ベンチャーをサポートする法知識[2]

【ベンチャー企業法務】「資金調達」の基礎知識~純資産、負債計上のメリット・デメリット~

GVA法律事務所

弁護士

鈴木 景

編集/武居直人(リブクル) | 2018.06.28

これから起業しようという方々はもちろん、ベンチャー企業経営者にとって、もっとも大きな問題のひとつとして、資金をどのように調達するか、があります。今回は、ベンチャー企業の資金調達の手法について、それぞれのメリット・デメリットを含めて概要をご案内します。

GVA法律事務所 弁護士 鈴木 景(すずき けい)

2009年弁護士登録。都内法律事務所、企業法務部を経て、17年、GVA法律事務所に参画。ベンチャー企業のビジネス構築や、国外進出、企業間のアライアンス等を法務観点からサポートしている。

©Frank11/Shutterstock

 

■資金調達の種類

資金調達の種類は、大きく分けて2つです。ひとつは、「負債」による資金調達、もうひとつは「純資産」による資金調達です。

以下、この2つについて、具体的な手法を紹介します。

 

1.「負債」による2つの資金調達手法

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(1)「貸付」による資金調達

資金調達の代表的な手法のひとつとして「貸付」による資金調達があります。

これは、企業側が一定の時期に返済することを約束して、資金を貸し付けるという調達手法です。資金の拠出者は、主に個人または銀行等の金融機関となります。

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貸付による資金調達の特徴として、「一定の時期に返済すること」が約束されるため、資金の拠出者側で、返済能力があることを確認することが多いということが上げられます。返済能力が乏しいと判断された場合には、担保や保証人が取られることが多いことでしょう。

契約書上も、返済に関する条件や、返済条件を怠った場合のサンクション(制裁)などが定められることが多くあります。

これから起業しようとする場合、まだ何ら収益を生み出していませんから、その時点では返済能力は皆無といえ、貸付による資金調達は本来的には受けにくいフェーズにあるといえます。しかし一方で、当面の活動資金がなければ事業の収益化はできないわけですから、ベンチャー企業に対して資金を投下すべきニーズも強くあります。

そこで、このような、できたてほやほやの会社に対しても事業資金の貸し付けを可能とするため、色々な制度が生まれています。

例えば、日本政策金融公庫では、ベンチャー企業を資金面から応援するため、高い成長が期待できる事業に対して特別に低金利で長期貸付を行う「新事業育成資金」や、負債が増えることにより財務体質が脆弱と評価されることを避ける「資本性ローン」、融資を受ける会社の新株予約権を公庫に提供することを条件に貸付を行う「新株予約権付融資」といった貸付手法が取られています。

これによって、起業したてでも、貸付による事業資金の調達ができるような仕組みが整ってきています。

(2)「社債」による資金調達

企業が市場から直接、負債性の資金を集める手法として、「社債の発行」という手法があります。

スタートアップの場合、創業時から社債を単独で発行するケースは多くなく、むしろ、「転換社債(コンバーチブル・ボンド)」という形での資金調達がポピュラーといえます。コンバーチブル・ボンドの性質は、株式による資金調達との関連で考えた方がわかりやすいので、後ほどご案内しましょう。

 

2.「純資産」による3つの資金調達の手法

(1)「株式」による資金調達

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ベンチャー企業の資金調達の手法として最もよく利用されるのが、株式による資金調達でしょう。これは、ベンチャー企業側で新たに株式を発行し、投資家は、企業に対する財産の交付と引き換えにその株式を取得する、という形で行われる資金調達です。

創業初期のベンチャー企業にとっては、支払能力があることが前提とされている貸付よりも大きな金額の投資を受けられる可能性がある調達手法になります。なによりも、「返済しなくていい」という点が、株式による資金調達の最大のメリットといえるでしょう。

一方で、投資家はベンチャー企業の株式を取得することになりますから、その会社の株主として、株主総会で発言したり、決議に参加することもできます。また、株主総会決議により、自身が取締役などの役員に入ることもありうるでしょう。

このように、株式による資金調達の場合、投資家は「株主」という立場で経営に介入することができてしまいます。そして、投資家の保有割合が高ければ高いほど、企業に対して強く介入する権利を持つことになり、その割合によっては、「ほぼ会社を乗っ取られているのと同義」という状態にもなりかねません。

そのため、株式で資金調達を受ける場合には、具体的にどのくらいの割合を渡すのか、企業側は慎重に考えなければなりません(これを、「資本政策」といいます)。

詳しくはこちらの記事で解説

また、会社法上、会社は、内容の異なる株式を発行することができる(これを「種類株」といいます)とされているのですが、ベンチャー企業への投資の場合、会社のステージが上がるにつれ、配当や残余財産分配権について他の株式よりも優先する、いわゆる「優先株」によって資金を調達することが多くあります。

