ベンチャーをサポートする法知識[3]

【ベンチャー企業法務】起業時の資金調達に重要な「資本政策」~法的注意点や具体的な方法は?~

GVA法律事務所

弁護士

鈴木 景

編集/武居直人(リブクル) | 2018.06.29

ベンチャー企業にとって、アイデアが最重要であることは言うまでもありませんが、「資本政策」を考えることは、アイデアを考えることと同様、最も重要な準備のひとつといえます。本記事では、ベンチャー企業における資本政策について、法律の観点から策定方法や注意点について解説します。

GVA法律事務所 弁護士 鈴木 景(すずき けい)

2009年弁護士登録。都内法律事務所、企業法務部を経て、17年、GVA法律事務所に参画。ベンチャー企業のビジネス構築や、国外進出、企業間のアライアンス等を法務観点からサポートしている。

©Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

 

起業時に準備すべき「資本政策」とは

ベンチャー企業が株式で資金を調達する場合、いつ、だれから、どれくらい資金を調達し、それに対してどれくらい株式を交付するかを考えることが重要です。これを「資本政策」といいます。

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資本政策の重要性

では、なぜ創業時から資本政策を考えることが重要なのでしょうか? 資本政策について何も考えずに走り出した場合のシミュレーションをしてみましょう。

ベンチャー企業を創業した場合、まずは、当面の活動資金を手に入れる必要があります。代表者が資産家で、数千万単位のお金を自分で用意できる場合には、代表者が株式を100%保有し、自分の資金を資本金として活動をすればよいですが、大抵の人は、そんなにお金を持っていません。また、研究開発が先行するようなビジネスを興そうとする場合には、より多くのお金がスタート時から必要となるでしょう。ですので、お金を持っている方々に、自身の会社の株式と引き換えに、資金を拠出してもらう必要があります。

仮に、知人の紹介で出資してもいいと言ってくれる方が見つかったとしましょう。この時点では、企業は何も活動をしていませんから、現時点での売上はなく、したがって、その企業の今の価値は、ほとんどその企業が実現しようとしている「夢」の価値や、代表者(と他のメンバー)のポテンシャル(「夢」の実現可能性)と、ほぼイコールと考えられます。この状態では、この企業の株式の価値は未知数といえるでしょう。これはすなわち、「投資家との交渉によって値段が決まる」ということと同義と言えます。

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ここで、もし資本政策を用意しておかなかった場合、どうなるでしょうか?

投資家は、リスクが高くなればなるほど、高いリターンを求める傾向にあります。そして、今この会社は、何らの売り上げもなく、あるのはその会社が実現しようとしている「夢」の価値のみであり、会社の一生の中で、投資するにはもっともリスクが高い時期といえます。

したがって、投資家の心理として、よりリターンを高めるため、より多くの配当(インカムゲイン)や、より多くの売却益(キャピタルゲイン)を得ることを考えます。そして、これらを実現するためには、より多くの株式を持っておくことが必要になりますので、投資家は、自分が投資するお金に対して、より多くの株式を交付するよう、起業家に求めることが考えられます。

仮に起業家側で資本政策を用意しておかなかった場合、起業家としては、お金欲しさに投資家の言うとおりに株式を交付してしまうということもあるでしょう。そうすると、創業の時点で大半の株式を投資家側に持たれてしまうことになり、その会社の経営権を投資家に握られることにもなりかねません。

また、創業当初は個人投資家から出資を受けることも多いと思いますが、特定の個人投資家が多くの株式割合を保有していたり、すでに多数の個人投資家がいる場合には、後から参入しようとする投資家が、投資しづらい環境と評価する可能性もあるでしょう。

このように、野放図に資金調達をしてしまうと、創業当初から会社の経営権を喪失してしまったり、将来の資金調達の可能性を狭めることにもなりかねません。

資本政策が必要な理由のイメージ図

※編集部作成

一方で、自ら資本政策を策定している場合はどうでしょうか?

