刺激空間から革新が生まれる

「創造的破壊」から世界最先端のクリエイティブを発信

株式会社TBWA HAKUHODO

代表取締役社長兼CEO

佐藤 雄三

写真/宮下 潤 動画/アキプロ 文/福富 大介 | 2016.02.10

元はアミューズメント施設用の広大な空間を敢えてオフィスに転用。既成概念を打ち破る姿勢こそが、TBWA HAKUHODO らしさだ!

株式会社TBWA HAKUHODO 代表取締役社長兼CEO 佐藤 雄三(さとうゆうぞう)

1986年に株式会社博報堂に入社。2002年よりTBWA HAKUHODOの前身である株式会社博報堂ジーワン第三営業部長を経て、2006年TBWA HAKUHODOの設立と同時に執行役員兼メディアマネジメント局長に就任、その後、CFO、日産ビジネスユニット長を歴任し、同社の成長に大きく貢献。2015年4月から現職。

すべての判断基準は“ディスラプティブ”かどうか

2フロアぶち抜きの高い天井、壁や柱がない広大なスペース、そこここに点在するガラス張りの“小山”。佐藤氏が代表を務めるTBWA HAKUHODOのオフィスは、およそ一般的なオフィス空間の概念からはかけ離れている。同社は総合広告会社であり、クリエイティビティが求められる業種とはいえ、この突き抜け方は桁外れだ。

「我々はTBWAというグローバルネットワークの会社と博報堂のジョイントベンチャーとしてスタートしました。博報堂には“生活者発想”というフィロソフィがありますが、そこにTBWAのメソッドである『DISRUPTION®』を融合。

『DISRUPTION®』は“創造的破壊”などと訳され、既存の概念にとらわれずに新しい試みに挑戦するチャレンジスピリッツを表現するものと位置づけています。このオフィスもその考えをベースにできており、オフィス空間自体がTBWA HAKUHODOそのものだとも言えます」

メインとなる5階、6階の他に1階と9階にもオフィスがあり、それぞれデザインは異なるものの、貫かれているコアコンセプトは全て「DISRUPTION®」なのだ。

「壁や柱のないワンフロア構造であるため、一般的なオフィスのように部門部署や機能ごとの明確な区分けがありません。非常に人の行き来がスムーズで、開放感もある。今は計画通りにものが生み出される時代ではなく、偶発的なものへの期待が大きくなっている。このオフィスがもたらす融合や誘発が、これまで考えもしなかったものを生み出すきっかけになるのです。

実際に5階フロアのセンターには『ディスラプションコート』と呼んでいるカフェスペースがあり、コーヒーを飲みながらたまたま始めた雑談から、世間をあっと言わせるような企画がいくつも生まれています」

広大なフロアを見渡したときに点在する箱状の“小山”も大きな特徴のひとつだろう。

「“小山”の正体はマネジメントの個室や会議室です。壁にあたる4面の内2面がガラス張りになっており、中の様子は丸見え。当然私が中で何をやっているのか、同じフロアの社員なら全部わかります。この部屋のドアが開いているときは、アポがなくても入ってきていいというルールにしていますから、社員が何か相談したいときに、部屋の外から様子をうかがって、気軽にやってきます」。

この風通しの良さも、このオフィスならではだ。

社長室にはもうひとつ大きな特徴がある、それが壁に掲げられたドクロマークの海賊旗。

「TBWAネットワーク『TBWA CHIAT DAY』の伝説的なクリエイター、リー・クロウが『我々は海軍ではなく海賊であるべきだ』と海賊旗を掲げたのが発端です。海軍は規律正しく動くエリート揃い。でも、その海軍を混乱させ、時として勝利するのが海賊です。縦横無尽に動いて、一人ひとりに個性があり、どこから攻めてくるかわからない、そういう存在でありたいという思いが込められています」

2016年で10年目になるこのオフィスは、少しずつアップデートを重ねている。オフィスのメインエリアとなる5階では、昨年は2つのアップデートを行った。

「ひとつは通称“ファミレス”と呼ばれる打合せスペース。開放的な空間も良いが、少し込み入った話をしたいときに、ファミレスにあるような背の高いソファがちょうどいいという意見を受けて導入しました。もうひとつはスタンディングで使う会議室。こちらは会議時間の短縮に一役買っています」

2015年にできた打合せスペース、通称「ファミレス」。ファミリーレストランにあるような背の高いソファが印象的だ。フルオープンではない、セミクローズドな空間だからこそ話しやすい議題もある。閉鎖的ではないのに集中できると、社員の評判も上々だ。

スタンディングでの利用を前提とした会議室。立ったまま軽く腰かけられる椅子はあるが、グラグラと動くため腰を落ち着かせることはできない。広告業界といえば長時間に及ぶ企画会議がお決まりだが、この会議室で行われる会議は自然と短時間で終わる。

これらのオフィスに対するアイデアは、総務などいわゆるバックオフィスのチームから出てくることが多い。クリエイティブを本業とする社員以外にも「DISRUPTION®」の精神が浸透している証拠だ。

また、TBWA HAKUHODOの中で最も新しいフロアである9階では、「TBWA HAKUHODO QUANTUM」という、広告ビジネスを超えた新規事業を行う組織のメンバーが集まっている。

「TBWA HAKUHODO QUANTUMのテーマはイノベーションです。CMをつくってテレビで流すという既存の広告ビジネス、またデジタルやグローバルといった仕事の伸ばし方を超えて、我々はもうひとつ“イノベーション”という領域で広告会社の強みを出していきたい」

【QUANTUM「KOBO」】9階はイノベーションがテーマのTBWA HAKUHODO QUANTUMが入るフロア。3Dプリンターをはじめとする各種工作機器を備えた工房で、生み出されたアイデアが手に触れられる形になる。アイデアが形になるプロセスを一望できるように、廊下側の壁はガラス張り。

9階では、5階、6階とは全く趣の異なるコンクリート打ちっぱなしのスペースに、アイデアを実際に手に取れる“カタチ”に変える3Dプリンターなどの工作機械が並ぶ。その様子は、まるで多くのベンチャー企業を生み出したシリコンバレーのガレージオフィスさながら。ここでIoT(インターネットオブシングス)に代表される同社の最もイノベーティブな取り組みが行われている。

「“場”がもたらす効果は非常に大きい。オフィスを構えるには大きな資金が必要。でもアイデアひとつ、工夫ひとつで何かが偶発的に生まれる場をつくることができるはずです。どのような規模にもかかわらず、“場”をひと工夫してほしいと思いますね」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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