スーパーCEO列伝

「ビジネスのほとんどは偶然の出会いから生まれた」コミュニティ形成を支援するPeatixのCEOが語る“リアルな場”の重要性

Peatix inc.

CEO

原田 卓

文/菅原沙妃 写真/藤原 慶 | 2019.08.06

学生時代を共に過ごした友人や、共通の目標を持つ同僚と過ごす時間は居心地が良い。ただ、気づくといつも同じメンバーで仕事をし、アイデアを交換し、飲み会に行っている──。そんなことはないだろうか。

「第一線で活躍するビジネスパーソンこそ、“リアルな場”での新たな出会い、偶然の出会いを大事にしてほしい」

そう語るのは、イベントの管理やチケット販売をセルフで行えるプラットフォームサービス「Peatix(ピーティックス)」ニューヨーク本社CEOの原田卓氏だ。自身もイベントを通じて多くの人との出会い、そこから生まれるものをたくさん見てきたという原田氏に、ネット全盛の今、“リアルな場”をどのようにビジネスに取り入れ、生かすべきかを聞いた。

Peatix inc. CEO 原田 卓(はらだ たく)

1973年生まれ、東京都出身。音楽家の家庭に生まれ、生後まもなく米ニューヨークに移住。イェール大学を卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社し、海外契約業務に携わる。2001年、アマゾンジャパン入社、エンタテインメント部門統括。2005年、アップル入社、iTunes Music Store立ち上げおよびマーケティングに従事。2007年にPeatix Japanの前身となるOrinoco株式会社を設立。2011年より「Peatix」のサービスを開始、同12月に米Peatix Inc.を設立し、現職。

「Peatix」は単なる“チケット屋”ではない

──原田さんはPeatixを立ち上げる以前、音楽×デジタル配信のプラットフォームをつくる最前線にいましたが、そこからなぜチケット販売を始めようと思ったのでしょうか?

アーティストのライブの手伝いをしていたことがあるんですが、そこで運営やチケット販売のやり方を見ていて、まだまだ効率化が進んでいないなと感じたんです。そこに何かビジネスチャンスがあるんじゃないかと思ったのがきっかけですね。

2011年5月に「Peatix」をリリースして、当初の予想では、やはりインディーズバンドが使ってくれるのかなと思っていましたが、当時は東日本大震災の直後。蓋を開けてみると、「Peatix」を利用してくれていたのは震災復興の支援をしているNPO等の団体がとても多かった。

──リリース当初から想定と違ったのですね。

そう。でも想定していなかった方々に使ってもらって、また、世の中の役に立てたことによって「僕らがやろうとしているサービスは単なるチケット屋じゃない」ということに早い段階で気づけたのはよかった。

そこから戦略を立て直し、「Peatix」の根本的な価値は“人が集うコミュニティをつくること”であって、チケット販売はその一手段にすぎないという位置づけにしました。現在、350万人の会員の方々に使っていただいていることを考えると、そのときの経営判断は間違っていなかったんだと思います。

チケットの販売・管理だけが「Peatix」の介在価値ではなく、イベントを通して人を集め、コミュニティをつくっていくことが「Peatix」の存在価値です。だから、単なる“チケット屋”じゃないぞ、というのをもっと伝えていきたいと思っています。

“リアルな場”の価値が高まっている

──改めて「Peatix」のビジネスモデルを教えてください。

収益チャネルは大きく3つあります。1つ目は有料チケットの販売手数料で、2つ目はイベント主催者の「もっと多くの人に来てもらいたい」というニーズに応えること。具体的には、対象のイベントに興味関心が高そうなユーザーへ向けてプロモーションができるオプションメニューを提供しています。

そして3つ目は、自社製品やサービスをもっと広めたい企業と、イベントコミュニティをつなげるマッチング。例えば、ママ向けの商品をつくっている企業のPRであれば、ファミリー系のイベントをやっているいくつかの主催者さんとつなげて、そこで商品を紹介できるようにする、といったようなモデルです。

──現在、「Peatix」を利用して開催されているイベントは、どういうものが多いのでしょうか?

最も多いのは、共通の趣味やアイデア、悩みなどを持った人が集まるコミュニティ型のイベントですね。規模でいうと、30~40人で集まるものが多いです。
イベント件数は創業以来ずっと右肩上がりで、常時7000~8000件ほどの情報が上がっています。最近はフジロックや瀬戸内国際芸術祭など、知名度の高い大規模なイベントも取り扱っていますが、「Peatix」の主軸は初期から変わらず、比較的小規模なイベントです。

──イベント掲載数が上がり続けている要因は何だと考えていますか?

