スーパーCEO列伝
freee株式会社
文/笠木渉太(ペロンパワークス・プロダクション) 写真/freee株式会社 | 2020.02.13
freee株式会社
最初に、上場の準備を行うにあたって「会計freee」を導入したラクスル株式会社の事例を見ていこう。
BtoB向けの印刷・広告や物流事業を運営するラクスルは2018年に東証マザーズへ上場、そして2019年8月には、東証一部への市場変更を果たした企業だ。上場準備に向けて会計ソフトのアップデートを検討していた同社が重視したのは、会計処理の正確さはもちろん、バックオフィス業務の効率化だった。
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というラクスルのビジョンと照らして考えた際、「会計freee」がマッチしていると判断、導入を決めたそう。
実際の作業面でいうと、他部署にデータを共有するときの時間は、従来30分程度かかっていた処理を数秒にまで縮めることができたり、月次推移(損益計算書・貸借対照表)が見やすくなったことで、正常な数値かどうかの判断も容易になり、会社の守りにもつながっている。
導入当時は、上場に向けて急激な事業拡大を行うなかで、事業に必要な予算の話など、お金に関するトラブルが増えてきた時期でもあった。しかし、会計作業を圧縮できたことで従業員から寄せられる相談やアドバイスに応える時間を割けるようになるなど、自然に“事業とバックオフィスが連携する機会”も増えていったという。
ラクスルが目指すのは、“堅守”のバックオフィス。事業部がいつでも“速攻”できるように万全の体制を整えているが、それを実現するためには「会計freee」のような“活性化の歯車”となりうるツールの導入が必要になるのだろう。
以前、SUPER CEOではfreeeの高村大器さんにインタビューしたが、そこで同氏は次のように語っていた。
「帳簿などは本来、経理部の担当者に“閉じている”ものだが、クラウドサービスならインターネットにつながる環境さえあれば、経営者がいつでもアクセスできます」(freee 髙村さん)
つまり「会計freee」の導入によって端末から解放されることで、経理担当者以外であってもいつでもどこでも見える化されたデータにアクセスできることもメリットとして考えられる。栃木県の梨や野菜を栽培する個人農家「阿部梨園」は、そのメリットを享受している事例の1つといえる。
阿部梨園はもともと、インストール型の会計ソフトを使用していたため、1つのパソコンでしか会計作業をできない状況だった。そこで、どの端末からでもアクセスできる「会計freee」を導入。
これにより、会計に使っていた時間は従来の6分の1にまで削減された。経理業務の負担が減ったことで、現場作業に集中できるようになり、さらに若手農家の育成に回す時間も増えたという。
そんな阿部梨園が効率化以上にメリットを感じたのは、“データの見える化”だった。例えば、畑ごとの光熱費のレポートを作成した場合、特定の畑のみ費用が突出していれば、そこに何かしらのトラブルがあると判断して、事前の対策を取ることができるようになった。さらに、レポートは翌年度の計画を立てる際にも活用し、データと分析結果に基づく意思決定ができるようになったそう。
この例をみると、自然環境に影響を受けやすい農業においても、デジタルツールを導入する恩恵は大きいようだ。
こういった経験から、阿部梨園ではこれまで取り組んできた経営改善や業務改善の方法を他の農園にも知って欲しいと、知見を紹介するウェブサイトもリリースした。
確定申告に向けて税額を求めることだけに利用していた会計データが、業務改善にも生かせる“有益な情報”へと変化した、スモールビジネスだからこそ感じることができる、参考にしたい導入例だ。
飲食店経営においても「会計freee」の貢献度合いは大きい。
群馬県でスペシャルティコーヒーの店を3店舗展開する伊東屋珈琲では、以前まで会計業務を社外の会計士に任せきりで、レジロールと伝票を提出するだけ、さらに社長も口座の残高を見て経営判断するような、アナログな経営方法だったという。
しかし会計士に業務フロー改善を依頼されたことをきっかけに、会計データの見える化を通じて、お金の流れの全体象を把握するためにも「会計freee」を導入した。
以前は、月末や月初に手書きの請求書に記載してある数百件のデータを手作業で入力していたというが、現在は「会計freee」内にある請求書のデータをプリントアウトするだけで完了。
