スーパーCEO列伝

“コミュニケーション”が時代を動かす

ミクシィを復活させた「モンスターストライク」の戦略

株式会社ミクシィ

代表取締役社長

森田仁基

写真/宮下 潤 文/髙橋光二 マンガ/株式会社M41  | 2017.08.10

日本のSNSの先駆けとして、まさに一世を風靡した「mixi」。ところが、スマートフォンへの対応の遅れや、Facebook、Twitter、さらにLINEの台頭でユーザーが離れジリ貧の状態に。業績も落ち込み、社内は荒んでいった。

そんな状態を一気に覆し、“起死回生”をもたらした「モンスターストライク」。新たな価値をつくろうという信念を貫き通した結果のメガヒットで、業績はV字回復を遂げる。その立役者として、2014年6月に社長に就任した森田仁基氏。

以来、「モンスト」を単なるゲームだけではなく、リアルイベント「XFLAG PARK」や映画作品への展開など、IPビジネスを通じて“文化”としての定着を目指すステージに
押し上げている。また、買収したフンザの「チケットキャンプ」や、創業者の笠原健治会長が手がける写真・動画共有アプリの「家族アルバム みてね」も好調だ。

まさに“新しい文化を創る”というミッションを追求する企業として、同社は完全復活した。その推進力となっている「新しい価値を生み出し続ける」「社員が誇れる会社にする」という森田氏の経営方針を因数分解する。

株式会社ミクシィ 代表取締役社長 森田仁基(もりた ひろき)

2000年、ネットビレッジ株式会社(現 株式会社fonfun)に入社し、モバイルコンテンツ(公式サイト)の企画・運営、コンシューマー向けゲームのプロデュースに従事。2008年11月、株式会社ミクシィに入社し、「mixiアプリ」の立ち上げを担当。2011年2月、サイバーエージェントとミクシィの合弁会社である株式会社グレンジの取締役副社長に就任し経営を担い、「mixiゲーム」を推進。2013年1月、株式会社ミクシィ執行役員に就任。2013年11月より、mixi事業本部長としてSNS「mixi」の事業責任者を務めると共に、モンストスタジオエグゼクティブプロデューサーとして「モンスターストライク」の創出と事業拡大を統括し、大ヒットサービスに育てる。2014年6月、代表取締役社長に就任。

森田仁基が考える 逆境を乗り越える強い組織の作り方

「実は、人と人が実際に会って何かをすることが好きなアナログ人間」と話す森田氏。社長と同時に人事部長も兼任し、社内を活性化させる制度づくりを手がけた。その根底にあるマネジメント・ポリシーを伺った。

01好きこそものの上手なれ

一般的に、うまくできる仕事というのは、本人が好きなことの場合が多いですね。ですから当社でも、できるだけみんなが好きなことがやれている状態にすることを意識しています。

ビジネス環境は常に激しく変化していますし、仕事もやっていくうちにどんどん変化していくもの。ですから私は、「ミクシィ・キャリア・チャレンジ(mcc)」という社内転職制度を設けました。社員が自らのエネルギーを集中して臨みたいと考える仕事に常にチャレンジできるようにして、適材適所を推進させるためです。

この制度では、職場の上司は希望する社員を止めることはできないというルールにしています。出ていかれる立場としてはたまったものではないでしょうが、職場の責任者には部下の流出を防ぐために職場を常に魅力的なものにしなければならないというプレッシャーも感じてほしいという思いや、上司たる者、部下の成長のために笑って送り出せる大きな器をもってほしい、という思いもあります。

02正直者がバカを見ない仕組みづくり

自己アピールが上手な人もいれば苦手な人もいます。前者だけがいい評価を得るのではなく、後者の、黙々と努力を続けている人にもきちんと光を当て、評価するように心がけています。

私にも実体験があります。不眠不休でやり続けた仕事で思うようにアウトプットを出すことができず、人事考課の時期にその期間は低く自己評価して会社に提出しました。その自己評価はそのまま採択されたわけですが、一方で満足な仕事をしていなかった人が結構高い評価をされたことを知ったのです。確かに結果を出せなかった自分に責任があるものの、不公平な評価にやる気を失くしたことも正直なところ。評価ひとつで、社員の生産性を著しく阻害すると身をもって知ったのです。

