スーパーCEO列伝

バリューはいかにして浸透するか ユーザベース号を動かす「7つのルール」

文/菅原さくら イラスト/野中聡紀 | 2018.10.10

国内外で働くユーザベースの社員が、日々の仕事をする上で前提としている「7つのルール」。共通の価値観として、皆が大切にしているバリューだ。それぞれのメンバーがルールをどのようにとらえ、どのように実践しているのか。失敗例も含めて、多彩なエピソードが集まった。

「7つのルール」誕生秘話

「7つのルール」が生まれたのは、ユーザベースの社員数が約30人に増えた頃のこと。まだミッションやバリューが明文化されていなかったため、それぞれの社員のものの考え方が少しずつぶつかりはじめ、不協和音が生じていた。放っておいたら内部崩壊に陥りかねない……。しかし、多様な考え方は“競争力の源泉”でもある。創業メンバーの稲垣裕介氏、梅田優祐氏、新野良介氏は、それらを一色に染めるのではなく、各自の生き方を尊重しながら力を結集するために、「7つのルール」という共通の価値観を設けた――。

»代表取締役社長(共同経営者)・稲垣裕介氏が語るバリューの重要性 

「7つのルール」が多様なメンバーをひとつにまとめる

「7つのルール」は実際に、組織の中でどのような役割を果たしているのだろうか。質問に答えてくれたシニアアナリストの女性は「ユーザベースのミッション・ビジョンを追求するには、『7つのルール』がいずれも重要だ」と語る。ほかにはこんな意見も。

「社内の様々な場面で、本当に自分が『これがいい!』と思ったことが実践できているのは、『7つのルール』が組織に浸透しているからだと思うんです。以前の会社では、本当は別の案がいいと思っていても『話が進みやすいようにしよう』と、無難な案を選ぶことがありました。今なら、そんな選択はしません」(入社3年目・SPEEDAエンジニア・阿南肇史)

「迷ったら挑戦する」「創造性がなければ意味がない」といったバリューを全員が掲げていれば、意見が食い違ったときも、最終的な判断に困ることはないはずだ。また、企業のカルチャーとひもづいているルールもある。「渦中の友を助ける」は、特に多くの社員に愛されるバリューのひとつだが、このルールが「自由主義」という企業カルチャーを支えているという声も。

「年次やチーム、事業の枠などは一切関係なく、困ったことやわからないことがあれば、誰に聞いても必ず手を止めて相談に乗ってくれる。そうやって、一人ひとりの思考と行動が自己中心的にならず、常に思いやりを持っていることは、ユーザベースの自由でフラットなカルチャーを保つ礎だと感じています」(新卒入社 入社2年目・SPEEDAカスタマーサクセスチーム・松井亮介)

多様性を保つためには、オープンコミュニケーションに基づく相互理解が必要。その相互理解に、共通の価値観であるバリューが大きく貢献しているといえる。

今回、質問に答えていただいたユーザベース社員の方々の一部。

そのとき自分を助けるルールは、変わっていく

働くうちにルールのとらえ方が変わったり、複数のルールを掛け合わせることでさらに理解が深まったりすることも珍しくない。もともと「自由主義でいこう」というルールに感銘を受け、とりわけ大切に考えていたといいう翻訳チームの男性は、こう話す。

「自由主義はもちろん大切ですが、今は『ユーザーの理想から始める』の重要性を再認識しています。現在、アジア地域を中心にサービスを提供している『SPEEDA』英語版を、今後どのように海外顧客へ浸透させていくかが重要なポイント。業界レポートの翻訳方法や英語版の使いやすさをブラッシュアップしていかなければなりません。それには、海外特有のニーズや市場動向を把握し、より現地に適したサービスをつくり上げていくことが何よりも重要です。まさに、“海外ユーザーの理想から始める”というバリューに立ち返っているタイミングです」

そのとき直面している課題や、担当している事業に応じて、必要なバリューがふと思い出される。そして、その価値観をなぞりながら、メンバーはさらなるパワーアップを果たしていく。

とらえ方は人によって様々で、どれも前向きだ。あえて苦手なルールを尋ねてみても、社員は一様に「苦手というほどではないけれど、しいて言うなら……」と前置きをする。そして、それぞれの解釈を添える。

「『自由主義でいこう』の自由には、責任が伴うと思います。だからこそ、しっかりと仕事をこなすことを意識しなければならない」(新卒入社 入社2年目・NewsPicks記者・岡ゆづは)

「人間はそもそも弱い生き物。自分を律して、意志を強く持ち続けるのは想像以上に難しい。当たり前のことこそ、実は継続できる意志の力が必要で、前を見て走っていくなかで自分が疎かにしてしまいがちな部分です」(新卒入社 入社2年目・SPEEDAカスタマーサクセスチーム・松井亮介)

「『スピードで驚かす』というルールは、とらえ方に気をつけなければなりません。なるべく早く仕上げることは大切だけど、リスクもつきもの。正確性をおろそかにしていいわけではないですよね。だから長期的に見ると、スピードより重視しなければいけない要素がある場面も出てきます」(入社2年目・翻訳チーム・Kenneth Bresson)

「『創造性がなければ意味がない』は、まだまだ改善中です。現在の仕事で、このルールを発揮する機会がなかなかないんですよね……」(入社5年目・FORCASエンジニア・Jason Yap)

このルールのここは、今の自分には厳しい。でも、こう考えれば必要になる。来たるべき場面では、きっと自分を支えてくれる。そんなふうに多角的な思考をめぐらせながら、ルールの核の部分をフィットさせていくのも、ユーザベースのカルチャーであるように感じられた。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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