ベンチャーをサポートする法知識[10]

【ベンチャー企業法務】「業務委託契約」基本のき~スタートアップのトラブル回避~

GVA法律事務所

弁護士

鈴木 景

編集/武居直人(リブクル) | 2018.08.31

資金的に潤沢ではないスタートアップにとって、業務委託契約はもっとも多く締結する機会のある契約のひとつといえ、まだ人を雇用するだけの体力がない場合、業務委託契約を締結して一定の事業を委託することは、優秀な人に参加してもらうための効果的な手段となります。

一方で、自社のプロダクト開発の費用を賄うために、一定の業務をスタートアップの企業が受託する、ということも多く行われています。今回は、このような業務委託契約についてご紹介していきます。

GVA法律事務所 弁護士 鈴木 景(すずき けい)

2009年弁護士登録。都内法律事務所、企業法務部を経て、17年、GVA法律事務所に参画。ベンチャー企業のビジネス構築や、国外進出、企業間のアライアンス等を法務観点からサポートしている。

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業務委託契約とは

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業務委託契約とは「一定の業務を相手方に依頼し、それに対して一定の費用を支払うこと」を内容とする契約です。

例えば、一般的には、システム開発や、販売促進活動などを委託するケースが多いですが、スタートアップの場合、特定の業務の委託のみならず、創業者とともに一緒に事業をつくっていくことについて、全般的に委託する旨の業務委託契約(要は、事業をつくるためになんでもやりますよ、という契約)を結ぶケースも多いといえます

 

業務委託契約の2つの種類

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業務委託契約には、大きく分けて「請負型」「準委任型」の2つのパターンがあります。両者の大きな違いは、「仕事の完成を目的としているか否か」です。

①「請負型」

システムを制作する、一定の件数以上の導入実績をつくるなど、明確にゴールが定められ、「仕事の完成」を目的としている業務委託契約。

②「準委任型」

仕事の完成を目的としているわけではなく、「一定の目標に向かって全力を尽くすこと」を求められている業務委託契約。

 

業務委託契約を結ぶ場合の注意点

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まずは、委託業務の内容について慎重に確認することが必要です。

委託をする場合には、「相手方にやってもらいたいことがきちんと包含されているかどうか」を、受託する場合には、「やるべきことが明示的に含まれているかどうか」を、それぞれ確認する必要があります。

この点をおろそかにし、曖昧な記載のまま契約を締結してしまうと、やるべきことについて相互の認識がずれたまま委託業務が進行することになってしまい、最終的に下記のようなトラブルに発展しかねません。

①委託者が受託者に対して、認識から離れた成果に対しても委託料を支払わなければならない
②受託者が委託者に対して、認識以上の成果を求められる

 

◆業務委託契約で書面化するべきポイント~請負型のケース~

請負型の契約の場合、「仕事の完成」に対して委託料が支払われることが多いと思いますが、その場合に、委託業務の内容が明らかでないと、受託者としては仕事を完成させたつもりでも、委託者から「仕事が完成していない」と判断され、委託料が支払われないこともありえます。

このように、委託した業務の内容が不十分である場合、委託料の支払いを巡って紛争化してしまうことが多分に予想されますので、委託する業務の内容は明確に記載するとともに、内容を詳細に詰める必要がある場合には、別途個別契約を交わすなどの方法により、きちんと書面化して当事者間で認識を共通にしておくことが必要です。

 

◆業務委託契約で書面化するべきポイント~準委任型のケース~

準委任型の契約は、請負型の契約に比べるとトラブルが生じにくい類型の契約であるといえますが、契約を締結するにあたっては、当該契約が「準委任であること」、すなわち「結果にコミットすることまでは契約の内容に含まれていない」ということを明示しておくことが重要です。

特に、報酬の支払が結果の達成を条件とされていないか、という点が最も重要なポイントになりますので、この点は注意が必要です。

 

◆トラブルを避けるには“業務委託契約の種類”を明確に

特に紛争に発展するケースが多いシステム開発の場面では、請負型なのか、準委任型なのか、どのようにすれば仕事が完成したことになるのかを明確に定めておく必要があります。

システム開発は紛争化すると、たとえ金額が低いシステム開発であったとしても、1年以上、場合によっては2年も3年も、紛争が継続することになってしまうため、紛争に発展させないよう、細心の注意を払う必要があるでしょう。

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◆スタートアップ企業の開発事業では「知的財産権」も要チェック

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スタートアップ企業がソフトウェアなどの開発を第三者に委託する場合に注意すべき点は、知的財産権の帰属についてです。知的財産権の帰属は、大きく分けて次の2パターンが考えられます。

①知的財産権が、委託者(スタートアップ企業)に帰属するパターン
②知的財産権は、受託者(開発を委託された側)に帰属するが、それを委託者の側で、無償で自由に利用できるパターン

 

◆なぜ知的財産権が受託者に帰属するケースがあるのか?

本来、委託者は、知的財産権の自社への帰属も前提として費用を支払い、開発を委託するのですから、上記①があるべき内容ではあります。

一方で受託者側としては、開発したソフトウェアのうち、自社がもともと持っていた汎用性のある技術に関する知的財産権は確保しておきたいというニーズから、上記②のような条項が設けられた契約書が受託者側から出てくることもあります。

ですが、委託者としては、上記①の形で契約をすべきであり、この点は強く交渉するべきでしょう。

また、受託者としては、委託業務であることの本質として、上記①があるべき内容であることを理解したうえで、自社が業務委託以前から保有していた知的財産権等については受託者に帰属させるなどの中間案で妥結することが望ましいでしょう。

 

◆知的財産権が受託者に帰属する際に注意すべき点とは

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成長途中のスタートアップにとっては、プロダクトの価値≒企業価値という側面があります。そのため、そのプロダクトの価値が、投資家による投資判断に大きく影響します。そのプロダクトが他人の権利を前提として作成されているとなれば、権利者からの知的財産権の使用許諾(ライセンス)を失ったらそのプロダクトは存続できない、ということになってしまいます。

これでは、せっかくよいプロダクトであったとしても、その価値が大きく減殺されてしまうことにもなりかねず、結果、「意図した額の資金調達に至らない」「意図した価格でのバイアウトが実現しない」といった不利益が生じることにもつながります。

そのため、スタートアップ企業が委託者として、プロダクト開発を業務委託する場合には、知的財産権を委託者に帰属させるよう、注意して契約書を確認する必要があると考えます。

反対に、スタートアップ企業が、当面のプロダクト開発の資金を得るために、ソフトウェア開発の受託などを行うケースもありえます。

その場合、自社の強みとなるであろう汎用的な技術に関する知的財産権やノウハウなどは、自分たちに帰属させておくことが不可欠といえます。なぜなら、その技術が、自社のプロダクト開発においてもコアとなる可能性が高いためです。

したがって、自社の技術のうちのコアな部分、強みとなりうる部分がどこなのかを意識し、整理しておくことが必要といえるでしょう。

 

【図解】投資家から見た「知的財産権」の帰属先の重要性

※リブクル作成(クリックで拡大)

まとめ

以上が、業務委託契約を締結する場面で留意しておきたい主なポイントです。

業務委託契約は汎用的な契約であり、さまざまな取引で締結することになりますので、特に上記の点に気を配りながら、慎重に進めていただければと思います。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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