未来を創るニッポンの底力
株式会社ヤッホーブルーイング
代表取締役社長
井手直行
写真/海保竜平 文/竹内三保子(カデナクリエイト) | 2017.06.12
「製品開発であれこれ試行錯誤できるのは、自社のスタッフを、アメリカの著名な醸造学校に留学させてイチから学ばせてきたからです。海外から一流の醸造責任者を招けば、すぐに一流の味を出せるし、スタッフへの技術指導もしてくれますが、私たちは、遠回りの道をあえて選びました。まずは自前で、一流の醸造師を育てることを優先させたのです。自分たちの手でつくれることこそが、メイドインジャパンの基本だと思います」
この井手社長の言葉通り、同社のビールは実に個性的なラインナップとなっている。例えば30歳前後の男性をターゲットに開発されたローソン限定販売の「僕ビール、君ビール。」は、柑橘やトロピカルな香りと苦みを抑えた味わいで、ビール離れと言われて久しい若い世代に大ヒット。狙った香味を実現できるのも、自社に一流の醸造スタッフを揃えられているからこそだ。
「ビールのパッケージデザインには、必ず“和のテイスト”を入れるようにしています。狙いはパッケージを通じて、日本企業としての私たちのアイデンテイティを世界に発信していくこと。実際、海外からの引き合いも多く、昨年はアメリカ輸出向けのビールを製品化しました」
海外向け製品に着手すれば、問われるのは、日本でつくる意味合いだ。
「海外向けの限定ビールについては、日本特有の素材を使うなど、コンセプトを日本に紐づけるようにしています。アメリカ輸出向けのビール『SORRY UMAMI IPA』にはカツオ節を使いました。カツオ節は、ビールの発酵を活性化させることで香りを華やかに変えることが分かったからです」
カツオ節のおかげでユニークで華やかな香りを出すことに成功すると共に、パッケージには傾奇者を描いた派手なデザインに。個性的なビールの味と相まって、アメリカでも好評を博した。
「私たちは “全国展開”“軽井沢限定”“輸出”という3つのラインで事業を展開しています。クラフトビールの全国展開は、アメリカでは珍しくありませんが、地元密着の地ビールとしてスタートした日本のクラフトビール業界からは、驚きの目で見られました」
「よなよな(夜な夜な)エール」というネーミングが示すように、まず、目指したのは毎日気軽に飲めるエールビール(クラフトビール)に育てること。そのため容器には、ビンではなく運びやすく捨てやすい「缶」を採用。コンビニ、スーパーなどでも積極的に販売している。しかし、大手のような万人受けを狙っているわけではない。
「『よなよなエール』を飲まないと1日が終わらない」「いいことがあったのでリッチな味わいの『インドの青鬼』を!」「がんばったご褒美には『水曜日のネコ』♪」……。一部の強烈なリピーターが積極的にSNSなどで発信し、口コミが広がっているというイメージだ。
「輸出用は日本らしさを出すことをポイントにしています。それに対して、軽井沢エリア限定の『軽井沢高原ビール』は、軽井沢の魅力を高める要素のひとつに育てることが目的です」
軽井沢はヤッホーブルーイング発祥の地。ここでしか飲めない味、地元の方々へ向けたエリア限定発売の『軽井沢高原ビール』は、毎年、シーズナルの限定ビールも発売しており好評だ。
「ある意味、恩返しの意味でこのビールは造り出されました。売上げの一部を、軽井沢の自然保護団体や、文化財保護団体に寄付しているのもそのためです」
2015年からは、毎年5月に北軽井沢で1,000人規模の大イベント「よなよなエールの超宴」を開催するようになった。それは、ヤッホーブルーイングのビールをこよなく愛するファンが全国、遠い人ではオーストラリアから集結し、スタッフと一緒にビールや音楽、キャンプファイアーを楽しむ一泊二日(前夜祭を入れれば二泊三日)のキャンプイベントだ。
「1,000人での乾杯は圧巻ですよ。『超宴』の前身は、都内の公式ビアバルで開催していた100人前後の『宴』というファンイベント。そこから、いきなり1,000人規模、しかも泊りがけの『超宴』への進化を目指した時は、周りからは『クレイジー』と言われました(笑)。しかし結果は大成功。来年はもっと大きなチャンレジをします!」
「スタッフもお客さんも私のことを『てんちょ』と呼びます。それは楽天市場の店長時代、『てんちょ』と名乗っていたからです。社員ともお客さんともざっくばらんな関係を築くことで、売上げは伸び、楽天のショップ・オブ・ザ・イヤーに10年連続で輝くことができました」
表彰式の時、井手社長はいつも仮装で登場。写真は2013年の授賞式で、そのころ井手社長が選ばれた日経ビジネスの「日本のイノベーター30人」にひっかけたインベーダーの仮装だ。
「楽天の三木谷さんには申し訳ありませんが、表彰会場はマスコミが集まるので恰好のPRの場。私たちはまだまだ知名度の低い企業です。そこで少しでも多くの方に印象に残ってくれたら嬉しい、そんな思いから仮装をしています。そこで思いっきり目立とうとしたのです。そんな私の仮装をお客さんは、いつも温かい目で見守り応援してくれました。こうした関係性がヤッホーブルーイングの成長の原動力なのです」
もちろん社内の雰囲気もざっくばらん。言いたいことがあれば誰でも社長に直訴でき、部署ごとの壁を取っ払って自由に議論しながら意思決定をしていく。それはフラットな組織だからこそできることだ。
「正社員の階層でいえば、社長と、チームのリーダーであるディレクターと一般職の三段階しかありません。スタッフ数は現在140人。もう少し人数が増えれば、シニアディレクターができるかもしれませんが、そうなっても、僕に直接提案していいというスタイルは変えませんね」
vol.56
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日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
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