スーパーCEO列伝

【特集】株式会社一家ダイニングプロジェクト Analysis

斜陽の外食・ブライダル業界でなぜ勝てるのか “差別化時代”に成長する方程式

株式会社 船井総合研究所

第四経営支援本部 フード支援部 上席コンサルタント

二杉明宏

文/大正谷 成晴 | 2018.04.10

1997年12月に1号店がオープンして以降、紆余曲折を経て、創立20年目となる2017年12月にIPOを果たした一家ダイニングプロジェクト。成長が頭打ちといわれる外食・居酒屋、ブライダル事業で、なぜ成長を続けられるのか? 飲食業専門コンサルタントの二杉明宏氏に聞いた。

株式会社 船井総合研究所 第四経営支援本部 フード支援部 上席コンサルタント 二杉明宏((にすぎ あきひろ))

2000年 船井総合研究所 入社。以来、フードビジネス業界でコンサルティング活動に従事。成熟業界の中でも成長できるビジネスモデル開発を得意とする。近年は中国のフードビジネス業界でのコンサルティング活動にも従事している。

ライフサイクルのステージによって勝ちパターンのビジネスモデルは異なる

「一家ダイニングは急成長していますが、それを取り巻く環境、外食産業市場はピークをとっくに超え、どちらかといえば縮小に向かっています」と話すのは船井総研の飲食業専門コンサルタント、二杉明宏氏だ。

そうした状況でも勝ちパターンのビジネスモデルはあるという。まずは、外食産業のライフサイクルとステージごとの勝ちパターンについてざっとおさらいする。

外食産業の市場規模とステージの推移

外食産業が「成長期」に突入したのは、大阪万博で日本が沸いた1970年頃から。マクドナルドやすかいらーくをはじめ、巨大チェーンが続々と登場。所得の増加に人口爆発が加わり、外食産業は右肩上がりで伸びていった。

「成長期」は、まったく供給が足りていないので、同じようなサービスを大量に提供できるシステムをつくり上げることが勝ちパターン。だからマニュアル、フランチャイズ(FC)方式、セントラルキッチン方式など、大量出店・大量供給のための様々な仕組みが登場したわけだ。

バブル崩壊を迎えた1991年頃を境に、人々の財布のひもは固くなり、外食産業は供給過剰状態に陥る。この時の勝ちパターンは「ディスカウント」。ガストや100円均一の回転ずしなど、驚くほど低価格のメニューを揃える外食チェーンが登場した。

客単価を下げて客数を増やして売上アップを図るというビジネスモデルだ。外食産業は、価格を引き下げたことで伸びがゆるやかな低成長期に移行していった。

そして1997年。消費税が5%に引き上げられたタイミングで、市場規模は縮小に転じ「斜陽期」に入った。生き残るためには「差別化」が求められる時代に突入

この時の勝ちパターンは「空間演出」。居心地が良い個室、間接照明やジャズが流れる小粋な雰囲気をはじめ、「空間演出で差別化」を図った様々なタイプの飲食店がチェーン展開に成功した。「空間演出」は、ひとつの付加価値ととらえられたわけだ。一家ダイニングプロジェクトの1号店「くいどころバー一家(現こだわりもん一家)本八幡店」が誕生したのは、この頃だ。

ステージ別の勝ちパターン

市場規模の縮小が止まり、低位で市場が安定する「安定期」に入ったが、2008年のリーマンショックと2011年の東日本大震災で外食市場は大きく落ち込んだ。その後は反動でやや回復基調にあるが、日本の人口は緩やかにこれから減少していくので、これからも低位での「安定期」が続くと予想される。

「斜陽期」以降の勝ちパターンは、より一層の差別化とコストパフォーマンス。「この価格で本格的なイタリアンレストラン」「この価格で、この接客」「この価格でこの食材の質」……。安い店でも、高い店でも、コストパフォーマンスが高い店に人が集まるようになる。

「一家ダイニングプロジェクトは、まさに、コストパフォーマンスが高い斜陽期の勝ちパターンのビジネスモデルなのです」(二杉氏)

例えば、主要業態のひとつ「こだわりもん一家」では、オープンキッチンで、「使用する食材」や「調理している姿」を客に見せている。焼く・煮る・炒めるなど調理方法をスタッフと相談しながら決めることも可能だ。

「見て楽しむ」エンターテインメントの要素と、高い接客力に裏打ちされた濃密な顧客との接点が他店との差別化を生んでいる。

「こだわりもん一家 銀座店」のオープンキッチン。

「興味深いのは、同社では、どれだけ店舗数が拡大しても、タッチパネルや呼び鈴など標準化を進めるためのシステム導入の道を選ばなかったこと。今後も選ぶつもりは無いという」(二杉氏)