6時間程度かかっていた請求書の集計作業は、3秒にまで短縮されたという。自社で会計データを管理するようになったことで、会計士とのコミュニケーションも円滑になり、結果的に決算時の手間も減ったそうだ。
また伊東屋珈琲では、オンラインショップでコーヒー豆やギフトボックスの販売も行っている。以前は商品の注文を受けた後、店舗ごとに手書きで請求書を作成していたため、請求書を集計する際はわざわざ店舗へ取りに行く必要があった。しかしクラウド上で請求書データを入力、管理するようになってからは、各店舗へ往復する必要はなくなった。
注目したいのは、業務の効率化を図りつつ、客に発送する商品には手書きの手紙を添えるなど、手間をかけたほうが良い部分とそうでない部分の見極めができるようになったこと。
とくに飲食店では、客とのコミュニケーションは「効率化=接客レベルの低下」に直結しがちだが、来店客には対面の接客で最高の一杯を、ネットショップ利用客には、まるで対面で接客しているかのように発送することを意識。スタッフのちょっとした意識の変化が、ファン獲得の理由になる場合もある。
接客業におけるデジタルツールを使った効率化は、コミュニケーションなど、“効率化することが難しい部分に時間を割く、または長所を伸ばすためにある”ともいえるだろう。
最後に、NPO法人で「会計freee」を導入した事例を紹介する。
エイズ孤児の支援を行うNPO法人「PLAS」は、もともと月末にまとめて会計処理を行っていたため、月途中のお金の流れがわからず、銀行の残高通帳を確認しながら手探りの経営が続いていたという。そこでこういった状況を解決するために「会計freee」を導入した。
「現時点でどれくらいの収支か」を把握できるようになったのはもちろん、PLASが最も感動したというのが、“導入時の手厚いサポート”だった。NPOの独特な勘定科目をどう置き換えれば良いのかなど、丁寧にサポートしてもらったそう。会計のプロが常駐できる規模の組織ではないからこそ、こういったサポートの有無が非常に重要だと門田さんは言う。
freeeではこのように導入時のサポートだけでなく、導入後の”能動的”なサポートにも力を入れている。事実、freeeの髙村さんは以前、次のように話していた。
「お客様から問い合わせがあった内容に関してのみ、サービスを提供する側が応えるという方法だと、問題があったとしてもわざわざ問い合わせるのは面倒だと思うお客様もいますし、そもそもお客様が問題を認識してからのサポートでは遅いんです。
そこで継続して使い続けてもらえるかの境目になることが多い導入後の6か月や、決算期や年末調整などのタイミングで、運営側からお客様にアプローチも行います」(freee 髙村さん)
またNPO法人は、所轄庁(NPO法人の監督権限を持つ行政機関)に財務状況を届ける決まりがあり、寄付金がしっかりと公益のために使われているかどうかを見られる。さらに余剰金は、NPO法人で働く人に分配するのではなく必ず事業に使う必要がある。このように寄付金などのお金を事業に回すことが求められるNPO法人にとって、会計などの事務作業に人員や資金を割くのは難しい現状なのだ。
しかし「会計freee」のように安価で、日々の入出金に関するデータを自動で集計してくれるソフトは、業務の負担を軽くしてくれる。経理作業に割く時間が削減された分、PLASでも本来の業務であるエイズ孤児やエイズ孤児を育てるシングルマザーへの援助に集中できるようになった。
「会計freee」は、社会貢献度の高い取り組みを促進させるだけでなく、働く環境によってさまざまなメリットを示してくれる。使用者の意識に変化をもたらし、“パフォーマンスアップ”にもつながるのだろう。
ここまで、「会計freee」を導入したことによる経営の変化を、異なる4つの企業事例を通して見てきた。すでに上場した企業や、個人農家、飲食店やNPO法人をはじめ、幅広い企業が業務の効率化以外のメリットも感じていることがわかる。
freeeが提供するサービスによって、日本企業全体の約99%を占めるといわれる中小企業の生産性向上は、少しずつ進んでいく。会計の効率化を入口として、元気な中小企業がこれからさらに増えていくことを、期待せずにはいられない。
vol.56
DXに本気 カギは共創と人材育成
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
代表取締役社長
井上裕美