連続増収増益

「メルマガ」戦略をはじめ、楽天市場ショップのページを徹底的にファンが楽しめる内容にリニューアルしたことをきっかけに、05年の決算は黒字に転換。以後、現在まで12期連続で年率10〜40%というIT企業並みの急カーブを描いて売上・利益とも上昇しはじめた。

需要は数倍に膨れ上がり 、とうとう生産が追い付かない状態に陥った。増産はそう簡単ではない。設備の増設には相応の期間と膨大な額の投資が必要だ。

仮に成長スピードが鈍れば、投下資金も回収できなくなる。リスクを恐れて増産しなければ成長にブレーキがかかる。そこで2014年9月、ヤッホーブルーイングはキリンビールと製造の委託提携を結ぶことを発表した。

「ビールづくりの3つの方針を改めて掲げたのは、キリンビールに製造委託すべきかどうかを検討したことによります」

当然、大手と 提携すれば「クラフトビール」のイメージが崩れると心配する声もあった。そこでまず、同社の製品がなぜ支持されているのか、過去のお客様インタビューや 米国のクラフトビール市場の事例などを洗い出して分析した。

「圧倒的に多かった意見が『革新的であること』 『スタッフの顔が見えていること』『味が個性的であること』の3つ。言い換えれば、この3つを守れば大手と 提携しても、どこの地域でつくっても、お客様は支持してくれると確信を持ち 、キリンビールとの提携を決意したのです」

向かって一番左の「よなよなエール」の缶は花札のカードをモチーフにデザイン。いずれのビールも、デザインやネーミングに和の要素が取り入れられている。

こだわるポイントは「革新性」
「顔が見える関係」「個性的な味」の3つ

ひとつ目のポイントである“革新性”が最もよく表れているのは、ネーミングやパッケージだろう。全国販売製品第一号である「よなよなエール」のパッケージは、「黒ビールと間違えられる」とタブー視されてきた“黒”をふんだんに使ったが、結果は大ヒットに。業界の常識をひっくり返した。

その後、発売された「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「前略 好みなんて聞いてないぜSORRY」をはじめ、いずれのビールもネーミングやデザインの革新性は一向に衰えなかった。

「大手と同じことをすれば、お客様は最終的に大手の商品を選ぶのが常です。だから私たちは、前例がないことに挑戦するのです。それでやっとお客様は手に取ってくださるのです」

ふたつ目のポイント“顔が見える関係”は、かつて同社が運営する楽天市場のショップ店長だった井手氏が、同社製品購入者への「メルマガ」に、スタッフや醸造所の日常の何気ない様子などを書いたことから始まった。

そして定期的にファンイベントを開催するようになり、メルマガにも登場するお馴染みのスタッフたちがイベントに来たファンと交流する。スタッフとファンがお互いの顔が見え、ニックネームで呼び合う関係を築くことで、友人知人に好意的な口コミをしてくれるファンが増えていったのだ。 

「現在でも、『つくっているのはこういう人たち』と知っていただくためにホームページなどで、製造、プロモーション、営業など、それぞれの担当部署のスタッフを積極的に紹介していますね。イベント開催時にはスタッフ総動員で対応します」

3つ目のポイント“個性的な味”とは、苦さ、甘さ、華やかさといった、ホワイトビールや黒ビールなど、それぞれのビールがもつ特性を、ヤッホーブルーイング流に活かすことだ。例えば期間限定発売の「バレルフカミダス」。

こちらは“バレルエイジド”と呼ばれる、ウィスキーやワインの熟成に使った木樽でビールを熟成させる手法を用いた製品。芳醇な香りと濃厚な味わいが魅力のビールだ。製造数量が限られる希少品で、発売するやいなや、1分くらいで売り切れるという。

個性的な味の背景には材料へのこだわりもある。例えば海外輸出用のビール「SORRY UMAMI IPA」にはカツオ節を使っている。カツオ節に含まれる成分が発酵を活性化させ、ビールの香りを華やかにする効果があるからだ。

「バレルフカミダス」はワインやブランデーのように香りを楽しんで飲む、特に個性的なビールだ。

初心者から上級者まで
万人を満足させるラインナップ

新市場の創造は、新規顧客を育てることにつながる。初心者を置き去りにすれば、市場は縮小するもの。そこでヤッホーブルーイングでは、普段ビールに馴染みが薄い女性でも飲みやすいよう、苦みが弱くフルーティーな味わいが特徴のホワイトビール「水曜日のネコ」を、主力製品のひとつとして揃えている。それに慣れたら、次はコクや苦味を楽しんでくださいね、とステップアップを促すわけだ。

2013年には公式ビアバル「YONA YONA BEER WORKS」をオープン。現在は東京都内に5店舗展開しており、いずれも連日満員が続く人気店だ。 

「小売店での売上げはリピーターが中心だが、飲食店はこれからファンになってくれる可能性のある方々と接触する機会が期待できる。しかし、飲食店の多くは個店なので、今の弊社の営業体制では全国の飲食店をフォローするのは難しい。だから自分たちで店をつくっちゃいました」

店舗運営は、レストランのブランドづくりで定評があるワンダーテーブルに委託。料理の充実にポイントを置いたことで女性客からの人気も高く、「『よなよなエール』なんて聞いたこともない」といった来店者も少なくない。狙い通り、ヤッホーブルーイング初体験の場として見事に機能している。

2015年から北軽井沢では1,000人規模の大イベント「よなよなエールの超宴」が開催されている。

2020年までの達成を目指したふたつの目標

様々な試みの根底にあるのは、社長就任後に立てたふたつの目標だ。

ひとつは、“2020年までに日本のビール市場シェア1%を狙う”こと。

シェア1%は、沖縄の「オリオンビール」とほぼ同じ規模。そのくらいのシェアになれば、ビール好きの人なら名前は知っている、という状態になる。まずはそこを目指そうというわけだ。

もうひとつの目標は、“2020年に『全国ドーム縦断ツアー』イベントを開催する”こと。

ドームひとつで1万人~3万人程度の来場者が見込めると共に、対応には高度なノウハウが必要となる。そこで、2020年から逆算して、3,000人、5,000人、8,000人と年々規模を拡大したイベントを開催する予定だ。小規模なものから体験していくことで、大規模イベントにも対応できるノウハウを社内に蓄積しようというわけだ。

「1%のシェアを取るためには年率140%の成長が必要だし、ビールの『全国ドーム縦断ツアー』なんて馬鹿げてみえるかもしれない。でもここで重要なのは、『クレイジー』と言われるようなことに挑戦して、成功することだと思います。ヤッホーブルーイングは、そうやって成長してきましたから!」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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