仮に呼び出しベルを導入すれば、スタッフは客から呼ばれるまで客席に行かなくなるだろう。システムを導入すれば、システムを超えるサービスは生まれづらくなる。

しかし、システムを導入せずにサービスの標準化を図っていくためには高度な運営力やマンパワーが必要だ。言い換えれば、それを実現していることが、同社の最大の強みであり、差別化のポイントでもある。

だから、人材教育が非常に大切。社員だけでなくアルバイトに至るまで、理念の浸透やスキルアップ教育、また、様々な表彰制度やイベントなどによるモチベーションアップに力を入れているのは、そのためだ。

このような運営力やマンパワーなど「人材」に頼ったサービスの展開は大変だが、同時に、システムと違って他店から模倣されにくいというメリットもあるという。

既存のビジネスモデルとは異なる方程式を編み出したブライダル事業

「一家ダイニングのミッションは『おもてなし』。そこに着目すれば、ブライダルとの共通点はたくさんあります」(二杉氏)

ただし、ブライダル事業も外食と同様、決して未来は明るくない。1970年代前半生まれの団塊ジュニアが20代後半~30代を迎えた時代をピークに、挙式数は減少。すでに差別化、コストパフォーマンスが重視される斜陽期のステージに入っている。

「私は、ブライダルの専門家ではありませんが、ブライダル業界では居酒屋業界ほど、その場その場で臨機応変に個々の要望に応じた接客はされてないと思います」(二杉氏)

ブライダル業界では、「今日は何組の挙式があり、参列者は何名、厨房はこのコース料理をつくり、ホール係はこういったタイミングでサーブする」といった具合にあらかじめ決めた通りに縦割で動く。

それに対して、オープンキッチンの居酒屋では、客はカウンターの先にいる調理スタッフに「これ焼いて」などと平気で注文する。調理スタッフは、「注文はホールスタッフにしてください」などとは言わずに、気持ち良く受ける。居酒屋では、このような臨機応変な対応が欠かせない。

また、単価が安い居酒屋では、経営を考える上で回転率の計算は必須だ。しかも客には予約客とフリーの客が混ざっているので、高度な予測が求められる。また、少しでもコストを抑えるためにギリギリの人員で回すので、スタッフ同士の連携や一人が何役もこなすことが求められる。

それに対してブライダル業界は、コストの積み上げ方式。人生で一回限りのイベントである結婚式に、客は基本プランに多様なサービスを追加する。そして、追加されたサービスに対するコストは価格に比例する。

一家ダイニングは、このようなブライダル業界に“異業種発想”で参入した。まず、ライトアップが美しい「東京タワー」のメリットを生かし、1チャペル3バンケットで、回転率を午前・午後・夜の3回、3会場で最大9回転に増やした。また、情報発信の方法を、結婚情報誌などでの宣伝を抑え、口コミサイトやインスタグラムなどのSNSを活用することにした。回転率を上げ、宣伝を抑えることでコスト削減し、パーティー費用を安く抑えられたわけだ。

夕景も美しい東京タワーの魅力を生かしたプランを創出。

もちろん、口コミサイトやSNSで拡散されるためには、シェアしたくなるような披露宴を演出することが必要だが、スタッフたちは、より写真映えの良いサービス、より心に残るサービスを提供するために力を注ぐ。コンテンツはどんどんブラッシュアップされていった。このような異業種発想が奏功して、「The Place of Tokyo」は、大手口コミブライダルサイトでベスト10(2017年9月末)に入るほどの人気を博している。

成長のポイントは“人”に尽きる こだわることで差別化に拍車がかかる

「一家ダイニングプロジェクトがブライダル事業で成功した要因は、同社のビジネスのコアを、『飲食業』ではなく『おもてなし業』と位置づけているからでしょう。実際、同社のが参考にするのは、『ディズニー』や『リッツ・カールトン』。

『おもてなし集団』を核とする限り、ブライダルだけではなく、宿泊業、アミューズメント業、インバウンドサービス、海外展開など、様々なジャンルに進出することも可能でしょう」(二杉氏)

「おもてなし」から派生するビジネスの可能性

ところで、今後、課題になるのは人手不足。同社の最大の強みである“人”が介在する「おもてなし」を続けられるかどうかは、人不足の時代において今後もスタッフを確保し続けられるかどうかに依る部分がある。

「こうした観点から考えても、ブライダル事業に出たことは大正解だと思います」(二杉氏)

ブライダル業は居酒屋業界に比べて人気が高く、良い人材が集まりやすい。また、人口減少の影響が最も少ない東京に売上拠点を持つことも、採用に大きな力を発揮する。

「この他、今後は海外展開も視野に入れています。ここに魅力を感じる若者も大勢いるでしょう。若い人にとって魅力的な企業であり続ける限り、優秀なスタッフを集められるので、人が介在する『おもてなし』の提供は可能です。

一家ダイニングは、このような『おもてなし』の方程式によって、多様なサービス業に進出し、新しいビジネスモデルにも続々と私達に見せてくれることを期待しています」(二杉氏)

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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