まずは、投資家側から交付する株式数について提案された場合でも、資本政策をベースにして自身の方針を説明し、交渉することができます。これによって出資を断られるケースもあると思いますが、それでも複数の投資家に打診し、理解を得られる個人投資家から投資をしてもらうことができれば、企業にとって大きな財産となります。

また、資本政策を作成することによる付随的な効果として、自社の事業計画を数字を伴って論理的に説明することにもつながり、結果として投資が受けやすくなることも期待できます。

さらには、資本政策を策定することによって、計画と実績との乖離についても確認しながら事業を進めることができ、事業のPDCAにも資する面もあるでしょう。

このように、ベンチャー企業を創業しようとする場合には資本政策をきちんと作っておかなければ、その後の会社経営に大きな悪影響が生じる可能性が極めて高いといえます。株式は、一度交付すると、買い戻したり放棄させたりすることは至難の業です。その意味で、一度進んだら後戻りができません。創業当初から、自社の資本政策について慎重に策定していくことがとても重要です。

 

法律面から考える、資本政策の策定方法(株式持分割合について)

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では、具体的にどのようにして資本政策を策定していけばよいでしょうか?

この点は、色々な角度からの検討がありえますが、ここでは、法律面から資本政策について考えてみましょう。

資本政策に関係する法律として、「会社法」があります。資本政策は、株式の持分割合に関する計画ですので、「どのくらいの割合を持っていれば、何ができるのか」を把握する必要があり、これを定めているのが会社法です。

以下では、会社法で出てくる持分割合について、ご紹介していきましょう。

会社法の持分割合

このように、3分の2超の株式を保有しておけば、会社の重要事項について自由に決定することができます。逆に言えば、3分の1超を1人の投資家に保有されてしまうと、会社の重要事項については、その投資家のイエスをもらわなければ決定できなくなってしまいます。したがって、この点には注意をしておく必要があるでしょう。

また、以上のとおり、株式の保有割合が大きければ大きいほど、会社の意思決定に対する権限は大きくなります。会社が成長する過程で、ベンチャーキャピタルをはじめとした様々な投資家から出資を受ける機会があると思いますが、それにより、代表者や創業メンバーの株式比率は薄まる一方です。どこかのタイミングで、創業メンバーが50%以上の株式を持つことが難しくなることがくることも予想されますが、まずは、なるべく株式を創業メンバーにとどめておく(逆を言えば、株式の放出をなるべくしない)形で資金調達できるよう、資本政策を策定する必要があります。

 

創業メンバー間の株式の取り扱い

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また、資本政策と同様に考えておかなければならないのが、創業メンバー間の株式の取り扱いです。創業メンバー間の株式については、メンバー間で「創業株主間契約」を締結して、その取扱いを決めておく必要があるでしょう。特に決めておかなければならないのが、「仲違いしたときの株式の取り扱い」です。

会社としては、メンバーが会社を辞める場合には、株式を買い取れる状態にしておいた方がよいでしょう。なぜなら、メンバーが株式を保有したまま会社を辞めてしまった場合、そのメンバーは、辞めてしまった以後もずっと、会社の株主であり続けることになるわけです。そうすると、会社としてはそのメンバーを株主として取り扱わねばならず、株主総会を開催する際には招集通知を送るといった対応を取らなければなりません。

そのメンバーの所在が明らかであればまだよいのですが、外国に行ってしまった、連絡が取れなくなってしまった、などの事象が生じた場合、そもそも招集通知すら送ることができず、株主総会を適法に開催することができなくなってしまいます。

株主総会を適法に開催できないとなると、その点がネックとなって投資を受けられなかったり、バイアウトや、IPOにも支障が生じる可能性があります。

よって、会社としてはできればメンバーが会社を辞めた場合に、株式を買い取れるように創業株主間契約で定めておいた方がよいでしょう。

一方で、メンバーとしては、「数年間がむしゃらに働いてきたのに、株式もくれないのか、退職金代わりに株式が欲しい」、という思いを持つことも多いでしょう。そのため、創業株主間契約では、在職期間に応じて、退職後も株式の保有を許容する旨の条項を設けることもあります(ベスティングなどと呼ばれます)。

メンバーの強い意向でベスティング条項を設ける場合、会社としては上記のようなリスクがあることを認識したうえで、その回避策としてなるべく穏便に辞めてもらうことや、退職後も良好な関係を築いていくことが必要になると思います。

 

まとめ

以上、今回は資本政策と創業メンバー間の株式の取り扱いについて、概略をご紹介しました。この記事が、起業を考えているみなさまの一助となれば、幸いです。

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株式会社アカツキ

共同創業者 代表取締役 CEO

塩田 元規

「ハートドリブンな世界へ」というビジョンの下、モバイルゲームとライブエンターテインメントの2軸で事業を展開するアカツキ。ゲーム「ハチナイ」の初アニメ化や、横浜のエンタメビル「アソビル」、東京ヴェルディの事業・運営サポート、海外のeスポーツリーグの設立など、猛スピードで活動の幅を拡大する同社の原動力とは。
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