大きな要因は“リアルな場”の価値が上がっていることでしょうか。特に若い世代で顕著ですが、ここ10年で「モノを買うよりも、人とつながることを大切にしたい」という価値観へ大きくシフトしていると感じます。その影響で“場”が増えている。

──コミュニケーション自体はネットでもできると思いますが、イベント参加者は、そういう“リアルな場”に何を求めているのでしょう?

人それぞれかもしれませんが、僕らが見ている限りではシンプルに人との“出会い”そのものですね。イベントでの誰かとの出会いがきっかけで転職したとか、中には恋人ができて結婚したという人もいます。

というのも、「Peatix」のイベントには継続して行われているものが多く、同じ人が続けて参加していることも多い。そうすると、顔見知りの人ができますよね。友達というほどでもないけど、どんな人なのかは知っている、というような関係ができていきます。そんな“ゆるいつながり”の中から生まれるものって多いんですよ。

ビジネスは偶然の出会いから生まれる

──イベントが継続して行われるからこそ、そこにコミュニティが生まれるのですね。ビジネスの場においても、そうした継続性は重視されているのでしょうか?

そうですね。企業が行うイベントとして、カンファレンスと呼ばれる何百人、何千人を集めるものがありますが、昔はそういう大規模なイベントを年に1回やるというのが主流でした。

今はそういう企業でも、月に1回、50~100人規模のイベントをやるようなところが増えていますね。短い期間に継続して行うほうが参加者に熱量が伝わるし、コミュニティも形成しやすいですから。

──一般の方が共通の趣味等を持つ人たちで集まってコミュニティをつくるのはわかりますが、企業としてコミュニティを持つ意味は、どのような点にあるのでしょうか?

一つは“偶然の出会い”に期待したマーケティングというのがあると思います。

「Peatix」での一例をご紹介すると、旅行会社のエイチ・アイ・エスさんが、ヨガやハワイアンビール、本、コーヒーなどと旅をつなげたイベントを開催しています。一見、旅と関係のない要素があることで、普段接する機会のない、中にはエイチ・アイ・エスさんのサービスを使ったことのない人たちと出会えることがあります。

イベントで仲良くなった方に「(エイチ・アイ・エスの方が)うちのサービスを使ったことはありますか?」と聞くと「まだ使ったことがない」と返ってくることがあります。じゃあなぜ……って聞くことで、すごくリアルな声が聞ける。これはとても価値が高いことだとエイチ・アイ・エスさんからお声をいただきました。

──個人としてイベントに参加することも、ビジネスにつながることはあるでしょうか?

大いにあると思います。僕の実体験としても、イベントで出会った人に入社していただいた例が数えきれないほどありますよ。採用だけでなく、ベンチャーキャピタルの方と出会って資金調達につながったこともありますし、そういうチャンスは“偶然の出会い”の中で生まれていることがほとんどじゃないかな。

──すごい! では自分の興味のあるイベントに積極的に参加していたら良い出会いがあるかもしれませんね。

うーん……どうかな、むしろ逆かもしれません。「こういう人を探しにこういうイベントに行こう」と思っていくと、不思議なものであまりうまくいかない(笑)。「今日行くの面倒くさいな」ってときの方が、勝率は高いんですよ。

──それは興味深いですね……。なぜでしょう?

「面倒くさいな」と感じるイベントって、要は“アウェイ”なんですよ。例えば知り合いがいない場所とか、ビジネスと全然関係のない地域コミュニティのイベントとか、食のイベントとか。

そういう、少し居心地の悪い場に行くっていうのが大事なんだと思います。もちろん、見知った人がいるイベントに参加するのも楽しいですけれど、そればかりだとなかなか新たなきっかけは生まれないですから。エイチ・アイ・エスさんの例もそうですよね。普段会えないような人と会えるから、チャンスが広がっていく。

Peatixはグローバル展開にも力を入れていまして、2020年までに日本と国外の利益率を「50:50」にしたいという目標がありましたが、日本での伸び率が予想以上に高く、まだ目標に至っていません。これまで比較的内向きだった日本人が、どんどんオープンな場に出ていこうとしているのを感じています。

これからも“コミュニティをつくる”という軸は変えず、より多くの人にサービスを使ってもらい、人と人をつなげていきたい。そのためにイベント運営・チケット管理のサービスとしてだけでなく、そのイベントを介して企業と人が出会える場も増やしていきたいと考えています。

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vol.39

壁のあるところにチャンスあり

旭酒造株式会社

会長

桜井博志

日本酒「獺祭」を造る旭酒造は、2021年の稼働に向けて米ニューヨークに純米大吟醸専門の醸造所を建設中。「獺祭」の生みの親、桜井博志会長は「単なる市場拡大が狙いではない」という。その真意は? 挑戦をし続ける日本屈指の酒蔵が掲げる酒造りの意義に迫る。
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