(2)「コンバーチブル・ボンド」による資金調達

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株式で資金調達を受ける場合、企業側と投資家との間で、投資家が提供する資金に対して、「具体的にどのくらいの数の株式を交付するのか」を決めなければなりません。これは、投資家側から見ると、「1株の金額をどのように決定するか」という問題に帰着します。

しかし、シード期で、未だサービスや製品のプロトタイプもない状態では、その会社の株式の価値などわかりようがなく、金額を固めるまでに多大な時間のロスが発生してしまいます。

そこで、資金の拠出段階では株式の値段を設定せず、社債、すなわち借り入れの形で資金を拠出しておき、以後優先株式などによる資金調達が行われた際に、その社債を、その資金調達で発行する株式に転換できる「転換社債=コンバーチブル・ボンド」による資金調達も増えてきています。

スピーディな資金調達が可能ということで、シード期では多く用いられている手法のひとつです。

(3)「コンバーチブル・エクイティ(J-KISS)」による資金調達

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上記のコンバーチブル・ボンドですが、スピーディな資金調達が可能な一方で、「負債性の資金調達であること」による欠点があります。具体的には、あくまで「社債」であるため、投資家から返済を迫られれば、返済しなければならないですし、また、貸借対照表上は負債であるため、早々に債務超過に陥ってしまうリスクもあります。

このようなコンバーチブル・ボンドの欠点を払拭しつつ、かつ、コンバーチブル・ボンドのメリットである「シード期に株価の算定をしないことによるスピーディな資金調達」を実現するために作られたのが、コンバーチブル・エクイティ(J-KISS)と呼ばれる資金調達手法です。

これは、当初、資金の拠出と引き換えに新株予約権を交付しておき、一定の資金調達がされた段階で、その資金調達の際の株式に転換することができる、という手法です。

J-KISSを使うことの最大のメリットは、契約交渉コストが圧倒的に低いというところでしょう。J-KISSについてはすでに契約書の内容が固まっており、交渉ポイントは極限まで絞り込まれています。そのため、一定のポイントについてのみ交渉をすればよく、資金調達までのリードタイムを短縮することができる点が、企業側にとって極めて大きいメリットといえるでしょう。

なお、J-KISSの契約書フォーマット等は、以下のホームページで公開されており、誰でも自由にダウンロードすることができます。

<参考:2015 500 Startups/J-KISS: 誰もが自由に使える、シード資金調達のための投資契約書>

 

■投資家の属性

ここで、ベンチャー企業に投資する投資家の方の属性について少し触れておきましょう(金融機関はご想像どおりですので、省略しています)。

 

1.エンジェル投資家

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個人でスタートアップに投資してくれる投資家を、「エンジェル投資家」と呼ぶことがあります。

昨今では、ご自身でベンチャー企業を起こし、IPOやバイアウトによってイグジットされた方々が、今度はベンチャーを支援する立場に回ろうということで、イグジットで得た資金を元手に投資するというケースが増えているようです。

エンジェル投資家に投資をしてもらうことにより、資金面でのサポートだけでなく、事業に関するサポートを受けられるといったことも考えられます。

また、ベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して、税制上の優遇措置を行う「エンジェル税制」という制度がありますので、企業側もこの知識を持ち、活用するといいでしょう。

 

2.ベンチャーキャピタル

投資家から資金を集め、その資金をベンチャー企業に投資することで運用している投資ファンドです。

一定の時点で運用していた財産を投資家に還元しなければならない(この時点を「償還期限」といいます)ため、ベンチャーキャピタルから投資を受ける企業には、短期間で企業価値を急速に向上させ、IPOやバイアウトすることが求められます。その分、(ベンチャーキャピタルの方針にもよりますが)企業価値向上のための様々なサポートを受けることも期待できます。

 

3.事業会社/CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)

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さらに最近では、事業会社や、事業会社が自社内で組成したファンドが、ベンチャー企業に投資をする、というケースも増えてきています。事業会社とベンチャー企業との提携関係を強めるなどの目的で、投資をするというケースがあるようです。

 

■まとめ

以上、ベンチャー企業における資金調達の手法やプレイヤーについて、その概要をご案内いたしました。以上のとおり、ベンチャー企業による資金調達については、多種多様な手法が考案されていますので、手持ち資金が少なくても諦めず、起業の道を歩んでいただければと思います。
 

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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