スーパーCEO列伝

米Quartz買収でさらに加速 UB流 世界の“とり方”

“アジアの情報なら「SPEEDA」”という地位をグローバルで実現する

株式会社ユーザベース

SPEEDAアジア事業 Chief Executive Officer

内藤 靖統

文/竹内 三保子 写真/高橋郁子(モニター) | 2018.10.10

「SPEEDA」の海外展開は、上海、香港、シンガポールの3都市への拠点、そしてスリランカへのリサーチ拠点の開設からスタート。まずは、アジアに進出している日系企業への販売を中心に成長。現在は、非日系企業への販売を強化中。どのように非日系企業でのシェアを高めていくのか。「SPEEDA」アジア事業CEOの内藤靖統氏に伺った。

株式会社ユーザベース SPEEDAアジア事業 Chief Executive Officer 内藤 靖統(ないとう やすのり)

1980年生まれ。2016年にユーザベースのSPEEDAアジア事業に参画。コンサルティングチーム統括、マーケティング統括等を経て、現在SPEEDAアジア事業CEO。営業・マーケティング部門の責任者を兼務。ユーザベース参画前は、コンサルティング会社のアクセンチュアにて製造業および小売業の組織戦略、業務改善、物流改革プロジェクト等に従事。その後、香港拠点の事業会社に転じて、大中華圏でのM&A後の組織改編にともなう戦略立案、組織設計および各種事業統合を推進。一貫して、事業戦略上の意思決定を支援するサービスに従事。

»2つのアプローチで世界進出の最短ルートを開拓するユーザベースの海外戦略

アジアの金融機関の集積地に進出

「SPEEDA」が提供しているのは、金融機関やコンサルティングファーム、事業会社などを対象にした企業・業界に関する経済情報だ。

「世界各国の企業情報を収録、カバーしている業界数は560業種以上。直近ではダウ・ジョーンズ社と提携して経済ニュースを拡充。『SPEEDA』は戦略立案、投資判断や営業・マーケティング強化など、事業上の意思決定のツールとして欠かせないツールになりつつあります」

そう話すのは「SPEEDA」アジア事業 CEOの内藤靖統氏。シンガポールを拠点に、アジア全土のスタッフを統括している。

内藤氏がいるシンガポールと日本でリモートインタビュー。

「SPEEDA」の海外展開は2013年から。上海、香港、シンガポールの3拠点でスタートした。最初の進出先として、この3都市を選んだ理由は、日系企業が数多く進出している上に、投資情報を必要とする金融機関やコンサルティングファームが集まっていたからだ。

アジアに進出している日系企業のうち、日本本社ですでに「SPEEDA」を使っている企業は、「SPEEDA」の名はもちろん、その便利さも知っているので成約率が高い。

しかし、日系企業だけを対象にしていてはパイが限られてしまう。非日系企業の契約は徐々に増えてきているが、今後、成長し続けていくためには非日系企業との契約をさらに増やしていく必要がある。そのために、プロダクトの利便性と認知度を向上すべく、営業・マーケティング・プロダクト開発の各チームが一丸となって取り組んでいる。

最大の強みは「業界」「企業」「ニュース」「M&A」を横断できるユーザー体験

「アジアに進出したもうひとつの理由は、世界ではアジアの情報に対する需要がありながら、情報自体が圧倒的に不足していたことです。グローバルに展開している競合他社もアジアの情報をフォローしきれていない。つまり、『SPEEDA』にアジアの情報を充実させれば、競合他社の情報プラットフォームを利用している企業にも『SPEEDA』を利用してもらえる可能性があることを意味していました」(内藤氏)

アジアには、途上国から先進国まで、様々な発展段階の国が含まれている。国によっては、きちんとした統計もない。だから分析することが非常に難しく、常に情報不足の状態にあるわけだ。こうした背景があったために、アジアの情報は「SPEEDA」の大きなセールスポイントになった。

現在、「SPEEDA」が提供している情報は、大きく分けて「業界」「企業」「ニュース」「M&A」の4つ。ユーザーは、業界分析レポートで特定の国の業界構造・トレンド・競争環境を把握した後、企業モジュールで該当プレーヤーの財務情報を調べたり、ニュースモジュールで直近の大きな投資や不正などの情報を横断的に把握することができる。目まぐるしく状況が変わるアジア市場において、「業界」「企業」「ニュース」「M&A」をまとめて把握できることが「SPEEDA」の強みだ。