ですから、結果だけでなく前向きにチャレンジしたプロセスも同様に評価しますし、年俸を最大2倍まで増やせるようにしたり、状況によっては決算賞与も支給したりと、がんばった社員には思い切り報いるようにしています。

03脱・セクショナリズム

社内転職制度のミクシィ・キャリア・チャレンジ(mcc)を導入したのは、流動性のある組織が健康的と考えるからでもあります。

業績が悪化していたころの当社内は、派閥のようなものができ、社内対立が起きて内向きとなっていました。自分のことしか考えないような組織が、ユーザーに受け入れられるサービスを気持ちよくつくることなどできません。ですから私は、セクショナリズムを一切認めませんし、もしそんな動きを知ったら全力で壊しにかかります。

自分のチームから社員が出ていくのは面白くないという気持ちも理解できますが、会社だって一つのチームです。セクションが変わることは、会社というチーム全体が、成長するために必要な循環だと思って、あたたかく送り出してほしいですね。

04謙虚にして奢らず

学生時代にガソリンスタンドのアルバイトをしました。そこで、給油に入るお客に軒並み“上から目線”で横柄に応対される経験をしたのです。その時は、丁寧なサービスなどする気になれないと感じたものです。

だからというわけではありませんが、人と接する時は社内外問わず、偉ぶったりせずになるべく低姿勢でいるようにしています。特に新規事業は経験していないことばかりですから、こちらが謙虚に「教えてください」という姿勢を示すことが不可欠。相手に話してもらいやすくなりますし、結果的にプラスになることが多いからです。

05流行に乗らず、絶対的な価値にこだわる

スマホゲームの「パズル&ドラゴン」が流行った時、ゴールドラッシュのように亜流ゲームが続々とリリースされました。そんな時、我々はあえて難易度が高い、フィジカルに仲間と遊べることへの価値を打ち出した「モンスターストライク」をつくったわけです。一部社内では、「あいつら何をつくっているのか」といった冷ややかな目線もありましたが、貫き通しました。

我々には、相対的なものではなく、仲間とリアルにゲームを楽しむ文化という絶対的な価値をつくり出したいとの思いがあったからです。また、「家族アルバム みてね」は、他社ならば「それでいくら稼げるの?」との一言で流されてしまったものかもしれません。しかし、当社はそこに家族の絆を深めることの本質的な価値を見出しているのです。

流行に飛びついて稼ぐことに精力を注ぐのではなく、流行を自らつくり出し、いかに文化として定着させるかに取り組む。我々はそこにこだわりたいと思っています。

06まずやってみる

社長に就任した際に、全社員に「“新しい価値を生み出し続ける”“社員が誇れる会社にする”という2つの方針で臨む」とメールしました。

新しいことは、やってみると案外簡単だったということも少なくありません。むしろ、知り過ぎている玄人は型にはまってしまい、その点素人は型にとらわれないから新しいことができるということもあると思います。“YouTuber”がまさにそうで、素人が制約のない世界で思い思いに表現できるからこそ新鮮な面白さがあるのです。あれがテレビに出た瞬間、面白さは半減するのではないでしょうか。

失敗してもいい。まずはやってみることです。どれだけ失敗しても、1つ成功すればそれまでの失敗は人々の記憶には残りません。私も、一緒に「モンスト」をつくった取締役の木村も、数多くの失敗をしています。けれども、「モンスト」ですっかり“ヒットメーカー”としか見られないようになりました(笑)。失敗しても引きずらず、切り替え早く次のチャレンジができる。そんな企業風土をつくっていきたいと思っています。

プレイできる新感覚ストア
XFLAG STORE SHIBUYAとは?

2017年5月26日にオープンした初のリアル店舗「XFLAG STORE SHIBUYA」。2階層のフロアで構成され、1階はモンストの店舗限定アイテムをはじめとしたグッズを販売。大型タッチディスプレイを配した近未来的な売場で、「プレイする」感覚で商品を購入することができる。

さらに、地下1階には、カフェスペースとイベントステージを設置。カフェスペースでは、キャラクターをモチーフにしたオリジナルメニューを用意。遊べてくつろげる不思議な空間にぜひ足を運んでみよう。

XFLAG STORE SHIBUYA
住所/東京都渋谷区神南1-16-7 パークウェースクエア'1
営業時間/11時~21時
※120分完全入れ替え予約制

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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