スーパーCEO列伝
株式会社カプコン
代表取締役社長 最高執行責任者
辻本春弘
写真/宮下 潤 文/上阪 徹 マンガ/M41 Co.,Ltd | 2014.10.10
株式会社カプコン 代表取締役社長 最高執行責任者 辻本春弘(つじもと はるひろ)
1964年、大阪府に生まれる。大学在学中よりアルバイト社員としてカプコンで働き始める。1987年、カプコンに入社し、営業経験を積む。その後、アミューズメント施設運営事業の立ち上げに参加し、業界ナンバーワンの高収益ビジネスモデルの確立に貢献。1997年、取締役に就任。家庭用ゲームソフトの開発プロセスの改革、事業強化に注力する。1999年より常務取締役、2001年より専務取締役を歴任。2004年からは全社的構造改革の執行責任者として、コンシューマ用ゲームソフト事業の組織改革、海外事業の拡大などに携わる。2006年に副社長執行役員となり事業全体を統括。2007年7月に父・辻本憲三から社長職を引き継ぎ、代表取締役社長 最高執行責任者に就任。
社員の開発力を引き出し、組織の創造性を高めていくには、どのようなマネジメントが有効なのだろう。辻本社長の経営哲学をご紹介しよう。
経営者の使命は、自社が置かれている事業環境をしっかりと把握したうえで、会社が進むべき方向を指し示すこと。「自分たちは何を目指し、何に注力しなければならないのか」ということを自らの言葉で語り、社員が主体的に働けるようにしなければならない。
例えば、カプコンにとって最も重要なのは、ユーザーの支持を継続・拡大させること。それには、新タイトルを発売してから次作の開発をスタートさせるのではなく、シリーズとしてより長期的、安定的な成長につなげる戦略を立て、 新たな事業を推進していく環境を整える必要がある。
私は常に、そうした方向性を広く発信し、どのような成果を出せば継続的な利益や評価が得られるのかということを具体的に示すことを意識している。
社員が楽しみながら仕事に向かえる環境づくりと、そのために必要なマネジメントに関しては強く意識している。もちろん、ゲームの開発という仕事には、常に“生みの苦しさ”が伴うが、そうした状況下にあっても耐え抜く力を培うには、それを乗り越えた瞬間の達成感や大きな喜びが得られるかどうかだ。
だからカプコンの社員は、開発者でもユーザーイベントに参加する。ユーザーが楽しんでいる様子を実際に見たり、話を聞いたりすることが何よりもうれしいことだし、次の作品を生み出すためのヒントが得られるからだ。
経営者として会社の状況や将来を見据えて下した判断でも、上手くいくこともあれば、いかない時もある。前者の場合は驕ることなく、客観的に上手くいった理由を分析して次に活かす。後者の場合は慌てたり、落ち込んだりせず、それに至った根本的な要因を追究し、必要であればその改善策を考えなくてはならない。
社員にとっても、起きてしまった事象について一喜一憂せず、常に平常心でどっしり構えている経営者のほうが安心して仕事に専念できるし、自由に発言できる。
会社が成長し、社員の数が増えれば、日々一人ひとりの意見に耳を傾けることは困難だ。しかし、自分の目と耳で集めた情報に勝るものはない。いくら忙しい経営者でも年に1日くらいは、社員とコミュニケーションする時間くらいつくれるだろう。
私の場合、大阪の社員食堂などで親睦会を行ったり、東京の神宮外苑でバーベキュー大会を開催したりして社員とざっくばらんに話せる機会をつくっている。ただし、その場に集まった社員一人ひとりと杯を交わすことになるので、それなりの覚悟は必要だ(笑)。
いろいろなところで「成功するにはどうしたらいいか?」と聞かれるが、経営者たるもの「成功するまでやり続ける」ほかないだろう。経営者が諦めてしまったら、おしまいだからだ。
例えば、独創性のあるコンテンツを生み出せる人材を育て、クリエイティブな組織をつくり上げるには、相当な時間がかかるし、想定していた結果が出ないこともある。それでも社員を信じ、ある程度任せて経験を積ませる忍耐力が必要だ。そのためにも絶対に赤字は出してはならない。
成功するまでやり続けるには、経営者自らがキャッシュフローを厳しく管理し、自己資金を確保していく努力も必要だ。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
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