ヒラメキから突破への方程式

適正価格が価格破壊に

「スマ婚」でブライダル業界に新風呼んだ無駄なしスマート発想

株式会社メイション

代表取締役社長兼CEO

近藤 浩

写真/芹澤裕介 文/松本 理惠子 動画/ロックハーツ | 2017.08.10

破格の自己負担額で結婚式を挙げることができる「スマ婚」 を生み出したメイション。業界に“適正価格”を持ち込んだ近藤浩社長の前には、当初、既存の業界体制の壁が立ちはだかったという。しかし、ある出来事から急転、道が開けていく――。いまや1万組の挙式・披露宴をプロデュースするまでになったメイションの創成期を追う。

株式会社メイション 代表取締役社長兼CEO 近藤 浩(こんどう ひろし)

1974年生まれ。愛知県出身。地元私立大卒。卒業後は営業職に就いた後、株のデイトレーダーへ転身。2003年、小学校の同級生と、結婚式の2次会幹事代行業を事業とする有限会社メイションを愛知で起業。2007年、東京に本社移転。2010年、LMNホールディングス株式会社に社名変更し、株式会社メイションを新設分割により設立。

従来の6割弱で収まる衝撃ブライダル

自己負担16万8000円からできる結婚式「スマ婚」。この驚きの低価格は世の中に大きなインパクトを与えた。ブライダルの価格破壊ともいえるこの料金設定について、同サービスを手がけるメイションの近藤社長はこう語る。

「私はこれが結婚式の適正価格だと思っています。結婚式の本質は、事前にパートナーを親戚や知人に紹介し、両親に感謝を伝えることです。それをするのに、何百万もお金を用意しないとできないというのはおかしいでしょう。基本料金16万8000円は、高卒の初任給の平均値を意識しました」

基本料金のみ新郎新婦が負担し、それ以外はご祝儀で賄う仕組みだ。従来の挙式披露宴の平均費用が約360万円(「ゼクシィ 結婚トレンド調査2015調べ」)なのに対し、「スマ婚」では平均約200万円。従来の6割弱で収まる。

近藤社長が「スマ婚」をスタートさせたのは2008年。それ以前に提供していた結婚式の2次会代行サービス「2次会くん」の顧客からの問い合わせが、新サービス発想のきっかけだった。

“誰もやっていないこと”なら勝負ができる

近藤社長は大学卒業後、株のデイトレードで生計を立てていた。だがある日、株価に一喜一憂するだけで、世の中の役に立てていないことに虚しさを感じるようになったという。そんななか、近藤社長にある思いが芽生える。チームでミッションを達成し、人々に喜んでもらうことがしたい――。

ビジネス経験の少ない自分たちが勝負するには、“誰もやっていないこと”をやるしかないと考えた。そんなとき、当時役者だった友人が結婚式の2次会で司会進行をすると、一般の人が進行するよりも場が盛り上がることに気づく。

「人前で話したり、場を仕切ったりするのは経験やスキルが要ることです。素人がやるには荷が重く、幹事を任されて困っている人が多くいるのではないかと思いました。実際、アンケートを取ってみると『2次会の幹事は二度とやりたくない』という声が99%にもなり、これはビジネスになると思いました」

「2次会くん」をスタートさせると、早速2次会を行なう会場が借りられないという壁にぶち当たる。半年間で100軒を回り、契約が取れたのはたった4軒だった。だが、すぐに転機が訪れる。

「やっと契約してくれた1軒で2次会をやったところ、お客様から大きな反響をいただき、そこのオーナーが知り合いの飲食店を紹介してくれました。それが弾みに。また、メディアから取材を受けたことも、サービスを知ってもらうきっかけになりました」

»「スマ婚」「2次会くん」ブランド化の秘密 メイションのメディア戦略

「スマ婚」でブライダルの既成概念に挑む

「2次会くん」が軌道に乗ってくると、次第に「結婚式の披露宴もやってもらえませんか」という要望が増えてきた。聞くと、「費用が高すぎて披露宴をやりたくてもできない」という。それならと考えたのが、適正価格で披露宴ができる「スマ婚」だ。

「『スマ婚』とは、スマートな結婚式という意味です。“安い”価格ではなく“賢い(スマートな)”価格。無駄なコストや不透明な手数料などを一切排除し、新郎新婦の好きなように結婚式を組み立てられるようにサービスを設計しました」

ユーザーの多くは、結婚式をスマートな価格でできたことに加え、“自分たちらしくできる”ことに対する満足度が高いという。

そもそも、なぜ結婚式が高額になるかというと、そこに“式場の論理”があるからだ。従来の結婚式では、ドレスや撮影、装花などを式場が指定する専属業者に頼むことになる。専属業者以外に頼むと“持ち込み料”がかかるのが常識で、自分たちで手配するハードルは思いのほか高い。

そのため、式場優位で価格が設定されてしまうのだ。この旧来のシステムを、近藤社長は「スマ婚」で根底から覆した。

「『スマ婚』は自社会場を持たず、提携会場の中からニーズに合わせた会場をご提案します。また、専属業者も持ちません。どこの業者に頼むのも新郎新婦の自由で、持ち込み料も無料です。“既成概念はすべて疑え”という信念で、常識や伝統にとらわれず、本当に必要なものは何かを突き詰めていったら、このスタイルになりました」

「ビーチ婚」「1.5次会婚」に象徴されるように、時代の変化によって多様化するニーズをキャッチアップする嗅覚は鋭い。

当然、というかやはり、この価格破壊に対する既存のブライダル会社からの反発は強かった。

「予想はしていたものの苦労しましたね。ただ、地道に営業していくと『実は旧来のシステムに疑問を感じていた』という企業も出てきて、私たちの“取引先間の自由競争を促す”という考えに対する賛同は増えていきました」

そうやって徐々に協力者を増やし実績を積むことで、その後、「スマ婚」は業界での存在感を強めていく。

「どんなビジネスでもそうですが、市場では“お客様に認められた者勝ち”です。顧客に求められるサービスを真面目に提供していけば、必ず居場所はつくれます」

旧態依然のブライダル業界に風穴を開け、新たな価値観を創出した近藤社長。その根底には“徹底した顧客目線”と“既成概念への挑戦”があった。

SUPER CEO Back Number img/backnumber/Vol_56_1649338847.jpg

vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
コンテンツ広告のご案内
BtoBビジネスサポート
経営サポート
SUPER SELECTION Passion Leaders