オリジナルの業界分析レポートでさらなる差別化

データに関しては、個別の企業情報やM&A情報は、政府系や民間のサプライヤーから提供されるため、他の情報プラットフォームでも手に入る。一方で、業界分析レポートは「SPEEDA」のオリジナルコンテンツだ。

「SPEEDA」は「業界分析」に力を割いており、業界分析レポート作成のため2016年からスリランカにリサーチ拠点を開設。在スリランカのリサーチ統括責任者の下、スリランカ、上海、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナムに配している一流のアナリストが、各国・各業界についてのレベルの高い分析レポートを執筆している。

リサーチ拠点をスリランカに設けたのは、もともとスリランカには欧米金融機関のリサーチアウトソーシング先としての地盤があり、リサーチに長けた優秀な人材を採用しやすかったからだという。また、当地では癖のない英語を話す人が多く、慎重で控え目な性格の方が多いという国民性も、拠点進出先として魅力だった。

開発から販売戦略までアジアで完結

ユーザベースには、「SPEEDA」での海外進出初期、日本からリモートでアジア企業にヒヤリングをしてプロダクトをつくった結果、現地の肌感覚とかけ離れたものができてしまったという苦い経験がある。アジア市場を攻めていくためには、感覚が分かっているアジア事業メンバーがすべての工程を手掛けることが重要だと痛感した。

アジア市場に適したプロダクトをつくるためには、日本のエンジニアチームに任せきりにせず、アジアのスタッフが顧客の声を拾い上げ、アジアのプロダクトチームが開発を進める必要がある。クイックに対応することと一気通貫のPDCAを回していくことが不可欠だ。

そのためには、まず、アジアのスタッフ全員がユーザベースないし「SPEEDA」の事業ミッションを理解し、同時にユーザベースのバリュー(行動指針)である「7つのルール」を共有している必要がある。この点は、採用時のスクリーニングから意識されている。過去の苦い経験として、海外拠点を立ち上げた当初、バリューの共有を確認せずに経歴を優先して採用した即戦力候補が、結果も出せず辞めていったケースが続いたためだ。

「その人とカルチャーが共有できるかを見極めるためには、何度も会うしかありません。メンバーたちには、『ある程度時間がかかることだから、候補者の人たちには申し訳ないけど、あとあと互いにHappyになるために互いのことをもっとよく知りましょう、ということを伝えて、何度か会うのは悪くないよ』と言っています。

今では、必要に応じて互いに納得いくまで面接をすることが当たり前になりました。また『迷ったら採らない』も浸透してきたように思います。結果、カルチャーの共有もスムーズになったし、入社から活躍までに要する期間も短くなっています」(内藤氏)

すべてのアジア拠点からメンバーを集めたオフサイト合宿の様子。「バリューセッション」として「7つのルール」について話し合った。

課題は非日系チームの強化

非日系マーケットをさらに深耕するためには強いリーダーの育成が必要だ。現在は、20代後半~30代前半の若手マネージャー層が育ってきたので、彼らがリーダーとしてさらに成長できるように様々な機会を用意している。

例えば月に1回、各拠点のマネージャーを集めた経営会議をシンガポールで開催。そこで内藤氏と経営について話し合ったり、異なるファンクションのマネージャー同士での意見交換を通じ、様々な角度から経営を考えるきっかけを与えるわけだ。

マネージャーはそれぞれ数値目標を抱えているので、ともすれば自分の国、自分のチームという狭い視野で考えになりがちだ。しかし、こうした会議などによって様々な地域の様々な考えに触れることで、“アジア全体”という広い視野を養うことになる。

一般社員については、今年初めてオフサイト(社外)合宿を開催。アジアの各拠点から全員がスリランカに集まり、バリューセッションを行った。コンサルティングサービスチーム、営業、アナリストチームなど、様々なファンクションの社員が、それぞれの立場から、自分はどのように「7つのルール」を達成しているのか発表したり、どう実践すべきか話し合った。身近なロールモデルを触媒にして、本音で話し合うことで、自身の日々の行動を変えるきっかけをつくったのだという。

「ユーザーの理想をプロダクトに反映させて、それを売る。小さな会社だから、もっと早いスピードでサイクルを回さなければなりません。その主役となる人を育てることが急務です」(内藤氏)

SUPER CEO Back Number img/backnumber/Vol_56_1649338847.jpg

vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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